残響世界の聖剣譚 -VRMMOで鍛えた魂で侵食されるこの世界を守ります-   作:気力♪

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狂乱の王都

 自身が第0アバターであることを自覚したタクマだが、すぐに行動を起こすという事は難しかった。

 

 現在、タクマはうつぶせに倒れたままだ。そして、その体は鉛のように重く動けない。

 加えて言うなら、助けを求める声を出すこともできない。

 

 そんな、何もできない状態にタクマはあった。

 

『マスター、ここはログアウトいたしませんか?』

『ああ、さすがに何もできない』

 

 そうして、タクマはしぶしぶとメディによるメニュー操作により《Echo World》からログアウトするのだった。

 

 ■□■

 

 そうしてタクマは現実世界で目を覚ます。現在、客間の布団で横になっている姿勢だが、どうにも近くに人の気配がある。

 起き上がり、その方向に目を向けようとすると体の調子がひどく悪いことに気が付いた。

 

「あ、ゲーム終わったんや」

 

 その言葉を発したのは美緒だ。コンソールで姉のプレイを見ながら、同時に何かの読書をしていたようだった。

 彼女は、どことなく嬉しそうで、しかし琢磨の顔を見ると心配そうな顔に変わった。

 

「ちょっと琢磨くん、大丈夫なん? 顔色悪いで?」

「大丈夫じゃないかもしれません。体がかなりしんどいです」

「風邪でもひいたん? ってのはメディちゃんがいるからすぐにわかるか」

『はい、現在マスターの体をチェックしている最中です。マスター、動けますか?』

「ああ、しんどいがゲームの中ほどじゃない」

 

 そうしてタクマはメディに言われるがままに体を動かし、細かな体調変化を測定していく。

 

『マスター、結論から申し上げます』

「マジで風邪でもひいたか?」

『いえ、マスターの体は正常です。しかし、重度の疲労状態にある……と肉体動作チェックからは予測できます』

「なんか歯切れ悪そうな結論やね」

『ええ、体に疲労物質は溜まっていませんから』

 

「……つまり食って寝てれば直るのか」

『断言はできませんが、おそらくは』

「なら問題ないな、どのみち今日はもうログインできないだろうし」

「なら、お姉も起こしてお昼にする?」

『それではお願いします。できるだけ滋養に良いものを』

「了解やわー」

 

 そうして手に持った端末で美緒はドリルにメッセージを送った。

 それから数分後に、瀬奈は起き、琢磨も思い体を引きずって起き、3人での昼食をとった。

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

「それで、タクマくん」

「どうしました? 美緒さん」

「しばらくログインできんくて暇と違う?」

「まぁ、デスペナうんぬんの前に体調整えないとまずいですからね」

「体調? タクマくんどこか悪いんですの?」

「疲れただけです、多分」

「……旅の疲れが出たのでしょうか?」

『一応魂のダメージが原因ではないかと仮説は立てていたのですが、そちらの線もありそうですね』

「なら、タクマくんも一緒にお姉の活躍を見いひん?」

「少し恥ずかしいですわね、それは」

「ならお言葉に甘えて」

 

 そうして、食器などを片付けたタクマ達は、瀬名の部屋へと赴くのだった。

 

 ■□■

 

 そうして瀬奈がプリンセス・ドリルとしてログインしてから1時間ほど。

 

 そこに見えた映像は、まさしく戦場だった。

 これまでのモンスターとの生存競争ではなく、人と人とが殺し合う狂乱の戦場。

 

「ドリルを守れ! こいつが死んだら歌に侵されるぞ!」

 

 その声は長親のモノだ。聞こえる歌はどこからのものかわからない。しかし、歌に侵されたものは例外なく戦場の狂気に飲み込まれる。

 

 ()()()()()()()()()()()()のだってその例外ではないのだ。

 

 そうして、国民すべてが戦えてしまう事が原因による終わりのない戦いは続いた。

 

 

 

 

 その始まりは、アルフォンスを処刑するという声が王都中に鳴り響いたことだった。

 

 王都の噴水前広場にて右足を失ったアルフォンスが縛られて転がされている。

 処刑だと言い出したのは民主主義派の”過激派”のトップらしい男”マクベス”。その声は誰かの力によって広げられ、王都中に広がった。

 

 民主主義側、王族側によらずその声に反応したものは多く、王都中の人間が噴水前広場に集まった。それぞれの思想と、現状への怒りをもって。

 

 そして噴水前広場に多くの人が集まったその時、歌が聞こえ始めた。

 

 それは、まぎれもなくアルフレシャの歌だった。

 

 その歌と共に上空に現れたのは”人魔アルフレシャ・リコリス”。黒衣の強弓使いの女だった。

 

 その女は空からただ歌っているだけ、何かを起こすような気配は全くない。

 

 しかしそれだけで、王都に住む人々は()()()()

 

 感情のブレーキが利かなくなったマクベスは、アルフォンスの首を落とした。

 

 その姿を見たラズワルドは、マクベスを周りの被害も関係なく極光にて切り殺した。

 

 そのラズワルドを見て”王族は民を殺す敵なのだから”と間違った覚悟を決めて立ち向かう民衆たち。

 

 その後、ラズワルドは数十人の市民を切り殺したのちに唐突に自刃した。

 

 そのことで暴走するのは騎士たち、彼らの理性は消え、民衆への怒りだけで虐殺を開始した。

 それに対抗して民兵も誰彼構わず殺しにかかった。

 

 彼らは同じ王国市民、敵味方を区別する都合のいいものなどどこにもない。

 

 それが、目の前の者は全て殺すべき敵であるとこの国の全員が判断した理由である。

 

 

 だが、一人だけその狂気の激流に立ち向かう者がいた。

 

 彼女は、高らかに槍を掲げ、歌うように己を解放する。

 

聖剣抜刀(ゲートオープン)!」

 

 その彼女を中心に広がる螺旋のエネルギーはその干渉を受けた者を歌の影響から逃れさせた。

 それはあまりのことに茫然としていたプレイヤーや、感情に左右されない行動理念を持つ者、そのような少ない面々だったが、それでも少数のグループとして声を上げたのだ『戦いを止めろ』と。

 

 それが、今から5分前の出来事。

 

 そして、5分の間にドリル陣営は崩壊しかけていた。激しすぎる狂気の激流によって。

 

「なぁ、何でこの人ら殺すのを止めないん?」

『直前までの狂気の行動を間違いだったと認められないのでしょう。人殺しは、重いですから』

「本当に、そうなんだよな」

 

 そうして琢磨は無言で《Echo World》へとログインをする。しかし未だに第0アバターのままで、ワールドに転移することはできない。

 そう、無情に表示されていた。

 

「どうしたら、いいのかね?」

「……お姉、大丈夫やろか。これがゲームオーバーになったらまた異界が生まれるんやろ? お姉を中心に」

『もうじきゲームオーバーの可能性があると警察や特殊部隊には連絡できています。以前のように十分な戦力で立ち向かえるでしょう……というのは、気休めでしかありませんよね』

「うん、正直ホンマ怖い」

 

 そうして、思い出して震える肩を抑えながら、縋るように美緒は言う。

 

「けど、琢磨くんならなんとかしてくれる──なんてのは都合良すぎ?」

 

 その声に琢磨とメディは、反射的に応えた

「『任せろ』」と。

 

 それは琢磨自身もメディもふとこぼれてしまった言葉だ。だがしかし、それは二人が無意識に思っている本音だった。

 

 親しい人を助けたい。親しい人を守りたい。

 

 そんな”当たり前”が、琢磨とメディの中で噛み合った瞬間だった。

 

 魂が、”行け”と言っているように聞こえたのは。

 

『マスター、ログイン準備を』

「もうしてる」

「琢磨くん? メディちゃん?」

「とりあえず、ゲームに入るだけ入ってみます。まだゲームオーバーではないみたいですから」

臆病者の剣(チキンソード)の回収が最優先です。以降は徹底的な遅延戦闘を推奨します』

「ゲームオーバーまでの時間を少しでも稼ぐ、まずはそれからだ」

 

 琢磨とメディのその様子を見て、美緒は”これはもう止まらない”ということを感じるのだった。

 

 ■□■

 

 

 そうして、タクマはログインに成功する。体は重いが、不思議と胸の奥から力が湧いてくるような感覚が止まらない。

 

「メディ、わかるか?」

『さて、都合がいいとしかわかりませんね』

「まぁ、考えるのは後で良いか!」

 

 その言葉と共にタクマはその胸の奥からの力を使って、生命転換(ライフフォース)を身に纏う。

 

 次第に体は形作られていき、何かが呼んでいるという強い感覚がタクマをそのままワールドへの転移に導いた。

 

 そして、ワールドに転移した瞬間に王城は爆発し、城壁が雨のように飛んでくる中で、タクマとメディは右手を上げた。

 

 

 そして、掴み取る。瓦礫と共にタクマの元に飛んできた一本の剣を。

 

 それは、武骨な剣だった。装飾はなく、肉厚のロングソード。

 一度折れたことで、より頑丈に仕立て上げられたその剣は、タクマの手と魂に良くなじんだ。

 

 そして同時に感じる。この剣を打ち直した鍛冶師の純粋なる(おもい)を。

 ”生き残ってほしい”、その想いがタクマにこの剣を届けてくれたのだと直感した。

 

「行くぞ、臆病者の剣(チキンソード)!」

『私たちと、共に!』

 

 そうしてタクマは愛剣を両手で持ち、タクマの最速で戦場へと赴くのだった。


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