灯火の鬼となる   作:零℃

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プロローグ
死の淵


とある田舎、ある村の隅の孤児院、深夜だというのに赤ん坊を連れた女が一人

その赤ん坊を抱く腕に我が子であるという自覚はなく、どこか鬱陶しさを含んでいる

 

その女は孤児院の玄関をノックすると中から出てきた職員に押し付けるようにして赤ん坊を渡した。

そのしぐさはひどく一方的で職員も戸惑っていたが、不遇な赤ん坊のことを思って素直に受け取った

 

「あなたも可哀そうね・・・今の時代あんな人がいるから怖いのよ、大丈夫ですよ、あなたは私たちが責任と愛情をもって育てますからね」

 

そして(ひいらぎ)孤児院の院長である咲良琴音(さくらことね)は赤ん坊を愛おしそうに抱きかかえながら孤児院の中に入っていった

 

 

 

それから十年・・・

 

「優斗‼今日こそお前に勝ってやるからな‼」

「上等だ灯夜‼今日も()()は俺のもんだ‼」

 

それぞれ灯夜、優斗と呼び合う少年たちは活気よくお互いを見据えていた。

自分たちが手に入れたい最高のモノを求めて勝負をするために

 

「じゃあいくぞ!」

「「じゃ~んけん‼」」

 

その日勝ったのは連日続けて優斗だった。

 

「今日のおかわりゲット~くぅ~!やっぱり勝負で勝ち取った飯は美味いぜ」

「なんで勝てないかなぁ・・・ぼくだっておかわり欲しいのに・・・」

 

灯夜は机に伏せながら悔しそうに言った。

その瞳には心なしか涙が浮かんでいる、さすがに連日連敗では泣けてくるのも納得がいく

 

「灯夜はわかりやすいんだよ、ていうかだいたい最初に出すのがチョキだし」

「ぼくってそんなにわかりやすいかなぁ・・・」

 

夜ご飯の残り物であるカレーを賭けたじゃんけん対決は幕を閉じ、争奪戦のために最後まで残っていた二人以外誰もいなくなった孤児院の食堂で二人は口いっぱいにカレーをほおばる。

子供に合わせた甘口で、それなのにどこかスパイシーでとても美味しい

 

そんな絶品を味わっていると食堂に一つしかない扉から誰かが入ってきた

 

「あら、二人ともまだ残ってたの?もうすぐ入浴の時間ですよ?いっぱい食べてくれるのは嬉しいけど、ちょっと急ごうね?」

 

優しい声色で灯夜たちに語り掛けてくる女性は院長だった。

長い黒髪に美人な院長は誰からも好かれている、おそらくこの女性のおかげで灯夜は優しい性格になれたのだ。

 

「院長先生・・・また負けちゃった・・・」

「先生‼また灯夜に勝ったんだぜ‼これで五日連続だ‼」

 

そんな二人を見つめる院長はどこか嬉しげで、実の子ではないにしろ、大きな愛情を持っていることがひしひしと伝わってくる。

 

「優斗くんはいつもすごいね、でもたまには灯夜君にも分けてあげてね?」

「わかってるよ、でも灯夜が嫌がるんだよ」

 

院長はそうなの?と聞くと灯夜は言った

 

「勝負なんだから、負けたぼくがもらうのは、変、だと思う」

 

院長は灯夜の意見を聞くとうんうんといった風に灯夜に言う

 

「灯夜くん、確かに勝負は大事よ?でもねそれ以上に思いやりが大事なの、みんながどんな時も相手のことを思っていれば、きっと勝ち負けより大事なものが見えてくるわ、それと、親切にしてくれる人を傷つけちゃだめよ、優斗君だって、灯夜君に食べてほしくていらないか聞いてるんだよ?だから親切にしてくれる人の好意を無下にしちゃだめなんだよ」

 

灯夜にとって勝負は絶対で、負けたものは弱い、勝ったものは強い、そのくらいしか考えがなかった。

 

「ぼくは、それでもやだよ・・・強くなりたいもん・・・みんなを守れるくらい院長先生も、優斗も他のみんなも」

「そっか・・・じゃあ強くなってみんなを守ってね?ヒーローさん」

 

院長は灯夜の頭にポンと手を置き撫でた、まるで実の息子のように

 

「さぁ、早く食べてお風呂に行ってらっしゃい、お片づけは私がしておくから」

「「はーい‼」」

 

 

~風呂場にて~

 

 

「なぁ灯夜」

「ん~?」

 

優斗が珍しく灯夜にどこか儚げな声で話しかけてくる、いつも活発で明るい優斗のイメージがあるので、灯夜は少し驚いて間延びした返事をしてしまった

 

「なんかさぁ・・・こんな毎日が続けばいいよなぁ、美味しいごはんがあって、おかわりを灯夜と毎日じゃんけんで取り合って、院長が優しく呼んでくれて」

「幸せ、だよね・・・」

 

二人は孤児院の広いお風呂の天井を見上げながら語り合う、まるで小説のワンシーンのように。

 

「じゃあぼくはそろそろ上がるよ、先に寝てるね?」

 

そう言って灯夜は自室へと戻った

 

 

 

誰もが寝静まった深夜・・・その違和感は訪れた。

 

熱い、熱いのだ、毛布の掛けすぎや暖房機器の効きすぎなどではない、体が炙られているように熱い

灯夜は慌てて体を起こした、すると‐‐

 

燃えて、いるのだ。

比喩表現ではない、実際に燃えている。

床が壁が、すべて燃えていた。

 

灯夜は無我夢中で玄関に向かって走り出した。

何とか外に出ると地獄が目の前に広がっていた。

 

昼間遊んだばかりの遊具が、朝掃除したばかりの床が、先ほどまでいた食堂が、一つの例外もなく燃えている

孤児院の中からは仲間たちの声が聞こえる、助けて、熱いよ、誰か・・・そんな声が村中に響き渡る。

 

灯夜はそんな声を聞いて何もできなかった

 

「誰か‼誰かいませんか‼」

 

院長先生の声だ、灯夜はその声に反応して玄関近くまで来るも炎が壁を作り中に入ることはもう不可能だ。

 

「先生‼ぼくです‼灯夜です‼」

「灯夜君!?よかった、脱出できたのね!?じゃあ助けを呼んできてくれないかしら‼誰でもいいから大人を呼んできて!私は中にいるみんなを助けてくるから」

 

院長先生は灯夜にそういうと足早にその場を去った

 

「行かないと・・・!!」

 

灯夜は走った、普段より早く、みんなが死んでしまうと考えると居ても立っても居られなくなって。

孤児院から一番近い家に着きそうなときに、灯夜の意識は刈り取られた。

 

 

 

 

「ぅぅん・・・あ、れ?ここ、どこ?」

 

気づけば、どことも知れない港だった、しかし異常性はそこではない、灯夜は()の中で十数人の同年程度の男女が入れられていた。

 

「あ、気づいた?」

 

とその中にいた一人の女の子が話しかけてきた、銀髪の、小柄で可愛らしい女の子だ、赤い目でおそらく日本人ではないんだろう。

でもなぜか日本語が上手だった。

 

「うん・・・君は?ここはどこなの?っ!?あと‼孤児院は!?先生たちは!?」

 

思い出した、孤児院が燃えてて・・・助けを呼びに行って、そこから・・・

 

「一旦落ち着いて?孤児院って言うのはちょっとわかんないけど、ここは船の上だよ、私たち、運ばれてるんだ・・・」

「運ばれてる・・・?なんで?」

 

灯夜も内心少し気づいていた、しかし孤児院のみんなのことが心配で気にする暇がなかったのだ。

 

「なんでって、奴隷として売られるからだよ」

 

その銀髪少女はさも当然のように言い放った、その雰囲気に自分が異常なのかという錯覚さえ覚えるほど、彼女の言葉は素直だった

 

「あのッ」

 

声を出そうとした時だった、誰かが檻の前までやってきた。

長身で大きい体格の男だった、その風体はまるでドラマや映画に出てくるアメリカのマフィアだ。

先ほど少女から聞いた奴隷売買、その信憑性の増していった。

 

「うるせぇガキ共だ、まぁせいぜいいい金になってくれよ)」

「ッ・・・」

 

圧倒的な威圧感、絶対に逆らうことはできないと、本能が告げていた

 

「そろそろ着くみたいだよ」

 

 

少女がそういうと、視線の先にどこの国ともわからない港の明かりが見えた。

 

 

 

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