灯火の鬼となる   作:零℃

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一幕

灯夜の部隊入隊の挨拶とその後の訓練が終わって、日が沈む時刻になり灯夜を含めた黒ウサギ隊の面々は食堂へと向かっていた

灯夜と千冬が話していたカフェエリアからほど近い場所にある食堂には日々の訓練で疲れた兵士たちへの栄養配分が申し分なくされている

それに加えて和、洋、中華、もちろんドイツの郷土料理などを含めた数多くの品が列を並べている、どの料理も香ばしい香りがし、食欲をそそる

 

「ほぉ・・・これは圧巻だな」

「ん?あぁそういえば灯夜はここに来るのは初めてだったな、では私が案内しよう」

「良いのか?隊長直々に案内してもらうなど新人にしてはおこがましいと思うのだが・・・」

「ラウラと呼べと言っているだろうに・・・まぁいい、新人の面倒を見るのは隊長の務めだからな、気にするな」

 

ラウラはそう言うと早速カウンターに並んだ、それに連れられて灯夜も同じ列に並ぶ、どうやらここは日本食のコーナーらしい、ラウラなりに気を使ったつもりなのだろう、こういう気づかいはさすが一部隊の隊長だということを自覚させられる

灯夜たちの順番になると数々の品物が目に入った、だが事前にメニュー表をもらっていたのでそこまで悩むこともなく料理を選んだ、灯夜が選んだのは筑前煮に味噌汁と白米、日本食らしいセットとなった

 

「うむ、やはり灯夜は筑前煮にしたか、ここの料理はすべて美味いからな、ハズレはないがその筑前煮は特に美味いぞ」

「そうか、まぁ昔よく院長先生が作ってくれたものでな、少し思い出して注文してしまった」

 

灯夜とラウラはそう言うと少し離れた対面式の窓際の席に座った、あとから聞いた話だとここはラウラ専用の席らしくそこに招待された灯夜を見てどこかの副隊長が血涙を流しそうになったという

二人は席に座りそれぞれの料理を食べ始めた

 

「(あれ・・・この味は)」

 

灯夜が筑前煮を食べるとなぜか懐かしい味がした、忘れもしない幸せだったあの頃の院長先生が作ってくれた筑前煮だ

何故ドイツという異国でこの味が食べれるのか灯夜はわからなかったがとにかく懐かしいその味に灯夜は涙を流した

 

「どうした灯夜!?そんなにここの料理が不味かったか!?待ってろ今すぐ替えの料理を持ってくる!」

「大丈夫だ・・・あぁ、少し懐かしくてな、俺が前住んでいた孤児院の筑前煮と同じ味がしたんだ、それで少し泣いてしまった・・・ダメだな、泣きっぽい性格直さないと」

 

ラウラの騒ぎに何事かと周りに集まった他の隊員も灯夜に奇怪の目を向けていた

 

「あーすまん、何でもないんだ驚かせて悪かった」

「なーんだ、隊長が柊君泣かせたのかと思った・・・あ、私ロニエねよろしくー」

「ホントに隊長は隊員を困惑させるのが好きなんですから・・・シオンです、よろしく」

 

そこからなぜか自己紹介ムードになったのか次々と他のメンバーたちから自己紹介される

 

「あぁ、よろしく頼む、全員一気に覚えられる気はしないから間違えるかもしれないがそのあたりは勘弁してくれ」

 

一通り自己紹介が終わり、皆それぞれ席に帰っていく

その眼前、灯夜が自己紹介のマシンガントークに撃ち続けられていた時からラウラはどこか不満げな表情で料理を口へ運んでいた

 

ラウラ自身ですら不満げにしている理由がわからないまま料理を食べ終えてしまう

 

「(全く、隊員同士仲良くするのはいいことだが・・・なんなのだこの気持ちは、どこか、もどかしい)」

 

すっかり冷えてしまった食器をカウンターへ返却しながらラウラは自身の変化に戸惑うのであった

 

「そこにいたか」

 

ほどなくして後ろから灯夜の声が聞こえた

 

「なんだ、自己紹介は終わったのか?」

「あぁ、一応な正直覚えられる気がせん、あと少し話があるから部屋に行っていいだろうか?」

「構わんが・・・何の話だ?」

「なんでお前が俺に見覚えがあるのかって話だ」

 

灯夜は昨日ラウラに助けられてからラウラが言った見覚えがあるという言葉が少し引っかかっていた

そうこうしているうちにラウラの部屋へと到着した

 

「さて、どうして私が灯夜に見覚えがあるのか、という話だったな」

「そうだ、それで俺はひとつ仮説を立ててみた」

「仮説?」

「あぁ、俺は二年前、奴隷商に捕まえられて奴隷として売られた、ここは昨日話した通りだ、その船の中でな、お前と似たような女の子に会ったんだよ」

 

思い出されるのは二年前、あの奴隷船に乗せられていたとき自分に話しかけてくれた銀髪の少女だ

 

「その女と私に何の関係があるというのだ?」

「確認するがお前らは遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)だったな?」

「あぁ、私たちは鉄の子宮で生まれた、故に過去もない」

「それだよ、お前が遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)なら、元になった人間の遺伝子があるハズなんだ、そこで俺の仮説だがおそらく俺が出会ったあの女の子、あの子がお前の遺伝子の元になってる人間だと思う、胸糞悪い話だがな、推測だがお前の中の女の子の遺伝子が俺を覚えてということかもしれん」

 

少しの沈黙が流れる、温かみのない白色の蛍光灯がやけに寒々しく感じて腕を少し擦ってしまう

ふとラウラのほうを見ると自分の胸に手を当てながらどこか考え込んだ表情で灯夜を見つめていた

見つめられた灯夜は少し恥ずかしくて目を逸らした

 

「まぁ俺の仮説はこんなものだ、これが本当かわからないし何で俺に見覚えがあったのか根本的な説明もできない、だがこういう可能性もあるんだということを共有しておきたかった」

「・・・あぁ、今日はありがとう、もう部屋に戻れ」

 

そう言われると灯夜は少し申し訳なさそうにラウラの部屋を後にした

 

灯夜が出て行ったあと、ラウラは一人で何かをぶつぶつとつぶやいている

 

「私は・・・私は一体誰なんだ・・・?」

 

孤独なウサギの呟きは誰の耳に届くわけもなくただ冷たい部屋に反響した

 

 

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