灯火の鬼となる   作:零℃

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幕間

ある日、珍しく休みをもらった灯夜は近くの商店街のような場所に来ていた

通りにはたくさんの店が景気よく立ち並んでおり飲食店に雑貨屋、食材を売っている店などとにかく種類が多い

灯夜がこんな繁華街に来たのには訳がある

 

「姐さんに金を渡されたのはいいが・・・どんな服を買えばいいのだろうか・・・?昔は下着以外基本的に配給された中古の服をもらっていたからな、いかんせんファッションがわからん・・・言葉も通じるかすら怪しい、せめて黒ウサギ隊の誰かについてきてもらうべきだったか?」

 

そう、ここドイツに来て(漂着して)一か月ほど灯夜は服を買っていなかったのだ、今までは仕方なく作業着や支給されたISスーツなどでなんとかやっていたが

そろそろ冬が来る、よって千冬に政府からの給料だと言われ渡されていた金で服を買いに来たのだ

その額、日本円にして約五十万ほど

 

しかし金の価値などあまりわかっていない灯夜からすればこれで足りるのかという不安しかなかった

 

「さて・・・まずは上着から、ん?」

 

灯夜は服屋が少し密集している場所で服を買おうとしたところでどこかで見た影を見かけた

 

「あー!灯夜じゃん!!こんなとこで何してんの?いつもは基地に引きこもって筋トレばっかりしてるのに」

「こらロニエ、急に街中で叫んじゃダメでしょ?って灯夜さんじゃないですか!どうしたんですか今日は?」

 

灯夜が影を追い店に入るとそこには黒ウサギ隊のメンバーであるロニエとシオンがいた、二人はいつもの軍服とは違い年頃の女の子らしい可愛らしい服装だった

ロニエはオーバーサイズのパーカーに短めのジーンズのラフな服装だった

シオンはロニエとは対照的にオフショルダーニットにスキニージーンズという少し大人っぽい魅力がある服装だった

そんな二人を見て灯夜はあることを思いついた

 

「ロニエ、シオン、よかったら俺の服を選んでくれないか?無理にとは言わないしもし受けてくれたら何かご馳走しよう」

「え!?ホント!?私は灯夜の料理が食べれるんだったら良いよ?シオンは?」

「私も大丈夫ですよ?灯夜さんのご飯食べたいですし」

 

灯夜は黒ウサギ隊の基地にやってきてから与えられるばかりは嫌だと自分から黒ウサギ隊のメンバーへ料理を振舞っている、最初こそあまりいい味とは言えなかったが、食堂の料理担当の人たちに料理を教わりながら、メキメキとその腕を上げて行っている

 

「俺の料理ごときで良いのなら頼む・・・」

 

灯夜は申し訳なさそうに二人に頭を下げるが二人はそんなことないと言って灯夜と共に男物の服が置いてある店へ入っていった

 

 

灯夜を含めた三人は他の店に比べると少し大きめの店へ入ってきた

中には数々の服が並べられており、文字と共に看板がでかでかと壁に貼られているが灯夜には到底読めなかった

 

「さて、灯夜はまずどんな服を着たい?」

「灯夜さんの要望に合わせて私たちが服を適当に持ってくるので、灯夜さんは着せ替え人形になったつもりでいてくださいね?」

「頼んでいるのはこっちなんだ、文句も何も言えんよ」

 

そうして灯夜は二人に要望を伝えて店内にある小休憩スペースに座り、さっき買ってきたコーヒーの蓋を開ける、プシュッという空気が抜ける音と共にコーヒーの苦くも香しい香りが鼻孔ををくすぐる

ここドイツに来てから千冬が灯夜の前で美味しそうにコーヒーを飲む姿を見て灯夜も飲み始めたのだが、どうにもはまったらしく今では自室のコーヒーセットで豆を煎るところから始めるほどこだわりが強くなっていた

 

コーヒー缶からひとしきり香りが出るとそれを少しずつ喉に流しこんでいく、鼻から抜ける香りが再び灯夜の鼻孔を優しく撫でる

そんな至福の時間を過ごしていると不意に耳元に蚊の羽音が聞こえた、反射神経に物を言わせて片手で蚊を掴むと普通の蚊と比べてどこか堅かったので手のひらを見るとそこには煙を上げて体のパーツを粉々にされたメカニカルな蚊が死んでいた

灯夜は少し戸惑いながらも飲み干した缶コーヒーと共にゴミ箱に捨てたが、缶に残っていたコーヒーに沈んでいく蚊の目が灯夜をずっと見つめているようでとても不気味だった

 

「おまたせ!何着か持ってきたから早速試着を・・・って何してんの灯夜?ゴミ箱なんてじっと見て、なんかあんの?」

 

服選びから戻ったロニエに呼び止められてハッとする灯夜だったが、すぐに気を取り戻した

 

「ありがとう、さてシオンが戻ってきたら試着室に向かおう、見たところたくさん選んでくれたみたいだからな」

「あ、うん・・・シオンならもうすぐ来るから座っとこ?」

 

そうやってロニエと灯夜はすぐそこの椅子に座り最近の近況について話始めた、ほどなくしてシオンが合流し三人そろって試着室に向かった

 

 

~束side~

 

「だぁ~!!どこにいるのさとーくん!!」

 

束が灯夜の捜索を開始して早一か月、天災と恐れられる束でも灯夜の現在位置を特定するのに四苦八苦していた

灯夜が身を投げた亡国機業の基地だった島からの海流を計算し、彼がドイツにいる可能性が高いのを突き止めたまでは良いのだがどうしてもそこから監視カメラの映像だけでは探しきれないと判断してカメラを搭載した小型メカをドイツ各地に飛ばしたもののいまだに成果がない

 

「束様、パンが焼きあがりましたのでご一緒にどうですか?」

 

不意にだらんとしている束の後ろから声が聞こえる、扉の奥にいるであろう彼女は先日束が灯夜を探し回っている最中に発見した少女である

重々しい扉が見た目に反して軽々と電子音を上げながら開く、すると焼きたてであろうパンの香りと共に束の前に件の少女が目に入る

銀髪の美しい髪に束が趣味で着せたであろうゴスロリ風の服、そして瞑られた目、どこか儚げな彼女に束はクロエ・クロニクルと名付け、今はともにこの潜水艇で過ごしてる

 

「クーちゃんおっはよー!わーおすごい良い匂いだねぇ!クーちゃんが作ってくれたの!?嬉しいなぁ~!」

「はい、束様が使っていなかった機械を使わせていただきました、味は保証しますよ?」

 

クロエはそのまま白いテーブルに束を座らせ、自身もその席に座り束と共に食事を楽しむ

まるで不思議の国のアリスの物語、その一幕に登場するお茶会を彷彿とさせるその光景はどこまでも幻想的で美しく、思わず息を飲んでしまう

 

「やっぱりクーちゃんが作ってくれたパンは美味しいね~!元気がみなぎってくるよ~!」

「それはよかったです・・・最近束様はずっとパソコンの前にいましたから少しでも元気が出ればと思って、せっかくですからお風呂も入ってしまってはどうでしょうか?」

「クーちゃんは優しいねぇ・・・ママ泣いちゃいそうだよ、ぐすん」

 

束は目元の涙を拭う仕草をするとパンをまた食べ始める、とても幸せな表情でこの世の幸福という感情をもかみしめているかのようだ

そんな瞬間を噛みしめていると束のパソコンに一通の通知が来る、微量な音だったにもかかわらず束は人間離れしたスピードでパソコンへと戻り、その通知を確認した

 

「やっと、見つけた・・・見つけたよ!とーくん!」

「見つかったのですか!?」

 

束がパソコンを操作すると潜水艇内のありとあらゆるモニター画面に灯夜の顔が映し出される、あの島の崖で一瞬だけ見えた色が抜け落ちたかのような白髪、そして人を殺しそうな鋭い目つき、そしてその下には人体実験のストレスからか濃い隈が痕になって染み込んでいる

早速束は情報が送られてきた小型メカの位置情報を割り出し始めた、そしてやはり灯夜はドイツにいたのだった

 

「クーちゃん、とーくんを迎えに行ってあげてくれないかな?」

「かしこまりました、ですが良いのですか?束様が行ったほうが・・・」

 

ふとクロエが束のほうを見るとパソコンを操作しながら先ほどとは違う芋虫を噛み潰したような顔で画面を睨みつけている束の顔が目に入った、その顔を見てクロエは少し委縮してしまう

 

「あ、ごめんねクーちゃん・・・実は今のカメラの映像、とーくんに壊されちゃったからか電波が漏洩しちゃったみたいでね~亡国機業(ゴミ共)が位置情報を掴んじゃったみたい、だから私はここでなるべくとーくんの情報を乱して奴らを捲いておくからそのうちにとーくんをお願い」

「わかりました、灯夜様は必ず連れてきますので」

 

束は短くお願い、とだけ言うともとの作業に戻り、クロエも身支度をするために部屋から一旦退出し自身の部屋へ足を運ぶのだった

 

 

~亡国機業side~

 

 

「失礼します、スコール様」

「あら、どうしたのかしら?」

 

以前スコールは包帯が醜く目立つ状態でベッドに縛り付けられていたのだが何故かたった一か月程度で復活し、今はデスクで一人書類整理をしていた

 

「それが・・・先刻ドイツ国内から異様に乱れた電波信号が発生してしまして、その信号を受信、解読しましたところこんな映像が流れてきまして・・・」

「映像・・・?」

 

端末を渡されたスコールは再生された映像を見て脳が揺れるような衝撃に襲われた

再生された映像に映っていたのはスコールが探し求めていた少年、灯夜だった

 

「急いでドイツへの出撃準備に取り掛かりなさい、そしてその映像の具体的な位置の特定を急いでちょうだい・・・」

「はっ、しかし周りにはドイツ軍基地も多数点在していますのでうかつには侵入できないかと」

「いい?私は急いでと言ったの、二度は言わせないで」

 

部下らしき人間はスコールの雰囲気に半ば委縮しながら部屋を後にする

 

「灯夜くん・・・必ず見つけてみせるから・・・今度こそ完全に私のモノにしてあげるわ」

 

スコールは艶やかにそう言い放つと火照った体を冷ますように月の下に身をさらす・・・その顔にもはや理性というものはなかった

 

 

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