ドイツのとある洋服店、そこでは現在謎の人だかりができている、ある一点を囲うようにして目線が集中している先には一つの試着ルームがありあそらく中の人物からすれば動物園のパンダにでもなった気分だろう
ほどなくして渦中の試着ルームから一人の男性が出てくる、現在女尊男卑が進む世界であるがゆえにこういう光景を見るのはとても珍しいことでありそれほどまでに渦中の人物が人を惹きつけるのは確かであった
「ふむ、なかなか良いな・・・気に入った、これなら冬も暖かそうだ」
渦中の少年、灯夜はシオンから選んでもらった服を試着しているところだった、シオンが選んだのは少し青みを帯びたカッターシャツにグレーのベスト、白く裏地が黒のコート、ズボンは黒のスラっとしたスキニー、そしてブラウンのオーバーストールとかなり大人っぽい服だった
灯夜たちを遠くから囲っている周りの女性たちは目にハートを浮かべながら目の前の
「気に入ってもらえたのなら何よりです、灯夜さんは年齢に比べてかなり大人っぽいですのでこういう服装も似合うかなと思ったのですが、ばっちりですね!」
シオンはおとなしくも嬉しそうに両手を合わせてほほ笑んだ、一生懸命選んでくれた上にここまで喜んでくれると不思議とこちらも心地いい
だが忘れがちだが灯夜の感情の一部は欠落していて、
「灯夜!次は私が選んだ服着てみてよ!こっちも自信あるんだからさ~!」
「わかった!わかったから少し待て!」
そう言って灯夜は服を押し付けられ、そのまま再び試着ルームへと押し付けられる、普段クールな灯夜が慣れない状況にあたふたしているのを見てロニエとシオンの二人は笑い合った
次に灯夜が出てきたときに着ていた服は先ほどの大人っぽいクールな感じとは正反対で、男らしいワイルドな服だった
前閉めのパーカーの上には黒の革ジャケット、そしてズボンはダメージジーンズでロニエが好きそうな若者風ファッションだった
先ほどとは違うワイルドで男らしい服装でロニエとシオン含めた周りの女性たちはおぉ~と感嘆の声を漏らした
「やだ・・・私のコーデ、似合いすぎ!?」
「ロニエ、クラリッサさんから教えてもらったネタで会話しようとするんじゃないの」
二人が漫才のようなやり取りを続けているとき、灯夜は革の材質や動きやすさを確認していた
「「で灯夜(さん)どっちの服にするの?(しますか?)」」
一通り漫才が終わったのか二人は灯夜に詰めよった、はたから見れば美人二人に詰め寄られているこの状況、見る人が違えばとんだ修羅場だ
「俺はどちらも気に入ったし金もあるから両方買うことにする、せっかく選んでくれたことだからな」
そう言って灯夜はレジへと足を運び、会計を済ませた
(余談だが、レジに行くもドイツ語があまりわからずにロニエとシオンに助けてもらっていた)
その後店を出た三人は近くのカフェでくつろいでいた、店内はとても静かで基地内の喧騒を忘れさせてくれるものがあった
灯夜はコーヒーを、ロニエはカフェオレ、シオンはオレンジジュースをそれぞれ注文した
初めて外で缶コーヒー以外のコーヒーを飲むので少し期待に胸を弾ませながら三人で談笑していた
「そういえば灯夜ってさ~隊長とどうなの?」
「どうって?」
ロニエがまたまた~というが灯夜はなんの覚えもないという風に話している
「いやぁ最初に隊長が灯夜連れてきたときは驚いたのなんのってねぇ?」
「そうなのか?」
「そうですね・・・隊長は昔から男の気が微塵もなかったものですからあの時は大騒ぎでしたよ、特に副隊長・・・クラリッサさんは驚いていたというか、血涙を流しそうな勢いでしたからね・・・」
シオンがしみじみとそう言うと店の奥からコーヒーの渋い香りが漂ってくる、そろそろ来ると思い奥から運ばれてきた飲み物をウェイトレスから受け取る
「にしても灯夜ってホントにコーヒー好きだよねぇ・・・部屋の中匂いすごいもん」
「確かに、なんでそんなにハマったんですか?」
灯夜は飲みかけたコーヒーを一旦小皿に戻し、質問に答えた
「そうだな、はじめは姐さん・・・織斑教官が飲んでいるのを見て美味しそうと思ったんだ、だが飲んでみると大間違い、思いのほか苦くてなそれで自分に合うコーヒーを作ろうと思って所長に冗談半分でキットを貸してほしいと言ったら基地の備品をくれたんだ、まさかもらえるとは思っていなかったが貰ったのだからとことんまでやってみようと思ったわけだ」
少し長々と話してしまったと心の中で反省する灯夜だったがそんなことは気にしていないと言わんばかりに二人はじっと灯夜の話を聞いていた
「なんというか、前々から思ってたんだけど灯夜ってすごく真面目だよね、私だったら三日と続かないよ」
「そうですね、灯夜さんトレーニングも休まないし訓練だっていつも一番初めに来て掃除と準備運動済ませてますしね」
「おかげで私たちはちょっと楽できてるけど心配になるよ?」
「心配をかけてすまない・・・でも俺は拾われた身だ、そんな俺がお前たちやドイツに返せるものと言ったら日々のデータと家事をすることくらいだ、だからそんなに心配しないでくれ、これは俺なりの恩返しだから」
灯夜はそう言って二人を説得すると納得したかのように飲み物を飲み始めた
しばらくして飲み物をあらかた飲んだ三人は会計を済ませて外に出ていた、時刻は四時を回っていたので三人は灯夜が今夜作る料理の食材を買った後基地へと戻った
「失礼します隊長、お呼びでしょうか?」
黒ウサギ隊の基地内、ラウラの部屋に呼ばれたクラリッサは若干期待に胸を膨らませながらラウラの部屋へと入っていく
そこにはいつものラウラはおらず、どこか虚ろ気な抜け殻のような少女がひとりいるだけだった
「隊長・・・?」
「あぁ、クラリッサか突然呼んでしまってすまない・・・相談があるんだ」
いつもの様子とは違うラウラに若干戸惑いながらもクラリッサはラウラと目線を合わせて座り、話を聞く
「最近少しいろいろと考えることがあってな、その中で私から出た疑問なんだが・・・私は一体誰なんだ?」
「は・・・?」
クラリッサは自分から出た間抜けな声に恥ずかしさを隠せなかったがそれ以上にラウラから出た疑問に驚きを隠せないでいた
ラウラが元から少し脆い部分があると考えていたクラリッサだったがここまで崩れてしまうとは予想外だった
「私は自分が誰かわからなくなってしまったんだ・・・灯夜から私が私の元となった人間の意志が残っている可能性があると言われた、それだけならよかった、しかしそれを言われたとき思ったんだ、私は一体誰なんだろうとな、教官のように強くなりたかった、ただ強く誇り高く、だがその先に
「あなたは・・・あなたはラウラ・ボーデヴィッヒです、他ならないこの黒ウサギ隊のリーダーです、どうか気を確かに」
気休め程度にもならないと自覚しながらもそんな無責任な言葉をラウラにかけた、きっとクラリッサではだめなのだろう、そんな自身の無力さに嘆きながらもクラリッサは部屋を後にした
「さてと、作るとするか」
灯夜はエプロンなどは付けずにそのまま料理を作り始める
「おーやってるねー今日はなに作るの?」
「今日はそうだな・・・卵丼だな」
灯夜はそう言うと続々と冷蔵庫や買い物袋から材料を取り出し始めた
「ロニエ、悪いがあの四人組と隊長とクラリッサを呼んできてくれ、どうせならみんなで一緒に食べよう」
「わかった~!」
ロニエは元気よく返事をして食堂から出ていくと灯夜は調理を再開する
「さてあいつらの分を合わせて8人分か、米は足りるだろうか・・・」
先日クラリッサから借りた日本の料理漫画をもとに料理を進める灯夜だった
「あ、いた!ネーナ!ファルケ!マチルダ!イヨ!灯夜がご飯作ってくれるんだって~!一緒に食べない?」
それぞれ名前を呼ばれた少女たちは各々がしていた作業を一旦中止してロニエからの誘いを受けた
「ロニエ!灯夜が飯を作るってのはほんとかい!?」
「あぁうん、今日は卵丼だって張り切ってたよ?」
「そうか!ちょうどアタシは腹が減ってたんだ、あいつの飯で腹いっぱいにさせてもらおう!」
そう言って豪快な口調で赤毛の少女のファルケは猛ダッシュで食堂へと向かった
「すまないなロニエ、あいつはいつもあんなで」
そう言ってロニエに謝罪をするのは紫髪の少女、イヨだ
「ううん、私もあんな感じだから大丈夫だよ、それより早くいかないとファルケがまた灯夜に調理場を荒らすな~って怒られるよ?」
「おっとそうだった、ではまたあとで」
「もう・・・ファルケったら、元気がいいのは結構だけれど食器を割るのだけは勘弁してほしいわねぇ・・・ねぇネーナ?」
「同感、ファルケはもっと自粛するべき、早急にね」
そう言って大きな胸に手を置くのは黒ウサギ隊で一番発育が良い金髪の少女のマチルダと、茶髪のロングヘアーで見るからにおとなしそうなネーナだ
「二人とも、あんまりファルケをいじめちゃだめだよ?」
「わかってるわよぉ・・・さて、灯夜くんのご飯も久々だし早めに行って手伝えることは手伝っちゃおうか」
「うん、私もそう思ってた早く向かおう」
二人はゆっくりとした足取りで食堂へ向かった、相変わらずどこかつかみどころのない二人だとロニエは安心する
「あとはクラリッサさんと隊長だね~っとクラリッサさん発見!」
ロニエがクラリッサに声をかけるとぼーっとしていたのか少し肩を震わせた
そんなクラリッサの様子に少し違和感を感じながらも食事会のことを告げてラウラを探しに行ったロニエだった
「そろそろ集まるころだな・・・あっおいファルケ!ちゃんと先にテーブルを拭いてから食器を置け!」
「るっせえなわかってるよ!」
「お前この前もそれで腹壊してたじゃないか!」
「あらぁ・・・灯夜くん怖い顔、でもかっこいいわねぇ」
「マチルダさん!?座ってないで料理運ぶの手伝ってくれませんか!?」
「私は拒否するわ」
「ネーナ・・・まぁいい」
「灯夜、君は少し休んだほうが良いよ?私が変わろうか?」
「イヨ、心遣いはありがたいがお前それでこの前の料理が炭になったの忘れたのか?」
灯夜は料理より黒ウサギ隊四天王を相手することのほうに気力を使い、やっぱりこいつらを呼ぶんじゃなかったと後悔するもこの騒がしい空間は居心地の悪いものではないと自覚する、それどころかどこか心地よいとさえ感じていた
「(この感じ・・・孤児院を思い出すな)」
灯夜が感慨に浸っているとロニエが隊長たちを連れて戻ってきた
「おかえりロニエお前たちの分も分けてあるから持って行ってくれ」
灯夜がそう言うと今来た三人は料理を取り、それぞれの席に座る
「えーそれじゃあ蓋を開けてください」
蓋を開けるとそこには鶏卵が丸ごと一つ入っており、しかもそれには揚げ衣が付いている
中を割ってみると半熟状態の黄身がそのままご飯と絡みつき、芳醇なタレの香りと共に視覚と嗅覚から舌を喜ばせる
「今日のメニューは鶏卵の天ぷら丼だ、前にクラリッサから借りた日本の漫画に出てきた料理を再現して作ってみた、味見はしてあるから安心してほしい」
「なぁ早く食おうぜ!腹減って仕方ねぇよ!」
「ファルケ、そう焦るな」
「はいはいわかったよそれじゃあ手を合わせて」
『いただきます!!』
久々の食事会が終わった後、皿洗いを他のメンバーがすると進言してくれたので久々にラウラと話そうと探し始めた灯夜だったがラウラはどこにもいなかった
「あいつ・・・どこにいるんだ?」
灯夜が歩いていると千冬とすれ違った、いつものスーツ姿ではなくオフの恰好の千冬はあまり人に見られたくないのか少し歩くペースが速かった
「姐さん」
「あぁ柊か、どうしたんだ?」
「隊長はどこか知らないか?」
「ラウラか?ラウラならさっき海岸で見たぞ?」
「ありがとう、姐さん」
「あぁ、それとな柊」
「ん?」
「ラウラを頼んだぞ」
千冬から言われた言葉の意味をよく理解できなかった灯夜だったが任せろ、とだけ言って海岸へと向かった
「私は・・・」
基地のすぐそばの海岸、ちょうど灯夜を助けた場所であるそこにラウラは茫然と立ち尽くしていた
ラウラはここ最近ずっと自分の存在価値について考え、苦悩していた
「兵器や道具のように使われるのが・・・私の人生か・・・!?そんなのは嫌だ!!なら私は何を望む?何が欲しい?私は
ラウラは波打ち際で一人苦悩する、それが誰に届いているかも知らずに、誰に届かせたいのかもわからずに
「もう嫌だ・・・全部、投げ出そう・・・」
そう言ってラウラはもう冷たい海の中へどんどん入っていく、自分の足が届かなくなる深さまで、自分が溺れ死ぬ深さまで行くために
そして大きな引き波が来たとき、ラウラの足はとうとう砂から離れただ水中を漂うだけになった
苦しい、冷たい、息ができない、泳げない・・・・・怖い
助けて・・・だれ、か・・・
そして全身が冷たくなるのを感じた時だった
「何をッ!やってるんだよお前はッ!?」
救いの手が、現れた
時系列は少し戻って、灯夜は千冬の情報を頼りに海岸へ足を運んでいた
しかし遠くまで行っているのかなかなかラウラの姿は見えなかった
もしかしたらと、一か月も前の記憶を頼りに自分が引き上げられた場所までやってきたがやはりラウラの姿は見えなかった
もうすぐ冬だ、まだ本格的な寒さは来ていないがそれでも夜中は冷える、きっとラウラは基地の中に戻ったんだと自分に言い聞かせて戻ろうとした時だった
海と砂浜の中間あたり、そこで不自然な動きをする物体を灯夜は目視した、周りが暗いこともあって見間違いだろうとまた戻ろうとしたがどうしても気になって膝が海につかるあたりまで海へと入って自分が確認した物体をみた
すると灯夜は一瞬で海へ入り、決して穏やかではない波に抗いながら進んだ
さっき灯夜が見た物体の正体はラウラだったのだ、なぜかはわからないが海に沈みかけているラウラはおそらくあと数秒で意識がなくなる、その前に救出しなくては
そのワードが頭の中に浮かぶと灯夜の腕には不思議と力がこもっていた
そして底へ沈む寸前のラウラを何とか引き上げて砂浜まで運ぶ
「何をッ!やってるんだよお前はッ!?」
ラウラを砂浜まで引き上げてクラリッサへ連絡する、どうやらすぐに来てくれるらしい
「私、は・・・」
「お目覚めか?なんであんなとこにいたんだ?」
「私は死のうと思ったのだ・・・自分の存在理由も価値も、何になりたいのかもわからない、自分が何者かすらわからない、そんな私は生きている価値なんて・・・」
灯夜は初めてラウラの胸の内を聞いた、まだ幼い体で一部隊の隊長を任せられて、いろいろと堪えていたのだろう、それに加えてこの間の灯夜の発言だ
しかし灯夜は申し訳なさなど微塵もなかった、それどころかラウラに対して怒りが少しづつ湧き上がってくるのを感じた
「・・・けんなよ」
「・・・?」
「ふざけんなよ!!」
ラウラは灯夜の突然の怒号に体を震わせた
「自分の存在価値がわからない!?ふざけんな!そんなもの俺だってわからない!存在価値なんて後から付くものだ!今のお前がどうこう言っても仕方ないんだよ!それに自分が何者かわからないだと!?お前は、ラウラ・ボーデヴィッヒだろうが!織斑千冬でもないお前自身だろうが!お前はいつも不愛想だけど隊員思いで、あこがれの人に追いつこうと必死に藻掻いて!部隊をまとめ上げるリーダーだろうが!立派な奴じゃないか!そんな自分に価値がないだと!?お前にはお前に
「ッ!?」
その言葉にラウラは絶句した、今まで自分をこうも真剣に見てくれる人がいただろうか、あの千冬でさえ教官と兵士という立場もあってか自分にここまで深く接してはくれなかっただろう、それに最後の言葉、そうだ、灯夜は一度失っているのだ、大切な自分の存在価値を、居場所を、家族を
「私はッ・・・!愚か者だ・・・!こんなことで何がッ誇り高いドイツ軍だッ・・・情けない、情けない」
「そうだ、お前はバカだ、死ぬのを怖がるくらいだからな」
ラウラは砂浜に寝たまま泣きじゃくった、そこにいるのはただ一人の少女だった
その後ラウラは医務室に運ばれ、数週間は安静となった
_________________________________________
深夜テンションで書いたので支離滅裂で意味不明な部分があるかもしれませんが
暖かい目で見ていただけると幸いです
ちなみにシオンが選んだ服はFGOの英霊旅装マーリンの服を想像していただけたらなと思います