暗い場所、暗く、ただ暗い
そんな場所で光が熱と共にじんわりと体を包み込む
「またここか」
やはりというか灯夜はまたこの場所に来ていた
もはやあの孤児院から悲鳴は聞こえず、感覚もおぼろげになっている
これは灯夜自身がこの出来事を忘れかけているという証拠なのかもしれない
「忘れてたまるものか、たとえ感情が轟絶鬼に置き換わろうとも、絶対にな」
そんな決意を言葉にしていると、ふと久しい雰囲気を感じる
『久しいな、灯夜よ』
「あぁ久しぶりだな
振り向くとあの少女、灯夜に埋め込まれたISコアの人格である轟絶鬼だ
少女は金髪の髪をなびかせてこちらに近づいてくる
『随分と幸福の余韻に浸っているようだがよいのか?貴様の目的はその体をもって死ぬことであろうに、他者とのつながりなんぞは正直邪魔であろう?』
轟絶鬼は耳元でそう囁く、その言葉は耳にすんなりと入ってきて灯夜の心にストンと落ちる
実際灯夜の心そのもののような轟絶鬼の言葉は他の誰よりも心に入り込むのだが
「轟絶鬼は優しいんだな、心配してくれてありがとう」
灯夜がそう言うと轟絶鬼は少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまった
『ふんだ、
そんな轟絶鬼に少し可愛いと思っていると辺りが少し明るみ始める
『そろそろ目覚めの時か、我が主よ、ゆめゆめ忘れるな、貴様の目的と守るべきもの、その区分をな、ではよい目覚めを』
「わかってる、目的は死ぬこと、守るべきものは・・・もうない」
灯夜がそう吐き捨てる先はこの孤児院だ
そのまま灯夜は今だ燃え盛る孤児院の記憶から意識が浮いていくのを感じた
「はぁ、轟絶鬼のやつ、久々に顔を見せたと思えば・・・」
夢の中での素直じゃない轟絶鬼の態度を思い出しながらゆっくりと体を起こそうとすると異変を感じる
「ん?何かいるのか?」
灯夜は布団から起き上がれない、実際には足が動かないだけなのだが、動かないというよりは何かにがっちりとホールドされているような感覚だった
時期的には冬の終わりごろであるため長ズボンの寝間着で寝ている灯夜だが、それでも伝わってくるこの柔らかな感覚は・・・
「・・・んぅ、あ、灯夜、おはよぅ」
「いや可愛いなラウラ」
「はぅ!?可愛い?私が!?」
あまりにも可愛すぎて思いがけずに口走ってしまったが、実際に(何故かベッドにいる)寝起きのラウラは可愛かった
いつも艶やかな髪は寝ぐせが付きまくっていてぼさぼさで、目は眠たげでトロンとしている
そして極めつけはその服装だ、少しはだけていて、肩が出ている、そこから覘く鎖骨はとてもセクシーだった
まだ年齢の浅い灯夜だったが、いつもは大人っぽくクールな彼も、このかわいらしさの塊のような少女を前に年相応のリアクションしか出なかった
「わ、私が可愛い・・・?私は、私はぁぁ・・・あぁああぁ!!」
ラウラは恥ずかしさのあまりかものすごいスピードで部屋を飛び出して走り去ってしまった
「何だったんだ一体・・・というかなんで俺のベッドにいたんだラウラは」
謎が残るが、ともかく灯夜はそのままシャワーを浴びて朝のトレーニングをこなすのだった
「ふぅ・・・やっと到着しました、こちらは随分と気温が高いのですね・・・」
『前いた海域とは真逆だからね~ちょっとクーちゃんには暑かったかな?でも安心して!!こんなこともあろうかとクーちゃんの服には温度調節ナノマシンが組み込んであるのだ!!ブイブイ!!』
少し過保護な束との通信を聞きながら、少女、クロエ・クロニクルは忌まわしきドイツの地へと降り立った
「私を生んだ国、私を廃棄した国・・・でも、人々に罪はない」
クロエはそんなことを口ずさんでいる、これは束から教わったことだった、束がそんな考えを持つようになったのは灯夜との一件がキッカケであり、その話を聞いてクロエも灯夜に興味が湧いていたのだった
『正直、クーちゃんをドイツに行かせるのは私も迷ったんだけど、私が出向くわけにもいかないから、ごめんね』
「大丈夫です、束様、私もとーくん様とお会いしてみたかったですし、それに、向き合わないわけにはいきませんから」
『クーちゃんは強いね・・・でもそろそろ私をママって呼んでくれてもいいんだよ?』
少し茶化す束をよそにクロエは灯夜のいる海岸の軍事基地を目指すのだった
同刻、ドイツ海岸付近
最新鋭のステルス機能を備えた航空母艦、その中にはまるで王室のような豪華な作りの部屋が一つ
その中に鎮座するのは彼女、亡国機業のリーダーであるスコールだ
彼女はモニターに映る灯夜がいるであろうシュバルツェ・ハーゼの基地が映し出されていて、それを見ながら酒をあおる
「そろそろドイツね、やっと灯夜くんに会えるのね・・・楽しみだわぁ、あの子を捕まえてどうしてやろうかしら、いたぶって楽しむのも良いわねぇ、逆に優しくして後でまた・・・フフフ」
妖艶にそうつぶやく彼女にはもう灯夜しか見えておらず周りなんてどうでもいいといった風であった
それは仲間も同様であった
「スコール」
それをみてオータムはどこか虚ろ気な表情になる
まるで大好きだった壊れたおもちゃをずっと見ている子供のような、そんな表情
「(灯夜、お前がスコールをこんな風にするのか・・・!!お前が・・・!!)」
想い人が狂乱の渦へ入っていくのをただ見ることしかできない彼女は胸の内の憤りを渦中の少年にぶつけようとした
だがしかし忘れてはいけない、彼もまた被害者だということを
自分たちに連れされられ、スコールの快楽の捌け口として拷問され、挙句には肉体を改造され、記憶まで奪われるところだったではないか
亡国機業に来る前の灯夜は優しい少年だったという、それは彼を調べていく上でさんざん思い知らされた
あんな綺麗な目で海を見ていた少年が、自分たちから去る時にはあのような絶望しきった、この世の中すべてを憎むような目をオータムへ向けていた
それは憤怒だろうかはたまた祈りだったのだろうか、今では知る由もない
「そうか、おかしいのはスコール自身なんだ・・・元から灯夜は関係ないんだよな、狂ってたのはスコールと、アタシなんだ、ケジメ、つけなきゃな・・・」
そういうとオータムは決意を固めたような目で部屋を後にした
決戦は、近い
「全く灯夜の奴は、何度隊長を誑かせば気が済むのだ、今日なんて私のベッドに飛び込んできて・・・うへへへ」
そう言い、今朝の一件を思い出して鼻血を流すクラリッサ
今朝の一件というのは、他でもないラウラが灯夜に可愛いと言われて基地内を走り回り、最終的には副隊長であるクラリッサのベッドで泣きじゃくったという事件である
クラリッサはその後、涙目のラウラから鼻血を垂らしながら話を聞き、狂喜するラウラを見た隊員たちに、隊長の威厳を保つため灯夜がラウラを誑かしたというあたりさわりのないデマを流して、隊長の体裁を保った
「しかしあの時の隊長可愛かったなぁ・・・涙目で、うるうるしてて、なんだか小動物みたいで・・・普段の隊長も好きだけど、あんな感じの隊長も好きだなぁ、これが日本の漫画で見たギャップ萌えというやつだろうなぁ」
にやけ顔で今朝のラウラの顔を思い出す、余談だがその時のクラリッサの顔を見た隊員たちによるとその顔はとてもだらしなくって、気持ち悪かったそうな
そんなこんなで灯夜の部屋に着く、コンコンと、ノックをするが返事はない
「灯夜、クラリッサだ、入るぞ」
まだこの部屋にいるはずと思っていた灯夜は部屋にはいない、とっくに朝の自主トレは終わっている時間のハズだ、キッチンには挽かけのコーヒー豆とブクブクと泡を立てて沸騰しているやかんが捨て置かれている
おかしい
クラリッサは直感的にそう思った、さっきまで呆けていた思考が一気に加速する、灯夜はトイレだろうか?それにしては人の気配がないそして部屋を見回すとテーブルに書置きのようなものが置いてあった
嫌な予感がしてその書置きを見たクラリッサは一目散に長官と教官である千冬のいるであろう部屋へと向かった
書置きにはたった一言
世話になった
とだけ書かれていたのだった
___________________________
めっちゃ久々です
楽しみにしてくれてた人がいたらありがとうございます
これからもちょびちょび投稿していく予定なのでよろしくお願いします
感想ください