その後、灯夜とスコールの二人は港町を歩いていた。
家に案内する、そうスコールに言われた灯夜だったが、いくら歩いても目的地は見えてこない
本当にこの辺りにあるのかという疑問だけが灯夜の中に悶々と残る
「あの、スコール・・・さん、おうちはまだ、ですか?」
スコールはう~んと少し考えると、一つの携帯電話を取り出した
「オータム?私よ、そろそろ迎えに来てほしいのだけれど」
『んだ?スコール、いなくなったと思ったら急に掛けてきやがって、まぁいいけどよ』
スコールは電話の主に対してクスッと笑うと再び灯夜の手を取り、街中を歩き始めた
心なしか灯夜にはその手がひどく冷たく感じた
「スコールさん」
「何かしら灯夜、もしかしてまたおしっこ行きたくなった?ちょっと待っててね、いま私のお友達が迎えに来てくれるから」
スコールは太陽のような笑顔で灯夜に接するが灯夜の顔は暗いままだ
「スコールさんは、本当に人間ですか」
その質問にスコールは驚きを隠せないでいた、というのも図星だからである
スコールの体はすべてではないにしろ機械に置き換わっている、しかし感触や見た目は完全に人間そのものである
それを灯夜は言い当てたのだ
「スコールさんの手、普通に暖かいんですけど、なんかどこかで冷たくて、失礼ですけど人の温かみがないっていうか」
スコールは何も言わなかった
ただ一言、「そうかもしれないわね」
と灯夜を茶化した
「この辺りでいいかしら、ちょうど人通りも少ないし」
スコールは先ほどとは違う少し広めな場所に出ると、周りを疑うように見ながらそう言った
「オータム!出てきてちょうだい」
スコールがそういうと、何もなかった場所から突然異形の機械が現れた
その異形は全身が黒ずんだ血のような赤色で所々、金の装飾が散りばめられていた
なんといってもその異形の最大の特徴は、まるで蜘蛛のような足で人体のようなものが見えることから灯夜はおとぎ話に出てくる蜘蛛の異形、アラクネのようだと思った
「スコール!呼び出してくれるのは嬉しいけどよ・・・って何だこのガキ」
「あ、あのッ」
「さっき奴隷オークションで買ったのよ、可愛らしいでしょ?」
そのスコールの発言にオータムと呼ばれた異形の主はケッっとどこか不機嫌になった、どうやらオータムはスコールのことが好きらしい、女性まで惚れるほどの美貌の持ち主だということを灯夜は改めて理解した
「さぁ、行くわよ」
スコールはそう言うとオータムと同じようにゴールデン・ドーンを展開した、灯夜にとっては初めて見るISで、恐怖よりも好奇心のほうが大きかった
「え?スコール、さん?」
「あぁ・・・驚かせちゃったわね、これは私専用のISよ、ゴールデン・ドーンっていう名前なの、よろしくね」
スコールは変わらず優し気な声で灯夜を抱きかかえると、灯夜に負担がかからないように優しく浮遊した
後日譚だが、オータムはそんなスコールと灯夜を見て終始イライラしていたという
どこかの海の上で二つの光が線を描き美しく飛んでいる
その姿はさながら絵画のようで、どこか幻想的な雰囲気を漂わせている
この時間になると、さすがに海の魚たちも寝ているのか、トビウオなどは泳いではいない
代わりに、かなり透き通った海なので海中のクラゲやサンゴなどが少し光っていてこれもまた幻想的だ
「これが・・・海、綺麗だなぁ」
灯夜は生まれてから一度も海に行ったことがなく、テレビで数えるほどしか見たことがないため、海についてはほぼ無知だ
「海がそんなに綺麗かよ、純粋な目ぇしやがってよ」
そんな灯夜の姿をみてオータムが物珍しそうに話しかけた、彼女たちにとって海は少なからず通る場所であり、じっくり見たこともなければ今の灯夜のように綺麗だなんて思ったことすらなかった。
羨ましい、とオータムは純粋に思った。
そんな様子の灯夜を見てスコールはもっと見せてあげたいと思ったのかなるべく海中が見えるように低空飛行をしていた
その時の三人はさながら親子のように仲睦まじく幸せに見えていた
「さぁ、着いたわよ」
そう言ってスコールたちが降り立ったのはどこかの島の浜辺だった。
何の開拓もされていない、所謂無人島のような風貌のその場所に灯夜は違和感を覚えていた
なんというか、見た目は自然なのだ、しかしどこかで作り物のような小綺麗さがある
「こっちよ灯夜くん、ついておいで」
「離れんじゃねぇぞ」
そう言う二人にどことなく安心感を覚えて、まるで小動物のようについていった
「まぁ・・・本当に可愛らしいわね、食べてしまいたい」
その言葉は後ろでついていく灯夜には聞こえなかった
「さぁ、着いたぞ」
「ようこそ私たちの家、
灯夜はその後、無人島の見た目にカモフラージュされた建物の中に入っていった
やはりというか、灯夜の勘は当たっていたようで、ここは外から発見されないように、完全にカモフラージュされているようだった
灯夜は案内された部屋に入った
決して広くはないが、あんな檻よりは広く、そして快適な部屋だった
ベッドが一つと勉強机にも見える机が一つ、そしてテレビが一台あった
灯夜はすぐさまテレビを付けるが、そこに日本語のニュースは流れてこない
もし日本のニュースが流れているなら今すぐにでも家族の安否が知りたかった。
灯夜が途方に暮れていると、コンコンと木製の扉から音がした
「スコールよ、入っていいかしら?」
「あ、どうぞ」
そう言うとスコールは灯夜の部屋に入ってきた、ただ手にトレーを持っているので、おそらく食事を持ってきてくれたのだろう
そう思うと灯夜の腹がぐぅ~と鳴った
「あらあら、そんなにおなかを空かせてたのね、はいどうぞ」
「スコールさん、聞きたいことがあるんですけど」
スコールはトレーを置きながら、ん?と返事をするとベッドに座り、灯夜の話を聞いた
「ある村で孤児院があって、そこが火事で燃えてて、その火事の生きてる人を知りたいです」
「孤児院の火事ね・・・わかったわ、調べてみるわ」
「ありがとうございます!!」
灯夜はスコールにお礼を言うと、目の前に差し出された料理を口にした
「おやすみ、可愛い灯夜くん♪」
楽し気にそう言うスコールの目には、真っ黒な欲望が渦巻いていた
灯夜はその目に気づくことなく、楽し気に数十時間ぶりのご飯を美味しそうに頬張っている。
その先にある地獄も知らずに‐‐‐
灯夜は真っ暗な景色の中で目を覚ました
「(あれ?寝ちゃってたのかな・・・あの後、スコールさんとご飯食べて、なんだか急に眠くなって・・・その後ぼく、何してたっけ?)」
灯夜は少し前の記憶が少し抜け落ちていた。
思い出そうとするも何かモヤがかかっていてよく思い出せない
「(とりあえず起きよう・・・)」
そうして灯夜は体を起こそうとした、いつもと同じように、それが当たり前であるように
「(あ・・・れ?)」
しかし、灯夜の体は
やがて視界が少しずつ晴れ、周りもだんだんと見えてくるようになる、そして灯夜がなぜ起き上がれないのか、その真相すらも明らかになってしまう
「(なん・・で)」
暗闇の中で灯夜が見たのは、自分の両手足につけられている拘束具だった
まるで手術台のような広い台に張り付けられた自分の前には、まるで今からされる拷問を見ておけと言わんばかりに大きな鏡がある
「あらぁ?起きたの?
そう言って自身の唇を舌で舐めるスコールを見て、灯夜は恐怖しか感じなかったが、それよりも気になることがあった
「(スコールさん、
その結論を出す前に灯夜は見た、
先ほど見た自分の腕、その先の地面におびただしい量の血液が散っていた、まるで人が一人死んだかのような量の血は、もともとは白かったであろう床を真っ赤に染め上げている。
見るも無残なそれには、不可解な点があった、普通これだけの量の血が出ているのであれば人が一人死んでいてもおかしくはない、なのに死体一つ転がっていないのはなぜだ?
仮に死体を処理していたとしても多少なりとも引きずった跡が残るハズ、なのに引きずった形跡すらない
そして、最後・・・床の血はなにか一体を中心として広がっている。
その中心にいるのは‐‐‐灯夜だ
「ん”ーー!!ん”--!!」
灯夜の口からは想像を絶する叫びが吐き出される、しかしそれは口につけられた
前方に設置された鏡をよく見ればそこには体中を傷だらけにされ、血だらけの灯夜がいた
そう、あの睡眠薬の入ったご飯を食べた後、灯夜はスコールにここまで連れてこられ、そして拷問を受けた。
そうだ、拷問はすでに始まっていたのだ
そんな体中がボロボロで壊れてしまう寸前の灯夜にさらなる追い打ちがかかる
「あぁ・・・そういえばさっき灯夜くんが言ってた火事の件、調べておいたわよ」
そうしてスコールはプリントアウトしてきたであろう資料をぱらぱらとめくっていき、最後にはそれを地面へと叩きつける
それらは地面にこびり付く灯夜の血液で一瞬にして赤く染まり、もはや目では読むことさえできない
それでも必死に台の上から地面を見ようとする灯夜、それほどまでに孤児院の皆が、家族が心配だった
いつも優しく笑いかけてくれる院長
じゃんけんにはいつも勝つけど、勉強になると灯夜に勝てず悔しがり、どんな時も一緒にいた優斗
そのほかにもいろんな子供たちが灯夜と接点を持ち、遊び、学び、ともに暮らしてきた
そんな日常は戻ってこないかもしれない、でも生きていてくれたら、きっと会える
だから‐‐‐‐
「
その一言を聞いた瞬間、灯夜の視界は真っ暗になった
「なんだか火事の後一か所に集まって、助けを待ってたらしいわよ、『子供を抱きかかえる女性の遺体は柊孤児院の院長である咲良琴音であることが判明、そのほかの子供たちも身元を特定中』さぁ灯夜くん・・・どんな気分かしら?どんな顔をしているのか見せてちょうだい・・・!」
そう言うとスコールは猿轡を外し、灯夜の髪をつかみ強引に顔を見る
その灯夜の顔は、絶望に打ちひしがれていた
たとえ奴隷として売られても生きていればまたみんなに会える、それだけを心の支えに生きてきたのだ。
その支えが今、崩壊した。
「もう・・・殺してください」
「あなた、今なんて言ったの?」
スコールは少し雰囲気をピリつかせ、灯夜に質問した
「殺してください・・・ぼくにはもう、生きる価値なんてない・・・先生との約束を守れなかった、ヒーローなんていない、神様も!だからもう!殺してくれ!ぼくを‼この苦しみから・・・!解放してくれ・・・」
灯夜の心からの本心だった
だがそれを
「フフフ・・・アハハハハハ!!殺すわけないじゃない!!こんな!!可愛い坊やの絶望しきった顔を見て!私が!私はねぇ・・・灯夜くんみたいな可愛い男の子の絶望に浸った顔が大好きなの!昼間殺した男どもなんかじゃ満たされない!!あなたが私を満たすの!!だから殺さない、だから生かす!!」
スコールは今までのクールな様子と違い狂ったように言葉を吐き散らかす。
しかしそんな言葉など聞こえていない灯夜はただ存在しない神にむかって懺悔していた、意味のないことだとわかっていながら、神はいないと先ほど自分が言ったにもかかわらずに
「これからね?楽しみましょ!?灯夜クン!!」
その日から、誰もいないはずの無人島から、毎晩叫び声が聞こえるようになったという