灯火の鬼となる   作:零℃

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灯夜がこの無人島にカモフラージュされた亡国機業(ファントムタスク)の拠点へ連れてこられて約二年の歳月がたった

それまで灯夜はずっと、実験や拷問、動物を使った殺傷訓練や戦闘訓練をさせられ続けた

 

体中に付けられた数々の傷跡がその日々の凄惨さを物語っている

実際あの日から灯夜の心はとうに壊れてしまっていた

今では一日中自殺の方法を考え、実行している

しかしスコールが自殺など許すはずもなく、灯夜の心は次第に死んでいった

あれほど艶があり、短かった髪の毛も今では抜け落ちたような白髪であり、前髪は片目を隠せるほど伸びてしまっている

実験の邪魔になるからなのか、襟足だけは綺麗にまとめられていた

 

そして今日もその凄惨な実験が始まってしまう

自殺防止用に灯夜の腕は常に縛られ、自由など程遠い

 

灯夜の部屋の扉がいつもと同じように重々しく開き、そして見慣れた白衣が灯夜の視界を埋め尽くす

最初こそスコールがいつも出迎えたが、実験を重ねる度にに心が死んでいき、次第に声すら出さなくなった灯夜を見て、飽きたのか今では研究員と思しき人物たちが灯夜の部屋にやってくる

 

いつものように目隠しをされ、手錠をかけられてあの手術台の部屋へと向かう、そんな灯夜の足取りに躊躇はない

まるでそれが当然のように

 

「これより、被検体へのISコア移植手術を行う」

 

その研究員の発言は、死んだ灯夜の心の中を駆け巡った

 

「(ISコアの移植?なんでそんな事を?)」

 

灯夜にとってISとは()()()()()()()()()モノで男である自身にそのコアを移植したとしても意味がない

しかし亡国機業側はそうは思っておらず、男性でもISを使える可能性を見出していた、しかしそれは非人道的な行為である、なぜならそれはISコアを移植した男性の脳を書き換え、最強の兵士にさせる、その計画の手始めとして灯夜を第一号にしようとしているのだ

 

ある程度の手術が終わり、灯夜の意識も回復してきた

そこで灯夜にある小言が聞こえた

 

「このガキも可哀そうなもんだよ、男の復権のためとはいえISコアを移植されてその上()()()()()()()()()()()()()()

 

灯夜の脳が二年ぶりに揺さぶられる、今この研究員たちは何と言った?

()()()()()()()()()

 

「(なんでぼくが・・・こんな目に合わなくちゃいけないんだ、みんな、なんでぼくをこんなにいじめるんだ・・・ぼくは何もしてないじゃないか、なんで・・・なんでなんでなんでなんでなんで・・・)」

 

灯夜の中で疑問と怒りが交錯する、そんな中、ある研究員が異常に気付く

 

「・・・!?ISコアとのシンクロ率急上昇!?そんな・・・ありえない!!」

「どうした!?」

 

その研究員が騒ぎ出したのをきっかけに周りのほかの研究員たちも異常に気付く

灯夜の心拍や健康状態をモニタリングした画面、その中の移植したISコアとのシンクロ率を示すメーターが急上昇していた

 

「ISコアとのシンクロ率90%突破!拘束、破られます!」

「殺傷部隊を呼んで来い!それとスコール様に報告を!」

 

周囲が慌ただしく動く中渦中の人である灯夜は頭の中に響く()に向き合っていた

 

 

 

 

「ここ・・・どこ?」

 

灯夜はどこともわからない場所に一人で立っていた

確か自分は手術台の上で拘束されていたはず、なのにいつの間にか風が心地いいどこかの草原に移動していた、夢かとも思ったがあまりにもリアルすぎる

それにどこか懐かしい・・・まるで昔の‐‐

 

そこまで灯夜が考えた時だった

後ろから聞こえた、あの声が

思い出したくもない、しかし忘れることはできないあの日の声

 

そう、あの火事の日だ

燃え盛る炎、それらは寝室を、食堂を、風呂場を、今まで過ごしてきた場所、大切な場所がすべて焼き尽くされている

その光景を、二度目だというのに灯夜はただ茫然と立ち尽くしていた

まるで、何をしても無駄だと言わんばかりに

 

『貴様はそれでいいのか?』

「誰・・・?」

 

突然どこかから声がした、初めて聞く声だというのにその声はどこか懐かしさを感じる

周りを見渡しても、その声の主は見当たらない、なのにまるで隣にいるかのように声は聞こえる

 

『貴様はただ茫然と立ち尽くし、何もできないまままた家族が死んでいくさまを見ているだけでいいのかと聞いている』

 

声の主はそう言うと、灯夜の前に姿を現した

その少女はまるで人形のように整った顔立ちで、黒く長い髪は艶やかでまるで星空のような印象を受ける

何といっても一番の特徴は額に黄色く発光する鬼のような角が二本生えているのだ、それがこの少女が人ではない異形のモノだということを伝えている

 

「君は?」

『答えろ、柊灯夜、貴様はこのままでいいのか、それともすべてを変える力が欲しいのか、さぁ・・・どちらだ』

 

灯夜は考えた

自分はもう全て失ってしまった身だ、そんな灯夜がいまさら力を手に入れたところで、何も変わりはしない

ただ今は、この状況から抜け出したい、そしていち早く死んでしまいたい

 

「ぼくには、すべてを変えるだけの力なんていらない、でも、ここで僕が脳を書き換えられれば二度と僕は死ねなくなる」

 

灯夜はぐっと拳を握った、それは覚悟の表れだろうか、手からは少量の血が出ている

 

「だからぼくに、ぼくを殺せるだけの力をください」

『フフフ、ハハハハハハ!!!面白い!いいだろう、力を与えてやる』

 

少女はそう言うと灯夜の胸に手を置いた、すると灯夜の体を光が包み込む

 

『では達者でな柊灯夜、その体で死んでみせよ』

 

次の瞬間灯夜の意識は浮遊感とともになくなっていった

 

 

 

 

「鎮静剤の投与を急げ!縛りもキツめにしておけよ!」

 

灯夜が目を覚ますと周りの大人たちは騒然としていた

そして灯夜はあることに気づく、体が異様に軽いのだ

それに加えて、先ほどまで自分の両手首を締め付けていた拘束具がまるで存在しないかのように腕が軽かった

 

「被検体、覚醒しました!」

「鎮静剤は!?」

「だめです!間に合いません!」

 

周りのそんな声などは気にすることなどせずに、それまで貼り付けにされていたのがウソのように拘束具を引きちぎり、堂々とその体を起こす。

その様子に周りは騒然とし、誰一人として動ける者はいなかった。

 

「行か・・・ないと」

 

灯夜はそうつぶやくと、ふらふらと扉から部屋を出ていった

 

 

島の末端部、岩礁ばかりが目立つその波打ち際の崖の上、サスペンスドラマのラストシーンのような場所に灯夜は来ていた。

 

「灯夜ァ!もう逃げられねぇぞ!おとなしく戻りやがれ!」

 

そう荒々しい声で言ってくるのはオータムだ、あれから少ししか顔を合わせてはいないが、やはりというか、口調は相変わらずだ

よく見ると後方にゴールデン・ドーンを纏ったスコールもいた、彼女の嗜虐的な笑みに恐怖を覚える灯夜だったが、今はそんなことはどうでもいい

 

「あらぁ?ただのモルモットが随分な勝手をしてくれたじゃない・・・さぁ、あなたにもう戻る道はないわよ?おとなしく‐‐ッ!?」

 

スコールが言葉を言い終わる前に灯夜は()()()()()()()()()()

 

「あんたらに好きにされるよりはこっちのほうが幾分かマシだよ」

 

今までの口調とは打って変わった灯夜、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに崖の先の荒波へと飛び込んだ

最後に灯夜が聞いたのは、スコールとオータムの行き場のない叫びだった

 

 

 

 

ドイツのある浜辺、そこで一人の少女がランニングをしている、動きやすそうなアンダーシャツと短パンに身を包んだその少女は太ももの位置につけてあるナイフホルダーからナイフを取り出し、目の前の仮想敵に向かってナイフを振り下ろす

そんな見た目と行動のギャップが激しい彼女はその銀の髪をなびかせ、海を見る

 

そんな少女の目には光はなく黒く淀んでいた

 

 

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