灯火の鬼となる   作:零℃

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希望

基地の所長室への廊下で、ラウラは珍しく他人について考えていた

他人というのも、先ほど救助した少年、柊灯夜のことだった

ラウラは灯夜を見た瞬間、らしくもない人命救助をしてしまった、軍に身を置いている以上救助をすることもあるがなんせここはIS配備特殊部隊、大きい声では言えないが、どちらかといえば攻める側の部隊であり、救助などはあまりしない、訓練でも数えるほどしか救助活動をしていない

 

「何故あの男を見たときに見覚えがあったんだ、私は・・・?」

 

ラウラは所謂試験管ベビーであり、人口の生命体である

ドイツの科学者たちに作られた彼女は過去なんて持ち合わせてはいない、だから何故灯夜を知っていたのかが説明できなかったのだ

様々な思いが胸の中を駆け巡っているうちに所長室まで着いてしまう

 

「とにかく報告だ、あとで教官にも顔を合わせておこう」

 

余計な考えを取り払い、ラウラは所長室をノックした

余談だが、ラウラに灯夜の捕縛報告が言い渡されたのは、数時間後だった

 

 

 

「起きろ、柊灯夜」

 

狭い空間で、凛としながらも力強い声が響き渡る

灯夜が目を開けるとそこはなんだか実験室のようだった、全体的に白い空間、そして数段高いところはマジックミラーのガラス張りになっておりこちらから向こうの様子はうかがえない

 

「あぁ、誰だ?俺は・・・そうか、ISを起動してそれから捕まったのか、ハハ・・・我ながら無様だな」

「まず自己紹介をしようか、私はドイツ軍所属、シュバルツェ・ハーゼの副隊長、クラリッサだ」

 

灯夜が自称的に笑うも、どうでもいいといった風にクラリッサは続ける

 

「冷たいな、全く・・・もう少し話してくれてもいいんじゃないか?」

「黙れ、今から私の言う質問に答えろ、お前は部外者だ、射殺しようと私の勝手だ、いいな?」

 

クラリッサはそう言うと質問を始めた

 

「まず、お前は男だな?」

「付いてるものは付いている、俺がISを動かしたからと言って女だと思うな」

 

その後も質問を絶え間なくされるが、灯夜はやましいことも隠していることも特にないので、スラスラ答えていった

 

「では最後に、()()()()()?」

「ん?やけに具体性のない質問だな、まぁいいが・・・」

 

灯夜は少し呆れたように言うと、言葉を続けた

 

「一つ、俺は人間だ、二つ、戦闘訓練を受けてはいるが、人を殺したことはない・・・まぁ先ほどは殺しかけたがな、三つ、多分これが質問の回答になるだろうな、俺の体にはISコアが埋め込まれている、名前は轟絶鬼でどういうわけか自我がある、俺が眠るたびに話しかけてくるぐらいには好かれているとは自負している、おそらく俺にISが動かせたのもこいつが原因だろう」

 

その発言にクラリッサ含めそこにいたシュバルツェ・ハーゼの面々は戦慄した、人のそれも男性にISコアを埋め込む、そんな行為に人の心は耐えられるものなのかと、それに灯夜は齢十歳にして家族を失い、そして亡国機業に買われ、今まで実験を繰り返されてきた

それをこの少年はあっけらかんとした態度で言うのだから恐ろしい

 

「わかった、質問は以上だ」

「なんだ同情でもしたか?随分とあっさり解放するんだな」

 

そんな灯夜の問いに、クラリッサは何も答えることができなかった、まるで真っ暗な空間を見てしまったかのように彼女の思考は停止していた

それほどまでに、灯夜の話を聞いてショックを受けていたのだ

 

灯夜が他の部隊員たちに連れられているとき、灯夜は基地内の人間から奇怪なものを見るような目で見られた、きっとさっきの会話を誰かが聞き、広めたのだろう

灯夜はもとより受け入れられると思ってなどいないため、それほどショックではなかったが、それでもそんな目で見られるのはあまりいい気はしない

 

そうこうしていると、灯夜を連れていた女性二人が前方に向かって敬礼をしていたのに気づく、それを見て見よう見まねで敬礼すると、その女性は灯夜の目の前で立ち止まった

目の前に立ち止まられて少し驚く、しかし、自分の立場はいきなり基地に入って部隊員を殺しかけた人間なので、何も文句は言えなかった

 

「貴様か、柊灯夜というのは」

「そうだ、俺が柊灯夜だ、で、あんたは?」

 

女性は少し表情を曇らせるが、しっかりと灯夜を見据えて話を続ける

 

「私は織斑千冬と言う、ここでは特別講師として招かれた身でな、なに、取って食おうとしているわけではない、だからその殺気を解いてくれ」

「随分とまぁ、敏感なんだな」

 

千冬は灯夜の微量な殺気に気づき、それを注意する

しかし灯夜はそれに噛みつくかのように睨みつけていた

 

「一応少し前まで世界最強を争っていた身だ、あまり舐めてくれるなよ?」

「それはわかったが、俺と比べられないくらいの殺気をぶつけてくるのはやめてくれないか?見ろ、横の二人が今にも泣きそうだ」

 

灯夜が言った通り、灯夜を連れていた先ほどの女性二人は今にも泣きだしそうな勢いで千冬の殺気に気圧されている、それでいいのかドイツ軍・・・

 

「ほう?貴様は平気か」

「殺気や死ぬような思いって言うのは慣れているからな、別にあんたの殺気くらいなら平気だ」

 

灯夜は相も変わらずあっけらかんとした表情で千冬と話すが、千冬はどこか面白くなさそうな顔で灯夜を見つめていた

そんな顔をしている千冬に対して灯夜は別段脅威など感じてはいなかった

 

「というより、あんたがここの教官って言ってたよな?部隊の人たちに言っておいてくれ、人の部屋に勝手に突入するなって、確かに急に来た俺も悪いとは思っているが、こいつらが来なければ部隊員の女の子を殺しかけることもなかった」

「何?こいつらが突入したのか?貴様の部屋に?話を聞かせてもらおうか?」

 

千冬にとっては今回の件は、ラウラが勝手に基地に男を連れてきたということだけしか聞かされていなかったので、灯夜から聞かされた件は千冬にとって厳罰すべき対象であり、一時的な教官だとはいえ、誇り高いドイツ軍にあってはならない醜態をさらしたということは到底容認できないものだった

それも重要だが、灯夜が最後に言った言葉に千冬は引っかかった

 

「では立ち話もなんだからな、どこかスペースはないのか?」

「ふむ、ではそこを少し行ったところに雑談用の休憩スペースがある、そこで話そう」

 

灯夜はわかったと、相槌を打つと先ほどの女性たちと別れ、千冬と二人でその休憩スペースへ向かった

 

そこからしばらく歩くと千冬の言う休憩スペースに到着する、雑談用とは聞いていたがその様相はとてもそうは見えなかった、というのも外観があまりにもオシャレなのだ、木組みのカフェモチーフのその場所からは木とコーヒーの素晴らしい匂いが漂っており、その香りを助長するように静かなジャズが聞こえてくる、灯夜はこの基地に来て初めて鼓動が跳ねるのを感じた

灯夜が気に入ったのを感じたのか千冬は機嫌よさげに歩みを再開した

 

「気に入ってもらえたようで何よりだ、ここは私のお気に入りの場所でな、なにぶんコーヒーの味も良ければ雰囲気も良い、私もここを初めて見たときは心躍ったものだよ」

「確かに雰囲気も良い、香りを嗅ぐ限り味も相当良いんだな・・・感謝しよう」

 

二人はそう言うと椅子に座り、話を始めた

 

「まず柊、うちの娘たちがすまなかった、そしてお前の境遇が知りたいが良いか?」

「さっきの襲撃の件は焦ったが問題ない、こちらにだって非はある、で境遇の件だが・・・」

 

そこから灯夜は本日三度目の自分のことを話した、灯夜自身少し話疲れている部分はあったが、それでも千冬は真剣に聞いた

そんな千冬を見て灯夜も真剣に話していた

 

「お前の境遇はわかった、これまで受けてきた苦痛も、だが同情はしない、私には到底理解などできないからな」

「心遣いは感謝する、だが俺の処遇はどうするんだ?あんたの教え子を殺しかけたんだ、ただではすまんだろうに」

「そうだな、普通であれば即刻刑務所行きが妥当だろう」

 

その言葉を聞き、顔を曇らせる、もとより救いの道なんて期待していなかった灯夜だったがこうやって面と向かって現実を突きつけられてしまってはもうどうすることもできない

あの地獄から逃げてきたというのに・・・、死刑にはならないというので死ぬのが目的である灯夜にとってはまさに生き地獄だ

 

「だが、私はこれをなるべく避けたいと思っている、お前は初めてISを動かした男だ、その事実が公表されれば大混乱が予想される、そして刑務所には送られず一生モルモット生活だろうな、私とて情がないわけではない、だから上と取引をしようと思うんだ」

「取引?」

 

灯夜が短く質問すると千冬はニヤッと笑った

 

「お前はここで働け、私と同じく教官として、そして、シュバルツェ・ハーゼのメンバーとして戦場で戦ってもらう、ドイツにはお前というイレギュラーのISの操縦データを渡す、これでお前にはドイツ軍という後ろ盾ができ、常に死と隣り合わせの空間で生活できる」

「・・・」

 

灯夜は黙って聞いていたが、その目は大きく見開かれており本人にとって衝撃的だったのは明白だ

 

「まぁお前に拒否権はない、お前の目的である死ぬ、というのも達成できなくなるからな」

「わかった、わかったよ」

 

灯夜は参ったという風に両手を上げた、ただその表情は笑っていた

 

「よし、契約成立だ、これから上に直談判しに行くからお前も来い」

「そんなに上手くいくのか?」

「上手くいかせるんだ、幸い今のところお前のことを知っているのはこの基地の人間だけだ、お前が偶然ISに触れて起動させたとか言っておけばいい、これでも信用はあるほうだ、ただそれでも上手くいかなかった時は・・・」

「時は?」

 

千冬はなんでもないと言うとそのまま足早に会談用のモニタールームへと向かった

 

 

 

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