灯火の鬼となる   作:零℃

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家族

あの後、灯夜と千冬は所長を含めた三人で話をし、ドイツへの直談判を開始した。

 

『世界最強のIS乗りが緊急の会議があると呼び出すから来てみれば、何故我々を呼んだ?』

『それよりも織斑千冬、横の子供はなんだ?何故そんな子供がそこにいる?』

 

ドイツ政府の重役たち、彼女らは口々に千冬への質問をするが千冬はどうでもいいといった風にそこに堂々と立っている

 

「多忙のところ時間を作っていただいて感謝します、勝手ではありますが時間もないため早速本題へ入らせていただきます」

 

千冬のそんな態度に重役たちは口々にしていた質問を中止し、千冬へ視線を集めた

 

「先ほども質問にありましたこの男、名前を柊灯夜と言います、この男が何かということですが、先刻、この男がこの基地へ迷い込み、緊急用に展開されていた軍用のIS、ラファールを()()()()()()()

『なっ・・・!?』

 

重役の女たちは表情を崩した、彼女たちにとってISは女だけが操れる絶対の力の象徴であり、それが男に操れるとあっては自分たちの権威が地に落ちる、そう感じたのだ

 

『何かの間違いじゃないのかね?』

「いえ、先ほど私自身も確認いたしました、彼は本当にISを纏える世界初の男性だ、それとも私を疑われますか?」

 

千冬がそう言うとモニター越しの女たちは再び騒ぎ始めた

 

「心中お察しいたしますが今日はそのことを報告しに来たのではありません」

『ならば何を言いに来たのだ?』

「この男、柊灯夜をドイツ軍で飼おうという提案です」

『飼うとは具体的にどういうことだ?モルモットにするのは些か勿体ないとは思うが』

 

重役の一人が千冬の質問に食いついた

 

「この貴重な男性IS操縦者、柊灯夜をドイツ軍所属IS配備特殊部隊シュバルツェ・ハーゼの新人隊員として迎え入れ、そのデータと力をドイツ軍が独占するのです、私はあと数年で日本に戻りますがこのことは口外しないと誓いましょう、世界最強の称号にかけて」

 

一歩間違えれば千冬も灯夜も殺されかねない危険な道、そんな道を千冬は今正々堂々と真正面からぶつかっている

これが世界最強(ブリュンヒルデ)、これが織斑千冬だと灯夜は痛感した

 

『・・・』

 

モニター越しの重役たちの表情は考え詰めていたが、無言の空間から約20分ほど、灯夜たちからすれば途方もなく長い時間に感じた時は終わる

 

『いいだろう・・・ただしデータ報告は一週間に必ず一度は行うこと、そして彼がドイツに危害を加えんとするならばミス織斑が責任を取って必ず殺せ、条件は以上だ、データ取得用の機体は後日手配しよう』

「お心遣い痛み入ります、では」

 

そう言って重役たちを映したモニターは軒並み光を失っていく

 

「だから言っただろう?上手くいくと」

 

この日初めて灯夜は女性に憧れを抱いた

 

「姐さんって呼んでもいいか?」

「あぁ、良いぞ」

 

灯夜の口からこぼれ出たそんな言葉に千冬は笑って答えた

 

 

 

そのころラウラは灯夜がいるはずの自分の部屋に向かっていた、彼女はつい数分前に灯夜の捕縛報告を聞いたばかりだった、その報告を聞いた時には大事な隊員の胸倉を掴み、居場所がどこかを怒鳴って聞いていた

すっかり腰が立たなくなってしまった隊員を横目に必死で駆け出していた、ラウラ自身何故自分がこんなにも灯夜に必死になっているのか理解ができなかったが、そんな思いを捨て去って今は早く灯夜の顔が見たい、その思いでラウラは自分の部屋のドアを勢いよく開けた

 

「あぁ隊長ですか、びっくりしましたよいきなり入ってきて、お楽しみ中だったのに」

 

クールな物言いでラウラの枕の匂いを嗅ぎながら自分の髪の毛を拾い集めているのはラウラの右腕とも言うべきシュバルツェ・ハーゼの副隊長であるクラリッサだった

 

「クラリッサ、お前は何をしているんだ?」

「はっ、私は隊長の毛髪のしゅうしゅ・・・部屋の掃除をしておりました」

 

完全に欲望が抑えきれていないクラリッサとそれを汚物を見るような目で見つめているラウラ、その光景は想像よりも遥かにシュールだ

 

「はぁ・・・ところで、柊灯夜を拘束したと報告を聞いたんだが」

「えぇ、ですがその後解放したんですが・・・どういうわけかどこにも姿がなくて」

 

クラリッサは申し訳なさそうにラウラに言う、ラウラ同様の眼帯で覆われた左目と逆の右目からは涙がたまっている

 

「わかった、私は奴を探す、基地内で歩き回られるのも面倒だからな」

「では私も、ご一緒しましょう、もとはと言えば私の責任ですから」

 

そう言って二人が部屋から出ようと、扉を押し開けた時だった

 

「ん?どうした?そんなに怖い顔をして」

 

そこには今まさに探そうとしていた張本人である少年、柊灯夜が立っていた

 

「お前・・・今までどこにいた!?」

「そんなに怒鳴るな、姐さんと少し話をしていた」

「教官と?」

 

ラウラが訝しげに灯夜を見つめる、すると灯夜の後ろから千冬がぬっと顔を出した

 

「きょッ教官!?」

「ラウラ、お前のそんな顔を見れて私は満足だよ、そんなにこの男のことが気になるのか?まぁいいが、とにかく順を追って説明する」

 

驚いているラウラをよそに、千冬と灯夜はずけずけと無遠慮にラウラの部屋の中へと入っていく

 

「さて、説明しよう」

 

四人は部屋に置かれた小さいテーブルの周りに座り、話始めた

 

 

 

「というわけだ、文句はあるか?」

 

一通りの説明が終わり、千冬から質疑問答はあるかと聞かれる

 

「私は何も」

「私は納得できません、教官」

 

そう言ってキツめに灯夜を見据えるのは隊長であるラウラだ、自分が連れてきたとはいえ一般人を部隊に入れるなどあってはならないのだ

 

「だろうな、だから急ではあるが柊とボーデヴィッヒにはこれからも模擬戦を行ってもらう、そうすればお互いの実力を分かり合えるだろう、異論は認めん」

「ほう・・・?」

「んなっ・・・本気で言っているのですか教官!?軍人である私と一般人のこいつが模擬戦など!」

「自分が勝つに決まってる、か?安心しろボーデヴィッヒ、こいつは私の殺気を前にしても表情一つ変えない、お前が思ってるよりはやるだろう、それに言ったはずだ、異論は認めないとな」

 

ラウラはしかし、とまだ反論を続けようとするも千冬の雰囲気がそれを許さなかった

そしてすっかりあきらめたラウラと共に、灯夜たちは模擬戦を行う場所へと向かった

 

 

ラウラの部屋から時間にして10分ほどの場所、体育館のようなその場所はかなり広く、バスケのコートが三つほどある

上を見上げると体育館特有の強い光が灯夜の目を刺激する、あまりのまぶしさに目を瞑ってしまうがすぐに慣れて目を開けられるようになる、そんなありふれた人間らしい行動だが灯夜にとってはまだ生きているという証明になってしまう

 

「では双方準備に取り掛かれ、開始は十分後だ」

「私は負けない、部隊を任されたものとして必ずな」

「勝たなければ俺が死ぬ確率が減る、皮肉なものだな」

 

そう言って二人はそれぞれ準備を始めた

 

 

10分後、上着を脱ぎ、すっかり動きやすくなった二人はお互いに離れた位置に立っていた

 

「双方準備は整ったな?ではルールを説明する」

「ルール?あるのかそんなもの?」

 

千冬は当たり前だと言い、続ける

 

「制限時間は二分、武器は使用禁止、明らかな弱点、股間などを狙うのは禁止、以上だ」

 

千冬の手にタイマーが握られ、今まさに火ぶたが切られようとしている。

二人の間には空間が少し歪んで見えるほどの緊張が張り詰めており、無駄な動作を許さない

 

「始めっ!!」

「フッ!」

「シィッ!」

 

千冬の号令を合図に二人が一気に駆け出す

普段ナイフを主武装としているラウラにとって今回の戦闘は少し不利であるが、今までの経験から問題はないと推測していた

だが灯夜はそんなラウラなんて気にする間もなくスライディングを仕掛ける、だがそれを紙一重でかわすラウラに追撃を入れんと体を跳ね上がらせて浮遊しているラウラの体に拳を入れる

 

「うぐっ・・・」

 

ラウラは一発体にもらってしまったことにより苦痛の声を漏らし、着地に失敗する

その隙は逃さないとばかりに灯夜は再びラウラへ拳を振りかざす

しかしそれを待っていたかの如くラウラは灯夜の懐に潜り込み、振りかざされた腕を掴み、柔道のように灯夜を綺麗に投げた

 

「甘い!」

「かはッ!?」

 

咄嗟のことで受け身が取れなかった灯夜の肺からは空気が押し出され、ラウラは関節技で灯夜を拘束している、これによって灯夜は身動きが取れなくなってしまった

 

「どうした?私に勝つのであろう?」

「こんなところで!」

 

すると灯夜は力任せに腕をラウラごと持ち上げて地面に叩きつけた

 

「貴様ッ!」

 

衝撃で拘束が緩んだ灯夜はすぐにラウラから距離を取った、先ほどのように突っ込んでいけばカウンターを食らう危険がある、そこで一旦距離を取ったのだ

 

「意外にやるじゃないか、柊灯夜」

「ボーデヴィッヒもさっきのカウンターは素晴らしかった」

 

そう言って灯夜は再びラウラに攻撃を仕掛ける

足を狙って地面に擦らせるように回し蹴るもかわされてしまい、ならばとすぐさま上段蹴りをするもかわされてしまう

ラウラはその攻撃をかわすと今度は自分のターンだと言わんばかりに灯夜と同じ動きをする、スピードもパワーも段違いのその蹴りに灯夜は対応できずにまともに食らってしまう、二発目の上段が灯夜の脇腹にヒットし、痛さからうずくまってしまう

チャンスだととどめを刺しに行こうとしたラウラに灯夜の不敵な笑みが聞こえた

 

「ハハハ!!これ!これだよ!命がすり減っていく感覚!だから戦闘は良いんだ!さぁ!今度は俺のターンだ」

 

灯夜は狂ったようにそう言うと今までからは想像もできない、人間なのかと疑うようなスピードでラウラの懐へと侵入した

低めのアッパーカットの構えを見て防御の体制をとろうとするラウラだが時すでに遅しと言わんばかりに灯夜のアッパーがラウラの腹へ炸裂する

衝撃で少し飛んだラウラに対して灯夜は殺す勢いで次々に拳を入れていく

 

「そこまで!!」

 

千冬が大きな声でそう言うと灯夜の拳がぴたりと止まった

ハッとした灯夜はラウラを見る、鼻からは血が噴き出しており、服の間から見えるおなかはあざのような内出血の跡ができていた

そして灯夜自身の拳はラウラの吐いた液体や血で塗りつくされていた

 

「ぁああああああ!!」

 

自分がまた人を傷つけた、その事実に灯夜は発狂し気を失ってしまった

 

「全く、やりすぎだ・・・ボーデヴィッヒを急いで医務室へ!入口付近で見てる隊員(バカ娘)たちにも手伝わせろ!私は柊を見る」

「わかりました教官!そこにいるお前たち!手伝ってくれ!」

 

 

 

それから約一時間後、灯夜はラウラの部屋の床に横たわっていた、千冬がここに運び込み、外からカギをかけたのだ

三十分前ほどに目覚めた灯夜は自身がしたことに再び狂乱、嘔吐したが今では落ち着きを取り戻している

 

「匂い・・・まだ取れない」

 

灯夜は自分の手にこびり付いた不快な匂いを嗅ぎながら自分と対峙した女の子、ラウラのことを心配に思っていた

今灯夜の中にあるのは彼女に対しての謝罪だけだった、そんな灯夜に扉の鍵が外れる音が聞こえた

 

「柊、入るぞ」

 

そう言って入ってきたのは千冬だった、彼女は灯夜の横にあるベッドに腰かけ、まっすぐに灯夜を見ていたが灯夜は顔を背けていた

 

「ラウラと戦ってみてどうだった?」

「・・・」

 

灯夜は答えない

 

「では質問を変えよう、自分がラウラを殺しそうになった時、どう思った?」

 

その質問に灯夜は口を開いた

 

「怖かった、()が僕じゃなくなってしまうそうで・・・何か別の化け物になってしまいそうで、それに死にたいっていう僕が他人の命を奪っていくと考えるととてつもなく・・・怖かった」

 

灯夜は震えながら質問に答えた、これが彼の本心なのかと千冬はどこかで納得した、そしてまるで小動物のように震えてやまない灯夜を優しく抱きしめた

 

「それが本当のお前なんだな・・・大丈夫だ、お前は化け物なんかじゃないその証拠に、入ってっこい」

 

千冬がそう言って扉のほうに目を向けた、灯夜もつられて見るとそこには先ほどの少女、ラウラが立っていた

 

「ボーデヴィッヒ・・・?なん、で?」

 

灯夜はあの傷では治るのに数週間はかかると考えていたが、現代の医療技術はすさまじく完治とまではいかないものの歩けるまでは回復できていた

 

「随分としおらしくなったな、柊、これくらいドイツの医学力を駆使すれば造作もない、少し痛むがな」

 

そう言ってラウラは自身の腹部を手でさする、そんな仕草に灯夜は申し訳なさで頭がいっぱいだった

 

「僕っごめ、んボーデヴィッヒに助けられたのに、傷つけた」

「心配ないと言っているだろうに、まぁ、お前を舐めていた私にも責任がある、だからそう謝るな」

 

ラウラはそれより、と続けた

 

「柊灯夜、お前を我が部隊、シュバルツェ・ハーゼの新隊員として迎え入れることにした、お前のその圧倒的なまでの破壊力、そのままではただの暴走機関車だ、よってここで力の使い方を覚えろ、以上だ」

「そういうとこだ柊、お前はもうここの家族だ、しっかり学べ」

「良いの?僕なんかが・・・」

 

ラウラは少しイラつきながらも灯夜に近づき、その手で灯夜の頬にビンタを食らわせた

 

「良いか!?柊灯夜!私はお前が必要だと思ったからこの部隊に入隊するのを許可したんだ!それなのに僕なんかとはなんだ!さっき教官が言った通りお前はもう私たちの家族だ!お前をバカにするやつらは私が決して許さない!たとえお前自身であってもだ!わかったな!」

「・・・わかった、これからよろしく・・・隊長」

「ラウラでいい、その代わり私も灯夜と呼ばせてもらう」

 

灯夜はもちろん、と言うと他の部隊員が待つ食堂へと向かった

 

新しい家族と共に

 

 

 

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