灯火の鬼となる   作:零℃

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水面下

灯夜の部隊入りが決定した翌日、シュバルツェ・ハーゼの面々は基地のロビーに集まっていた、それぞれが内に秘めた思いを口に出すことはなく、今はただ一人の軍人として一切の乱れもなく綺麗に整列していた

そしてその静寂な空間に足音がひとつ聞こえてくる

 

「おはよう諸君、早速だが諸君らに報告がある、先日部隊長のラウラ・ボーデヴィッヒが男を連れてきたという件だが・・・件の男、柊灯夜をシュバルツェ・ハーゼのメンバーに参入させることが決定した、知っている者も多いと思うが柊は男にしてISを動かした」

 

千冬のその言葉に静寂だったロビーにざわつきが生まれ始めた、知ってるものが多いとはいえ女にしか動かさせないはずのISを男が動かしたというにわかに信じがたい情報を自分たちが慕っている教官から直接言われるのだから当然だろう

 

「静かにしろ、異を唱える者は後で私の部屋に来い、一応これは部隊長の判断でもある」

 

千冬がそう言うと後ろからラウラが千冬と変わり、話始めた

 

「今教官から言われたとおりだ、現に私は彼に負けてしまった、だがあの力は私たちとは違う、脆くて弱いいつ壊れてもおかしくないような力だ、だからお前たちの力を借りたい、どうか彼を、灯夜を、助けてやってほしい」

 

今までのラウラからは考えられないような行動、彼女が会ったばかりの、しかも男のために頭を下げる姿なんて部隊員たちは想像できなかった

だからこそ説得力があったのだ

 

「隊長、我々黒ウサギ隊は隊長について行きます」

 

そう言い放ったのは他でもないクラリッサだった、それに続くように他の隊員たちも拍手を始める

 

「ありがとう・・・私は、素晴らしい部下たちに囲まれているのだな・・・」

 

ラウラは少し涙ぐみ、しみじみとそう言った

この時は初めて彼女は部下たちと心を通わせ合った

 

「では最後に本人に出てきてもらおう、入ってくれ」

「あー、入りにくいなこれ・・・」

 

少し照れたように頭を掻きながら入ってくるのは渦中の少年である灯夜だ

 

「まずは感謝を、姐さん、ラウラ隊長、そして黒ウサギ隊、俺は昨日ラウラに命を救われた、日本人として恩は返そうと思っている、だから・・・」

 

灯夜は緊張しているのかどこか歯切れが悪い

 

「ダメだな・・・素直に言おう、俺は少し人というものに恐怖を感じている、俺の生い立ちはおそらく知れ渡っているだろう、だから詳細は省くが俺は過去の経験からあまり人に好かれるような態度はとらないと思う、もしかしたら昨日ラウラにしたように殺しかけることもあるかもしれない」

「だからどうした?」

 

灯夜が暗い空気でそう言うも、その他の隊員たちはあっけらかんとしている

彼女たちにとって危険とは日常であり、死とは隣人のような関係だ、灯夜が危険であろうが今さらなのである

 

「そうか・・・お前たちにとって俺はただの赤子同然か、ならいい、たった今から俺はドイツ軍所属IS特殊配備部隊シュバルツェ・ハーゼのメンバーだ!よろしく頼む」

 

灯夜がそう言うとロビー内は拍手と共に暖かい空気に包まれた、その光景にあの頃を思い出した灯夜は少し物悲しくなった

 

「話はまとまったな!では早速午前九時より訓練を始める!遅れたバカは外周10週だ!」

「「はい!!」」

 

ここから灯夜の新しい生活が始まる・・・

 

 

 

 

 

~亡国機業side~

 

「あの子の位置はまだ追えないの!?」

 

某国のとあるビル、そこにはベッドに横たわった包帯まみれのスコールが申し訳なさそうに立っている男に対して怒号を浴びせている、普段は美しい顔が今では苦痛と怒りで歪んでいる

 

「申し訳ございませんスコール様、彼の体にISコアを埋め込んでいる以上コアネットワークで追えると確信しているのですが・・・依然姿どころか影さえ追えず・・・」

 

男はどんどん委縮していき、だんだんと声も萎んでいく

灯夜が亡国機業からの脱出に成功したとき、同時に謎の無人ISが何十体も現れスコールたちを追い詰めたが必死で逃げ、今は隠れ家の一つで治療をしながら灯夜の居場所を探していた

しかし、灯夜に埋め込まれたISの轟絶鬼はコアネットワーク外の存在のためコアネットワークでは捜索ができない、それに気づいていない亡国機業はまさに無駄なことしかしていないのだ

 

「使えないゴミはいらないのよ!あの子がいないとこれからのデータが取れないじゃない!私の計画が・・・!!」

 

スコールは前の冷静さをすべて欠いて感情のみで動いていた、その姿はまるで獣だ

 

「世界中の監視カメラへのアクセスを試みていますがまるで何者かにブロックされているようにことごとく失敗しております、ここはひとつ期間を置いたほうが・・・ッグ!?」

 

男が捜索中止の提案をするとスコールはISを展開し、竜の尻尾のような武装で男を締め上げた、締め上げられた男は苦痛の表情を露わにし口からは血が少し溢れている、しかも体からは人から到底鳴ってはいけないような音が鳴ってしまっている

 

「いい?私は今機嫌がすこぶる悪いの、期間を置くなんて冗談じゃないわ!どんな手を使ってでもあの子を見つけなさい!これは命令よ!」

「・・・ッグァ、わかりました」

 

男は乱雑に床に降ろされると苦悶の声を漏らしながら部屋から去っていった

男と入れ違いに女性が一人、スコールのいる部屋に入ってくる

 

「オータム・・・どうしたの?悪いけどこんな体じゃお相手はできないわよ?」

「・・・スコール」

 

オータムは顔を下に向けたまま弱弱しく呟く

 

「なぁ、なんであのガキに・・・灯夜にそこまでこだわるんだ?ほかに実験体なんていくらでもいるじゃねぇか・・・なのになんで?」

「なに?妬いてるのオータム?」

「・・・答えてくれ」

 

オータムは少し強く催促した、オータムのいつもとは少し違う雰囲気に答えることにした

 

「そうね・・・まぁ単純に言うならあの子がお気に入りだからよ、私はね・・・あの子の目に惹かれたのよ」

「目・・・?」

「そうよ、あの子の希望を失った・・・この世のすべてに絶望したようなあの目・・・あぁ、思い出しただけでも体が火照ってきてしまうわ」

 

スコールは包帯まみれの体をもじもじさせ、その顔はどこか恍惚としている

 

「そうか・・・スコールは変わっちまったんだな・・・」

 

そんなオータムの呟きはスコールに伝わることはなかった

少しふらつきながらもオータムは部屋を後にするのだった

 

 

sideout

 

 

~束side~

 

「さぁて?向こう側の監視カメラのハッキング対策もバッチりだ~!あとはとーくんを探すだけなんだけど・・・なかなかうまくはいかないよねぇ~」

 

一度寝たのか、束の目の下の隈はすっかり姿を消しており、血色のよくなった顔はやはり美少女だ

しかしそんな事実を評価する人間がいない潜水艇内では彼女の独り言とコンピューターや機械の音だけが響いている

そんな環境にすっかり慣れてしまった束は気にすることなく再びパソコンの前に座り、作業を再開する

 

「監視カメラの映像は調べつくしたし・・・とはいってもこれだけ時間が経っているのなら波打ち際の捜索も多分意味がない・・・としたらもう保護されてる・・・?それにとーくんが万が一ISを動かしちゃったら・・・あわわ、こりゃ大変だ~!!急いでこっちで保護してあげないととーくんがまた逆戻りになっちゃうよ~」

 

束にしては珍しく慌てながらパソコンを操作していく、そもそも何故束は灯夜に対してここまでするのだろうか

 

「あの時のお礼もまだだしね~早く会っていろいろお話がしたいなぁ」

 

 

今でも束にとっては昨日のことに思い出せる

それは約二年前、灯夜のいた柊孤児院が火事になる前のこと

その時束は今のように潜水艇に身を隠すことなく自分なら追ってくらいどうとでもなると過信し、表を堂々と歩いていた

その自信が仇となったのか束はミスを犯し、足に深手を負ってしまった

 

「くっ!?あいつら・・・よくもやってくれたな、でもこの傷じゃ遠くまでは逃げられないしなぁ」

「ん?お姉ちゃんどうしたの?」

 

そこにいたのは幼少期の灯夜だった、灯夜は院長との買い物帰りの途中で壁にもたれかかる束を見て声をかけた

 

「私は何ともないからどっかに消えて」

「嘘、だってお姉ちゃん、血が出てるよ?この近くに僕の家があるから来て、手当するから」

 

束は呼吸も乱れていなければ血が出でいるのは服で隠してある部分だったため、血が出ているとは灯夜からはわからないはずだったのに、なぜか灯夜は束の状態を見抜いて、無理やり手を引いて柊孤児院まで連れて行こうとした

 

「ちょっと!消えてって言ってるの!」

「ダメ!痛いのはつらいでしょ!」

「あら、灯夜くん、どこ行ってたの?それにその人は?」

 

院長は姿が見えなかった灯夜を見つけると灯夜が珍しく意地を張っているのを見て少し笑い事情を聞いた

 

「事情は分かったわ・・・じゃあ家まで連れて行きましょうか」

「だから行かないって言ってるだろうが!いい加減に・・・ヒッ!?」

「いい加減に・・・何ですか?」

 

その瞬間束は味わったことのない恐怖を目にした、院長と呼ばれるこの女性からあふれ出るオーラが自分の意見をすべて潰してしまう

そのオーラに取り巻かれた束は仕方なく付いていくことにした

 

「ここです、ようこそ柊孤児院へ、早速ですが治療をしますのでこちらへ」

「先生、僕も・・・」

「灯夜くんは優斗くんと遊んでらっしゃい、この子とは後で話せばいいわ」

 

灯夜はわかった、と言うと広場に向かった

 

「さて、行きましょうか、篠ノ之束さん」

「やっぱり気づいてたんだ・・・でどうするの?政府にでも差し出す?」

 

束はもうおしまいだと言わんばかりに落ち込んだ、当然だろう、、一度世界から逃げようとした自分が再び捕まればもう人としての扱いを受けないかもしれない、『宇宙へ行くためのパワードスーツ』であるISを軍事利用しようとするクソ野郎たちのために一生・・・

 

「何を言っているのかわからないけど、私は貴女を差し出すつもりはありませんよ・・・私は灯夜くんと約束しましたからね、この子とは後でねって、だからとにかく医務室へ行きましょう、可愛い洋服に血が染み込んでしまいます」

「・・・ッ!?わかった」

 

その後院長と束は治療を受けながら少し話した、話を聞くと彼女は元戦場医師だったそうだ、医師であるのにもかかわらず時には人の命を奪わなければならないという現実に耐え切れずに辞職したらしい、他の職員たちも似たような理由で軍をやめた者たちばかりだという

 

「はい、とりあえずこれで終わりです、しばらく安静にしていれば以前のように動かせるでしょう」

「・・・ありがとう」

「お礼なら灯夜くんに言ってください・・・さぁ、あの子のところに行ってきてください」

 

束は医務室から出ると灯夜のところに向かおうとしたが、窓の向こうに束の追手が来ていることに気づいて結局お礼は言えないまま孤児院から抜け出してしまった。

 

「思えばあのときに私があそこに行っちゃったから放火されたのかな・・・」

 

束は一瞬キーボードを打つのを止めたが、数秒もすると再びカタカタとキーボードを打ち始めた

 

「絶対に見つけるからね!とーくん!」

 

 

 

sideout

 

 

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