第二話始まるよ。
あれから一時間歩いた三人は、目の前にある大きな森の前に立ち止まっていた。
「明らかにやばそうなんだけどこの森」
アルスの言葉に黛も同意と言わんばかりに頷く。
それもその筈。目の前にある森は先程の森とは違い、植物全てが暗い色をしており、とても近付きたくない雰囲気を
だがそんな雰囲気を全く気にしない人が一人いた。
「そんなにやばそうかな?」
そう、ういはである。
「ういはちゃん。まさかこの森に入る気なの?」
「えっ、逆に入らないんですか?」
「「えっ」」
彼女の発言に二人はういはに顔を向けてそれはやめようと目で訴える。
此処は自分達の見知らぬ土地。
もしかしたら凶暴な野生動物がこの森を住処にしてるかもしれないのだ。
「それはやめよう」
本当に森へ入るかもしれないういはを黛はすぐ止める。
「えっ!?なんでですか!?」
「見て分からないの!?この不気味な雰囲気を!?」
アルスもその森を指で差しながら必死に止めようとする。だがういはは「マイクラと同じようなものですよ」と全く理解出来てない様子で、森へと足を踏み入れようとする。
それを止めるようにアルスは本を開き、何か呟き始める。するとういはの目の前に
「なんで邪魔するんですかアルスさーん!」
大きな壁が現れた事により不気味な森へ入れなくなったういはは、ぶーぶーと文句を言った。
「そういえばアルスは魔法使いだったね」
「そうだよ」
「魔法なんてズルいですー!」
アルスは片手で黒いマントのフードを外し、もう片方の手で本を閉じる。
「
「無くても使えるけど、あった方がカッコイイじゃん」
なんの為に本を開いたんだとつっこみたくなる衝動を抑え、黛は「確かに形は大事だね」と同意するように返した。
「この氷、退かしてくれません?」
「この森に入らなければ消してあげるけど?」
「う〜……こうなったら殴ってでも壊します!」
「何故この分厚い氷の壁を見て、殴るという発想に至ったのか理解できないんだけど」
おかしいでしょと言わんばかりの黛を
怪我しても知らないよとアルスは一応忠告だけはして、ういはの少し後ろへと移動した。勿論魔法でほんの少し浮きながら。
「普通は楽しそうにやるものじゃ無いと思うんだけど」
「一度やってみたかったんですよ!」
それを聞いた黛は止める気が失せ、アルスの横へと移動してういはの思うままにさせる事を決めた。
そもそもういははかなり自由でマイペースな所が多いため、急に訳の分からない事をし始める事がある。
それを長い間見てきたアルスと黛はいつものだと思い、自由にさせる事を決めたのだ。
「
大きな声でそう告げたういはは、一切の
すると氷の壁は拳を当てた瞬間、一気に全体へと
「嘘でしょ……」
これにはアルスも絶句でしかなかった。
そもそもういはのあの細い腕で、どうして縦横共に数十メートルもある氷の壁が、瞬く間に壊されたのか分からなかった。
まだ厚さが薄かったらういは自身の運動能力で壊せるかもしれないが、一般男性の平均身長と同じぐらいある厚さを軽々と破壊したのだ。
ういはが氷の壁を壊したという事が、今のアルスには全く理解できなかった。
「やったー!あのデカい氷を壊せました!」
そんな驚いたアルスと変わって、ういははまるで無邪気な子供のようにはしゃいでいた。
そもそもあの大きさの氷の壁を壊して喜んでるのは普通におかしいのだが。
「へぇー、あれを軽々しく壊したね」
「できましたよ黛さん!」
「あぁうん、おめでとう。ういは今完全に小学生の運動会とかで、百メートル走一位になった時にはしゃぐ子供みたいになってるね」
黛は黛でういはが規格外の怪力を見せたにも関わらず、寄ってきたういはを普通に褒めていた。
「まゆくん……あれを見て疑問に思わなかったの?」
「疑問は確かにあるけど、アルスの魔法も一般人からすると規格外だから、今更驚かないかな」
言われてみればとアルスはちょっと納得する。
普通の人は魔法なんて使える訳がない。使えたら世の中の常識が大きくひっくり返ってしまう。
「ちょっといいかしら?」
ういはが再び不気味な森へ入ろうとし始めた矢先、透き通った綺麗な少女の声が聞こえた。
何処から声がするのかと三人は周りを見渡す。しかし人らしき者はいない。
「上よ」
そう言われて三人は上を見上げる。
するとそこには青いワンピースのようなノースリーブにロングスカート、肩にケープのようなものを羽織った金髪の少女が空中に浮いていた。
「すごーい!アルスさんみたいに浮いてますよ!」
少女に向かって最初に口を開いたのはういは。
浮かんでる相手を見てまたテンションが上がってるようだ。
「何?」
ういはだと上手く対話できないと判断した黛が少女に
「あなた達この先の森に行こうとしてるの?」
「いや俺達は──」
「そうです」
黛が答える前にういはが被さるように答えた。
声量の問題で被せられた黛は仕方ないと口を閉じる。
「そう……だったら──」
「ボ、ボクらは入らないで行こうと……考えてました」
二人に対しての言い方と違い、アルスは少女に対しておどおどとした声で少女の言葉を
「え?アルスさんあの森に入らないんですか?」
「入る訳無いだろあんな不気味な森!」
「なんでですか!?入りましょうよ!」
「やだよ!」
「マイクラの森みたいで面白そうじゃないですか!」
「ゲームと一緒にするなよ!」
何故かういはとアルスがあの森に入るか入らないかでぎゃーぎゃーと騒ぎ始めた。急に始まった口喧嘩──の割には可愛らしいが──により少女はきょとんとした顔で二人を見ていた。
そりゃあ急に騒がれたら驚くだろう。
仕方なく黛は「取り敢えず降りてくれないかな」と少女に頼むと地面に足を着けてくれた。
「二人があんな状態だから俺が答えるけど大丈夫?」
「え、えぇ……大丈夫」
「……まずさっきの口振りからしてこの不気味な森について知ってるのかな?」
ええそうよと少女は頷く。
その間にも黛の後ろでは二人があーだこーだと言い合ってる。
「まずあの森は魔法の森よ」
「魔法の森?聞いた事ないな」
「魔法の森は
その言葉を聞いて黛は
「質問していいかな?」
「ええ」
「この世界は一体なんなのか教えてくれたらありがたいんだけど」
この質問には理由がある。
まず自分達が一体何処にいるのか分からなかった黛は、一応携帯で地図を開いて現在地を確認しようとしていた。しかしインターネット環境が圏外になっていたため調べる事ができなかった。
次に国外の可能性を考え、人のいる場所を探したのだが、目の前の少女が明らかに日本人ではないのに日本語を使っていたため、これも違うとした。
そして魔法の森という明らかに日本語で付けられた名前であるのに、その場所が妖気やら瘴気で危ないと言われた。そんな場所が日本にもあったら大きなニュースになる筈。
最後に空を飛んでいた少女やういはの有り得ない怪力をみて、普通ではないと判断した。
これらを踏まえて黛は少女にそう質問したのだ。
そして返ってきたのは……
「この世界というのは幻想郷の事かしら?」
度肝抜かれるような言葉だった。