機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
駆け出したライセイの後を追って、ゲイルも裏路地へと走った。
酒を飲んでいただろうに、その様子を感じさせない機敏な動きのライセイは裏路地から更に一本奥に入る。
遅れてゲイルも行くと、そこにはライセイ以外に3人の人影があった。
2人はガラの悪そうな男で、それに挟まれるように佇むのはまだあどけなさの残る少女だった。
ゲイル達に3人が気づくと、男の1人が威圧的な声を上げる。
「おい、なんだよ!? 見せもんじゃねぇぞ!? さっさと消えろ!」
男は怒鳴るが、大した迫力はなかった。こちらは幾多の戦場を越えてきた人間だ。
ただの恫喝程度でひるむわけがなかった。ライセイがすっと人差し指を少女に向ける。
「その子、嫌がってるから。放してあげなよ」
「あっ!? んだ、てめぇ! ふっざけんな!」
男がライセイの襟を掴んだ。まずい。
突如、男は宙に浮かび地面に叩きつけられた。うめき声を上げる男を見下ろしたライセイが、もう1人の男に問う。
「まだやる?」
「て、てめぇ! なめんなよぉ!」
拳を振りかぶって突撃した男は、その勢いをそのままに宙を舞って倒れていた男の上に落ちた。
潰れたカエルのような声を上げた2人にライセイが言う。
「やる気なら何度でも投げるけど?」
静かだが重みのある声だ。ライセイの言葉に誇張はない。おそらく、この程度の男達なら何度でも投げ飛ばせるだろう。
ライセイは柔術にはまっていた時期があり、そこでかなり鍛えられたようで腕っぷしは強い。穏やかな顔立ちからは想像ができない強さを持っていた。
もし、このままやれば男達が病院送りになりかねない。止めるとしよう。
「おい、こいつの言うことは本当だ。それに、まだやるっていうなら、俺も相手になるぜ?」
低い声で相手を圧する。男達は悔しそうに顔を歪め、唾を吐き捨てて去っていった。
「君、大丈夫?」
ライセイが少女に語り掛ける。
小柄な少女はミディアムヘアーでグレーがかった髪の色をしており、どこか庇護欲を感じさせた。
男達が目を付けたのも分かる。と、妙に納得してしまう。
「助けてくれて、ありがとう。私、あなたを探しに来たの。でも、迷っちゃって」
「僕を? あのどこかで会ったっけ?」
少女は首を横に振る。
「知らないわ。今日、初めて会ったもの」
「えっ!? なのに、僕を探しに? えっ?」
混乱するライセイ。少女はそんなことは気にせず、話を続けた。
「あなたのことを感じたの。とても優しい心を。だから、会いたくなって来ちゃったんだ。こんなことになるとは思ってなかったけど」
おどけるような笑みを見せた少女に、ライセイが困惑気味に返す。
「よく分からないんだけど……。えっと、とりあえず、タクシー乗り場まで連れて行くよ。夜も遅いんだし」
「ん~、そうね。今日はもう遅いもんね。私はネージュ。ネージュ・イースレットよ。あなたは?」
「僕はライセイ・クガ。あっちが兄さんのゲイルだよ」
「ライセイ、ゲイル……。2人ともいい名前ね」
無邪気な笑みで言われ、ゲイルとライセイは面映ゆくなった。
「じゃあ、ネージュ、兄さん、行こうか」
歩き出したライセイに従い、ネージュとゲイルも歩き出した。
裏路地から通りにでてタクシー乗り場へ向かおうとしたとき、背後から声を掛けられる。
振り返ると、スーツを着た中年男性だった。
「ネージュ、こんなところいたのか。帰るぞ」
「あ、パパ! うん、分かった。ちょっとだけ待ってね」
そう言うと、ネージュはライセイの右手を両手で握り、目をつぶった。
不意なことに慌てるライセイ。女っ気がないと思っていたが、相当に初心なのかもしれない。
普段、男女関係の話をしたことがなかったため、ライセイの新たな一面を見た気がした。
「これでライセイのことを覚えたわ。また会いましょう」
「えっ? あ、うん。じゃあ、また」
手を振って去っていくネージュに、ライセイも小さく手を振った。
よく分からないことを言う少女だ。小さくなっていくネージュとその父の背中を見て、そう思った。
「不思議な子だったね」
ライセイは前を向いたまま言った。
「ああ、そうだな。さて、このまま帰るとするか」
「ちょっと。僕がダン中尉に怒られるでしょ? 戻るよ」
「悪いが酔いが醒めてしまった。またの機会にしておくよ」
「そうやって逃げるんだから。ま、いいか。僕も帰るよ」
ライセイまで帰ってしまったら、ダンのやつ余計にうるさいだろうな。
面倒なことになることを察したゲイルは、ふと手にしていたMSのマニュアルを思い出し開く。
そこには、MSF-007 ガンダムMk-IIIの文字があった。