機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
月面に降り立つ2体のMS。グラナダの郊外にあるアナハイムエレクトロニクス社の試験場がゲイルとアオイの決戦の舞台であった。
ガンダムMk-Ⅲとシュツルムディアスは互いに蛍光色のペイント弾が装填されたマシンガンを手にしている。
ペイント弾が当たれば一目瞭然で、相手に当てた弾数を競う模擬戦をする事になったゲイルはマニュアルを思い出しながら、月の重力を確かめるようにスラスターを何度か吹かした。
思ったより重い。踏み込みは少し強めが良いか。ゲイルは月での操縦感覚を短い時間の中で体に叩き込む必要があった。
アオイにとって、月はホームグラウンドと言っても良いだろう。アナハイム・エレクトロニクス社のMSの多くは月と宇宙で試験をする。
もちろん地球の環境にあわせた試験もするが、無重力や月重力下での試験時間は長い。それをこなしてきたアオイには勝手知ったる土地ということだ。
シミュレーターでしか経験したことがない月面でのMS戦にゲイルは挑まなければならないのだが、なかなかコツが掴みづらい。
文句を言っている暇はないので、少しでも体に叩き込むために飛翔しては降り立つ。
神経を尖らせていると、アオイから通信が入った。
「どう? 月での操縦は? けっこう難しいでしょう?」
「少しだけな。すぐに慣れる」
「じゃあ、もう少し時間をあげるわ。待たされるのは好きじゃないんだけどね」
ゲイルは舌打ちしたくなるのを堪えた。こうやって煽るのがアオイの戦術ならば、その罠に片足突っ込んでいる状態である。
分かってはいるが、焦りは禁物だ。アオイが勝つために挑発をするのならば、それに乗らずにこちらのペースに引きずり込むしかない。
実力を出し切れば勝てる。その自信がゲイルにはあった。ガンダム乗りという重責があっても、それを跳ね除けてみせる気概もある。
やはり懸念は月の重力だ。こればかりは慣れしかないが、時間があまりにも足りない。
再度、アオイより通信が入る。
「別の日にしましょうか? 月に慣れていなかった、って言い訳するのも癪でしょう?」
ゲイルのこめかみに青筋が立った。こいつ、言わせておけば。口から怒声が出そうになるが、なんとか堪えた。
心の中を掻き乱されてしまえば、実力を発揮することが難しくなる。今は心を落ち着けて、この重みを少しでも理解するのだ。
「いや、だいたいの感覚は掴めた。もうそろそろ始めるか?」
そう言いながら、機体を細かく動かし続けた。繊細な動きをすることで感じ取れるものがある。
スラスター、バーニアをどれだけ使えば、機体が反応するのか。無重力下とは違う動き鈍さに、攻略のヒントがあるはずだ。
ガンダムMk-Ⅲを軽く飛び上がらせ、スラスターを調整しながら静かに着地した。
なんとなくコツが掴めた気がする。手応えを噛み締めていると、アオイの明るい声が聞こえた。
「さすがね。エースパイロットの名は伊達じゃなさそうで、安心したわ」
「この程度でエースなら、君もエースパイロットになれるんじゃないかな?」
「かもしれないわね。じゃあ、あなたに勝てば私がエースってことで」
「エースの称号は、そんなに軽いもんじゃない。それに」
ゲイルはフットペダルを踏み込み、スラスターを一気に吹かした。
強烈な加速が生み出すGに思わず歯を食いしばる。これはリックディアスの比ではない。ガンダムの名に相応しい性能だ。
スラスターを止め、自由落下し、地表スレスレで再度スラスターを使い緩やかに降り立った。
「俺は君には負けない」
「……OK。負けた言い訳は聞かないわよ?」
「言い訳を考える暇があるかな? 君に」
肌を刺すような空気がお互いに流れる。性能ではガンダムMk-Ⅲの方が上ではあるが、それは機体の性能を出し切ればの話だ。
ゲイルは一度、深く呼吸をしていう。
「始めようか」
「ええ、そうしましょう。カウント。スリー、ツー、ワン」
両機、スラスター光を輝かせ一気に飛翔した。