機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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月に舞う

 宙へと舞い上がったガンダムMk-Ⅲとシュツルムディアス。

 ゲイルはアオイの出方を伺うため、スラスターを控えめに噴射して距離を取った。

 重力に引っ張られて高度が下がらないように気を付けなければならない。フットペダルを小刻みに動かし、相手を挑発するように距離を縮めた。

 

 お互いが手にしているマシンガンの性能は同じだ。有効射程距離はお互いに把握しているので、アオイは無理に接近するようなことはせず、ゲイルとの距離を維持した。

 執拗に挑発してきただけあって、アオイ本人は冷静のようだ。少しでも揺さぶりを掛けるため、マシンガンを数発放った。

 飛び来るペイント弾を悠々と躱すシュツルムディアス。お返しとでもいうのか、シュツルムディアスもマシンガンを発射した。

 

 ゲイルはフットペダルを軽く踏み込み、加速しつつペイント弾を避ける。

 だが、予想以上の加速に一瞬だけフットペダルを緩めてしまった。コンマ数秒だけ自機の挙動に気を取られた間隙を狙って、アオイが動く。

 シュツルムディアスの背部にある大型のスラスターが強い光を放つと、ガンダムMk-Ⅲに向けて突撃を掛けた。

 

「くっ!?」

 

 慌ててスラスターとバーニアを動かし距離を取ろうとするが、半歩先に動いたシュツルムディアスに分があり、マシンガンの射程距離に捉えられる。

 射撃体勢に入ったシュツルムディアスのマシンガンが火を噴いた。飛び掛かるペイント弾を避けるべく、とっさに力強くフットペダルを踏み込んだ。

 急激な加速のGによって、体がシートに押し付けられそうになる。堪えろ。ここで弱気になってしまえば、次は確実に落とされる。

 

 逃げるガンダムMk-Ⅲを追うシュツルムディアス。

 完全に尻に付かれた状況から、どのように逆転するかゲイルは思案するが、慣れないガンダムMk-Ⅲの動きを制御することに思考が傾いてしまう。

 性能ではガンダムMk-Ⅲの方が上だとアオイは言ったが、スペック差が勝敗を左右するわけではない。

 

 機体に慣れていない状況での戦いが、相手にとってどれだけアドバンテージになることか。

 愚痴がこぼれそうになったとき、ペイント弾が機体を掠めるように飛んで行った。また余計なことを考えてしまったと、自分にいら立ちを覚えながら更にスピードを上げる。

 シュツルムディアスはどこまでも食らいついてきた。相当なGが掛かっているだろうに、アオイは一歩も引く気がないようだ。

 

 その様から、アオイの闘志が伝わってきた。

 これは模擬戦。ゲイルは、どこかでそう思っていたのかもしれない。だから、躊躇したり余計なことを考えてしまうのだ。

 これは戦闘だ。命のやり取りをする場所なのだ。勝利を得るためには命を懸けるのが戦場であることを思い出したゲイルは、ガンダムMk-Ⅲの軌道を月面へと向ける。

 

 付いてくるなら付いてこい。食らいつきたければ、食らいつけ。俺の尻に噛みつこうというのならば、それだけの覚悟を見せてみろ。

 ゲイルの口元に笑みが浮かぶ。更にガンダムMk-Ⅲは加速をし、それを追ってシュツルムディアスも加速をする。

 細かく軌道は変えながらも、向かっているのは間違いなく月面であった。如何にMSといえど、加速がついた状態で地面に突っ込めばただではすまないし、パイロットの命も危ういだろう。

 

 機体の制御を失ったのかと思えてしまうほど、ガンダムMk-Ⅲは月に吸い込まれるように突き進む。

 迫りくる月面。追い続けるシュツルムディアス。ゲイルは己の全てをガンダムに捧げ、叫ぶ。

 

「飛べっ! ガンダム!」

 

 地面が目前に迫ったとき、スラスターの向きを変え、バーニアを全開にし、軌道を無理やり変えた。

 内臓が押しつぶされ、口から出そうになるのを堪えるゲイルは、更にバーニアを噴射し体をひねる。

 ゲイルを追いかけていたアオイのシュツルムディアスは、地面にぶつかる前に減速していた。アオイはゲイルとのチキンレースに負けたのだ。

 

 減速したシュツルムディアスはすぐさま回避行動に移ろうとするが、すでにゲイルは射撃体勢に入っていた。

 マシンガンから吐き出されたペイント弾がシュツルムディアスに叩きつけられる。体中を蛍光色の塗料まみれにしたシュツルムディアスは、動きを止めて、ゆっくりと地表に降り立った。

 ガンダムMk-Ⅲも同じように月面に減速しつつ着地する。

 

 突然、アオイの笑い声が無線から入った。

 

「負けた~。さすがね、エースパイロットさん」

 

「ゲイルで良い。君もさすがだった。冷や汗をかかされたよ」

 

「じゃあ、私もアオイで良いわ。ああ~、面白かったぁ。こんな戦い久しぶり」

 

 ゲイルとの模擬戦が心底楽しかったのか、アオイは上機嫌に言う。

 

「ねぇ、あとで一杯おごらせてよ。色々と聞きたい話があるの」

 

「構わないが、俺は酒にはあまり強くないぞ?」

 

「じゃあ、飲み比べなら私が勝てるかもしれないわね」

 

「そっちのエースなら別にいるから、そいつとやってくれ」

 

「もう、ノリが悪いわね。楽しみにしてるから。あと、私の反省会にも付き合ってもらうわよ」

 

 勝手に話を進めるアオイに、ゲイルは肩をすくめた。

 この強引さ。下手なことを言っても通用しなさそうだと諦めたゲイルは言う。

 

「分かった。俺も振り返ってみたいことがある」

 

「OK。じゃあ、帰りましょう。変な汗かいたからシャワーを浴びたいわ」

 

「同感だ」

 

 2人は通信を終えると、MSハンガーへと向かった。

 

 ◇

 

 試験場の外れにある観測所から、2人の戦いを観戦していたダンとライセイ。

 ゲイルの勝利に沸き立っているかと思いきや、ダンの様子が違った。

 

「ライセイ君、何かな、あれは?」

 

「えっ?」

 

「なんで仲良くなっちゃってんのかなぁ!って意味!」

 

「ああ~……。拳を交えた仲ってやつかな?」

 

「なんかムカつく! どっちもムカつく!」

 

 よく分からない感情を爆発させているダンを、よく理解できていないまま一生懸命なだめるライセイであった。

 

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