機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
月の重力圏から離れた宇宙を3つの光点が舞っていた。
スラスター光を瞬かせた3機のMSだ。ゲイルの乗るガンダムMk-Ⅲに、ダンの愛機となったシュツルムディアス。
そして、ライセイが乗るプロトデルタである。
シュツルムディアスがリックディアスの発展型ならば、プロトデルタは百式の発展型であった。
元々は可変機として計画された百式だが、構造上の問題でそれが叶わず通常のMSとして生産されたのだが、性能が優秀であったこともあり、非可変機の発展型が開発されたのだ。
いくつかバリエーションがある中で、プロトデルタについては可変機へと進化をさせる試みが施されているが、コストや強度面などを考慮して通常のMSとしてロールアウトが決定した。
ただし、プロトの冠が付いている通り、あくまでも試作機で量産は視野に入れておらず、現在稼働しているのはライセイの乗る1機のみである。
形状自体は百式と似ているが、ガンダムのようなデュアルアイと、背部の大型化したウィングバインダーが特徴的だ。
シュツルムディアスのバインダーが推力と火力を両立させたものならば、プロトデルタは機動力に特化したバインダーを装着している。
その性能はスペックだけ見ればガンダムMk-Ⅲに勝るとも劣らないが、問題が1つあった。
「ぐっ!?」
プロトデルタに急減速を掛けたライセイは苦痛の声を上げたいのを必死に我慢していた。
性能は申し分ないが、機体の制御、スラスターやバーニアの操作に癖があり、ライセイはまだプロトデルタに振り回されている真っ最中だ。
一足お先にシュツルムディアスに慣れたダンが言う。
「ライ、どした!? その程度か!?」
シュツルムディアスの持つ訓練用のライフルのレーザーポイントが、プロトデルタの胸部へと向けられた。
これが実戦であれば、ライセイは即死である。
「くぅっ……。まだ!」
「よし、来い!」
加速した両機の後方に位置取りしたのは、ゲイルのガンダムMk-Ⅲである。
フットペダルを踏み込み、更にスピードを上げ2機の背中を伺う。
ガンダムMk-Ⅲのライフルがシュツルムディアスの腰部へと向けられた。
「何っ!?」
ダンの声を聞いたゲイルは口元に笑みを浮かべる。
「油断しているからだ。次はライセイ、お前だ」
推力だけなら互角の性能の2機だが、ライセイの操縦技術が機体に追い付いていなかった。
ガンダムMk-Ⅲを振り切ろうと必死に動くプロトデルタだが、その差はみるみる縮まっていく。
歯を食いしばりながら操縦するライセイは後ろを気にする余裕がなく、我に返ったのは撃墜されたことを知らせる赤い警告が表示されてからであった。
呼吸を止めていたのか、荒い息遣いをライセイはしている。
「また負けたのか……」
警告の表示を消して、深く呼吸をする。
ゲイルとアオイが模擬戦をして、すでに2週間が経っていた。
ライセイとダンがそれぞれのMSに乗ったのは模擬戦の翌日からなので、10日以上操縦訓練に明け暮れている。
ゲイルについては、すでにガンダムMk-Ⅲを手足のように扱えるようになっており、ダンもシュツルムディアスを飼いならしている。
問題はライセイであった。なぜ、自分にこのようなスペックのMSが渡されたのだろうか。それについては、上の方針であるとだけアオイが告げてくれた。
プロトデルタにはアナハイムエレクトロニクスにとって、テストベッドとしての側面があるということらしい。
細かくはアオイも分からないとのことだが、この大型化したウィングバインダーの実戦データが欲しいのではないだろうかとライセイは考えていた。
今まで乗っていたネモとは別次元の機体に戸惑うのは周りも理解してくれているが、自分がそれを認めたくはなく、何とか使いこなせるようにと訓練を続けている。
「ライセイ、今のは悪くなかった。だいぶ、使えるようになってきたな」
優しい声音で言うゲイルだが、今は優しく接される方が辛かった。
兄のゲイルに負担を掛け続けていることは自分でも知っている。生まれてこの方、ずっと一緒に暮らしてきたのだ。
だいたい、何を考えているのかも分かっている。ゲイルは弟の自分に甘いところがあった。本人は自覚していないのかもしれないが、周りからはそう思われているだろう。
いつまでも兄に守られる弟でいたくはない。そんなことだから、ゲイルはいつまで経っても人を、自分を頼りにしてくれないのだ。
ゲイルに認めてもらいたい。ライセイはその気持ちを抱いて、ゲイルの後を追ってエゥーゴに参加した。それなのに、未だに兄に守ってもらっている始末だ。
弟でなければ、ゲイルももう少し厳しい言葉を掛けたかもしれない。自分に厳しくしているつもりだが、兄の優しさにはついつい甘えてしまう自分が少し嫌になる。
ゲイルに返す言葉に詰まっていると、無線から厳しい声が聞こえた。
「ライ君、何をやってるの。もっと動けたはずよ。その程度じゃ、せっかくの新型が泣いてしまうわ」
こうやって檄を飛ばしてくれるのはアオイであった。ダメなところはダメだと厳しく言ってくれる人だが、とても気さくで悪い印象は1つもない。
「すみません、アオイさん。もっと厳しく攻めてみたいと思います」
「ライ君ならできるから、怖がらずやってみなさい。さぁ、皆。もう一戦やるわよ」
アオイの言葉に、ゲイルは了解と言い、ダンは不満そうに了承の声を上げた。
ダンとアオイはあまり仲が良いとは言えない。言いたいことをはっきり伝えるアオイをダンが煙たがっているようだ。
お互い優しい人なのだから、仲良くできそうなのに。
ライセイは素直にそう思っているが、どうも難しいようだ。
「兄さん、ダン中尉、よろしくお願いします!」
「仕方ねぇな、もういっちょやってやるよ」
「2人とも手は抜かないからな。次、先に落ちたやつはグラウンドランニング1週を追加する」
不満を口にするダンを他所に、ライセイは動き始めた。
少しでも兄に近づくために、自分ができることを。何度も自分に言い聞かせ、機体を急加速させた。