機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
訓練を終えたゲイル達は、母艦であるコロンブス級輸送艦ロズウェルに着艦した。
ゲイル達が配属されていたサラミス級巡洋艦ケルンは修理中であり、MS隊は輸送艦を使って宇宙で訓練をしている。
輸送艦だけあってロズウェルは大きく、MSだけでも10機近くは積載する能力があるため、この宙域では別のMS隊も訓練を行っていた。
先日まで訓練に参加していたのは新たにエゥーゴに参加した新兵達だ。
戦力の立て直しを図るエゥーゴは、まだ拙さの残る者達の鍛え上げを行っており、訓練の合間に何度か協力をさせられたのだが、ゲイルには不安の残るものであった。
MSの操縦には慣れたとしても、実戦で使い物になるかは分からない。訓練の先にある実戦を経て、初めてものになるのがパイロットなのだ。
ベテラン勢を多く失ったエゥーゴの戦力は、全盛期に比べると圧倒的に下がっていることであろう。
そのような状況で、戦力を温存したネオジオンとどのようにやり合えば良いのだろうか。エゥーゴに地球を守る戦力が残っていないのは周知の事実だ。
エゥーゴの本拠地グラナダとて、攻められれば危ういかもしれない。残存戦力の集結を行ったグラナダでも、まともに動ける艦船は多くはないのだ。
コロニーを侵略するネオジオンに対して、エゥーゴは何もできていない。こうして考え事をしている間にも、着々とネオジオンが勢力図を拡大している。
エゥーゴの先行きは不透明さを増しており、所属する者達の不安も日に日に増していた。
その気持ちはゲイルにも分かる。スペクターとの契約延長についてゲイルは了承しておらず、勝手に小切手を渡された状態でエゥーゴからの脱退話はうやむやとなっていた。
エゥーゴはジリ貧かもしれない。残れば危険が増すだけではないだろうか。漠然とした不安感に時々襲われるが、それは外に出さないようにしていた。
ゲイルの不安が周りに伝染するかもしれないからだ。特にライセイには、変な心配を掛けたくない。毅然とした態度でいれば、周りの不安も少しは緩和されるだろう。
そうだ。俺がしっかりしなければ、ライセイは。
MSデッキ内に警戒音が響いたのを聞き、ゲイルは我に返った。
ガイドビーコンが出されると、それに沿って1機のシュツルムディアスが着艦する。無駄のない動きをしているな。パイロットの腕前の良さを見ていると、横にダンが並んだ。
「いよいよ、シュツルムディアスの配備が本格化してきたわけだな。先行して乗った俺のデータが使われているって聞いたときは、嬉しかったぜ」
「そうだな。お前のデータのお陰で楽になったやつは間違いなくいるだろう」
「だよな。あとは、俺が実戦で活躍するだけなんだがなぁ……」
ダンにしては歯切れが悪い。ゲイルと同じように思うところがあるのだろう。
エゥーゴが動くのが先か。それとも、今の勢いのままネオジオンが攻めてくるのか。攻めるのと守るのでは、気持ちに大きな差が出てしまう。
特にエゥーゴはグラナダを落とされれば後がない。ダンの気持ちとしては先に仕掛ける方になりたいだろうが、今のエゥーゴにその体力があるか疑わしかった。
口を閉じたダンに語り掛ける言葉をゲイルは持ち合わせていない。沈黙が流れると、着艦したシュツルムディアスから降りてきたパイロットが近づいてきた。
「ゲイル中尉にダン中尉か。俺はデューク・ウェインズ大尉だ。2人の活躍はよく聞いていた」
デュークの階級を聞き、ゲイルとダンは敬礼をする。
「ここではなんだ。中で話そうじゃないか」
デュークは言うとMSデッキを離れていく。後を追うゲイルとダン。
リフトグリップを持って通路を進んでいると、ダンが小声で話しかけてきた。
「デューク大尉って聞いたことがあるな。結構やり手だってよ」
「なるほど。確かに、操縦技術は高そうだったな」
「まあ、俺と同じシュツルムディアスに乗るんだから、そうじゃなきゃな」
満足そうな顔をしたダンにゲイルが言う。
「エースパイロット用に配備されているのがシュツルムディアスだからな。デューク大尉も、お前と同じようにエゥーゴの中核かもな」
「何言ってんだよ。ゲイル、お前もだろう」
にやけた顔でゲイルを小突くダン。ちょっとリップサービスが過ぎたかもと、ゲイルは反省した。
そうしていると、デュークが談話室に入ったのが見えたので、ゲイル達も中へと入る。
ヘルメットを取ったデュークは厳めしい顔立ちをしており、見た目から堅物そうな印象を受けた。微かに笑みを浮かべたデュークが言う。
「すまない。付き合わせてしまって。エゥーゴのエースパイロットと、どうしても話しておきたいと思ってな」
「いやぁ、それほどでもないっすよ」
「照れるな。ダン中尉のデータがシュツルムディアスに活かされているのは知っている。誇っても良いことだ」
「そうっすか。照れるなぁ。あ、俺、飲み物とってきますね」
上機嫌で去っていくダンを見て、お調子者めとゲイルは思った。
去っていくダンを横目に見たデュークの顔つきが変わる。厳格な空気を醸し始めたデュークがゲイルに語り掛けた。
「ゲイル中尉。君の出身は知っている。ジオンのパイロットだったそうじゃないか」
ゲイルはこの言葉に驚くことはなかった。別に隠すほどのことでもない。ジオン出身者はエゥーゴにも多いのだ。
「それが何か?」
「別に恨みがあるとか、そういう話ではない。君は今の状況をどう思う? ティターンズが崩壊し、アクシズがネオジオンと呼び名を変えた今を」
「どう……と言われましても」
相手の質問の意図が読めず、ゲイルは困惑気味に返した。
デュークの厳めしい面構えが、更に険しくなる。
「では、質問を変えよう。このままエゥーゴで戦う意思はあるのか?」
「えっ?」
「君も分かっているだろう。エゥーゴはもう長くは持たんよ。まともな命令を下せない上層部。わが身を憂い、不安感に押しつぶされそうな兵士達。このような組織が存続できるとは思えん」
「エゥーゴ批判ならば、自分にすべきではないかと」
「いや、君にだから聞きたいのだ。君はエゥーゴで生きるほどの価値を見出せているのか?」
「自分は……」
ゲイルは口を閉じ、言葉を選ぶ。生きるほどの価値があるかどうかなんて分からない。
所詮は金のために戦っている傭兵のようなものだ。金の切れ目が縁の切れ目になるかもしれない。
エゥーゴに思い入れがないかと言われれば嘘になるが、デュークが言う様にエゥーゴの抱えている問題は深い。
答えが出せないゲイルを見たデュークの口元が歪む。
「ありがとう。もう十分だ」
「自分はまだ」
「君が悩んだ。今はそれでいい」
そういうとデュークは談話室から通路へと出て行った。飲み物を持ってきたダンが首をかしげる。
「なんかあったのか?」
「いや、別にたいしたことは話していない」
「そうか。何がしたかったんだろうな?」
「ああ、そうだな。何だったんだろうな……」
言い知れぬ不安が滲んできているのをゲイルは感じ取ったが口から出すことはなく、ダンから受け取ったドリンクを口に含んだ。