機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
占領を終えたサイド2にはネオジオンの艦が数隻停泊しており、コロニーの傍をMSが飛び回っている。
停泊した艦の1隻は、サイド2侵攻の中心となって活躍したエンドラ級巡洋艦ハイドラであった。
メインデッキにはローマンと艦長のヘックスがおり、他に乗組員はいない。人払いを済ませているからだ。
大型のディスプレイに映るのは、相変わらずの冷めた表情のギルロード。それに対してローマンは朗らかな顔をしており、緊張感は微塵も感じない。
いつも2人の間に挟まれるヘックスは、これからのやり取りを想像し辟易していた。今度は何を言われるのやら。ヘックスの口からため息が漏れる。
「ヘックス、ダメだよ、ため息なんて。ギルちゃんに聞こえちゃうよ」
「お前っ!? まったく……。ギルロード様、失礼しました。で、お話というのは?」
早速本題に切り込んだ。下手なことを言えば、またローマンが茶化してくるに決まっている。
さっさと話しを終えたいとヘックスは考えていた。
「ハイドラには月に向かってもらう」
「月、ですか? まさか、エゥーゴを攻めようって話じゃ」
「そうではない。いや、あながち間違いではないか」
ギルロードの口角が少しだけ吊った。その笑みの歪さにヘックスは寒気を覚え、身震いする。
となりに立つローマンの表情は変わらず、のんびりとした口調で問うた。
「ギルちゃん、どしたの? なんかいいことあったのかな?」
「そうだな。我らネオジオンに新たな戦力が加わることになった」
「へぇ~。ま、大方予想はつくけどね」
今度はローマンの口角が上がった。事態を読めないヘックスを見て、ローマンは嘆くように首を振る。
「ヘックス、分かんないかなぁ。エゥーゴだよ、エゥーゴ。元ジオン出身のやつが寝返るってことさ」
「何っ!?」
「驚くことかねぇ。ま、売り込みのタイミングとしては良いんじゃないの。コロニーの制圧は順調だし、人手は足りていないからね」
からからとローマンが笑う。エゥーゴを裏切る者達が出てきた。
確かにスペースノイド寄りの者達が集まってできたのがエゥーゴで、スペースノイド独立のために戦ったジオンの軍人も参加していたとは聞いている。
スペースノイドを弾圧するティターンズが崩壊した今、エゥーゴのスペースノイドのために戦うというアイデンティティが喪失しつつあるのかもしれない。
ティターンズという強大の敵がいたからこそ結成できたエゥーゴ。それでなければ、地球連邦出身の軍人と旧ジオンの者達が手を組むはずがない。
敵の敵は味方とはよく言ったものだとヘックスは妙に納得した。
「で、ギルちゃんのお願いは、そいつらを迎えに行けってことだね?」
「お願いではない。命令だ。エゥーゴを離反した者達を受け入れ、我が軍の戦力とする」
「我が軍、ね。てことは、ディクセル様の部隊に編成になったわけね。厄介払いじゃなきゃいいけど」
低く笑うローマンを見るギルロードの瞳の色が変わった。死んだ魚のように濁った色。ギルロードが深い怒りを煮えたぎらせている時の色である。
ヘックスはその変化に気づき、慌てて声を上げた。
「その任務、承知致しました! 早速、出航の準備に取り掛かります」
踵を揃えて敬礼をする。ギルロードの瞳に明るみが戻った。
「頼んだ。罠だったら、その時は撃沈しても構わんとの命令だ」
「はっ! 了解であります」
軍人の鏡のようにはきはきとした受け答えをするヘックスを見たローマンが目を細めた。
「ヘックスは偉いねぇ。いっぱいお仕事するんだからさ」
「バカか、お前!」
「だって、そうじゃん。ディクセル様お抱えの艦隊で一番の働き者は、間違いなくうちだよ。ね、ギルちゃん?」
ローマンは笑みと共にウィンクをして見せた。これでまたギルロードが怒りに震えることになる。ヘックスは、そっとモニターに視線を戻した。
だが、ヘックスの予想は外れていた。いつも通りの冷めた視線を向けているだけで、他に変わった様子はなく、ローマンの言葉に淡々と返す。
「信頼を得るためには当然の義務だ」
言い放った言葉がヘックスの癇(かん)に障った。元宇宙海賊だったローマン達を信用していないのだ。確かにアクシズと合流して、1年ほどしか経ってはいない。
だが、危険な任務をこなしてきたきた自負はある。信頼に値する実績を残していると考えていたヘックスにとって、ギルロードの言葉はあまりにも冷淡なものだった。
怒りに震えるヘックスの肩にローマンが手を乗せる。
「なるほどねぇ。じゃあ、しょうがないか。ギルちゃん、了解だよぉ。じゃ、通信切るねぇ」
ギルロードの言葉を待たずに、ローマンが通信を打ち切った。言いたいことを何一つ言えず、不満を溜めたヘックスがローマンに噛みつく。
「ローマン! お前っ!」
「だって、しょうがないじゃん。俺達は余所者みたいなもんだからね」
「だからといって、命を懸けて戦ってきたことに変わりはない!」
「そうだね。だからこそ、堪えるべきなんだよ」
先ほどまでののほほんとしていた表情が一変し、硬い表情になったローマンは言葉を選ぶようにゆっくりと話す。
「俺達は今、奪われる側だ。ディクセル様の気持ち次第で簡単に切り捨てられる。奪う側に回るまで耐えなきゃいけないんだ」
「ローマン……」
「まあ、このまま終わるつもりは毛頭ないさ。なっ、ヘックス?」
「ああ、そうだな。なってやろうじゃないか、奪う側によ」
2人は固い決意と共に、不敵な笑みを浮かべた。