機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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大義

「ゲイル中尉、聞こえているのだろう? 俺だ。デューク・ウェインズだ」

 

 自らデュークと名乗った。ゲイル達に攻撃を仕掛けてきたのは、エゥーゴに所属している人間だったのだ。

 一瞬の迷いがゲイルに生じる。

 

「デューク大尉! 何故、俺達を攻撃した!? 何を考えている!?」

 

「何を? 決まっているだろう。ネオジオンの元へ行くのだ。いや、帰ると言った方が適格かもな」

 

「帰る?」

 

「そうだ。俺達はジオンの下で戦った兵士。スペースノイド独立のために戦った勇者なのだ」

 

「勇者だと?」

 

 自らを勇者と称したデュークにゲイルが吠える。

 

「仲間を撃っておいて、何が勇者だ!」

 

「もう仲間ではないさ。いや、そもそもエゥーゴの者達を仲間だと思ってはいない。共通の敵と戦うために利用させてもらっただけだ」

 

「ティターンズを倒したから、エゥーゴは用済みってことか?」

 

「そうだ。エゥーゴに大義はない。真にスペースノイドを独立させることができるのは、ネオジオンだけだ」

 

「偉そうなことを言うな。お前がやっていることはただの裏切りだ!」

 

 ガンダムMk-Ⅲのビームサーベルが徐々にシュツルムディアスに迫る。

 そのような状況で、くつくつとデュークは笑った。

 

「大義の前では小事だ。俺達はこれから多くのスペースノイドを救うという使命がある。そのために多少の犠牲は必要不可欠」

 

「貴様っ!」

 

「聞け、ゲイル中尉。君もジオンの出身者だろう? 俺達が戦う理由はない。どうだ? 共にネオジオンの下で戦わないか?」

 

「ふざけるな! 誰が!」

 

「言っただろう。もう、エゥーゴは終わりだと。あのハリマにはエゥーゴから離れ、ネオジオンに行く者達が大勢乗っている。エゥーゴに大義なしと思った者達がな」

 

 ゲイルの目が一瞬、ハリマへと向く。その瞬間をデュークは見逃さなかった。

 つばぜり合いから逃れると、距離を取ってビームピストルを発射する。ゲイルは舌打ちをしビームを避けるために、バーニアを噴射した。

 放たれたビームがガンダムMk-Ⅲの脇を掠めるように飛んでいく。的確な射撃から、デュークの確かな腕前が伝わってきた。

 

 しかし、自分の腕前が劣っているとは思わなかった。それにガンダムMk-Ⅲは、シュツルムディアスよりスペックが上だ。

 まともにやり合えば、こちらに分がある。残りの2機のシュツルムディアスには、ダンとライセイが対応するはずだ。

 ゲイルは呼吸を落ち着け、デュークの動きを予測しビームライフルを放つ。

 

 その一撃を難なく躱すシュツルムディアスに次なる一撃が放たれる。ガンダムMk-Ⅲの両肩にあるビームキャノンだ。

 二筋のビームが回避行動を取ったシュツルムディアスの脚部をえぐった。

 溶解した部分が爆発し、シュツルムディアスのバランスが崩れる。

 

「ぬぅっ! やるな! ゲイル中尉!」

 

「落ちろっ!」

 

 ガンダムMk-Ⅲのビームライフルの砲口がシュツルムディアスを捉えた。

 その瞬間、コクピット内にアラートが鳴り響く。反射的に射撃体勢から回避行動に移ったガンダムMk-Ⅲの傍をビームが抜けていく。

 的確な射撃。前に味わった記憶が蘇る。ガザDとの戦いを思い出したゲイルは、ビームの射線から敵の位置を割り出し、視線を向けた。

 

 そこには猛進する、ダークグレーで機体を染めたMA形態のガザD。そして、その後方から5機のガザCが向かってきていた。

 

「くっ。ネオジオンか」

 

 このまま戦えば、圧倒的に不利になる。性能は申し分ないゲイル達のMSではあるが、数の優位差を逆転させるのは難しい。

 ゲイルはここまでと判断し、苦渋に満ちた表情で言う。

 

「ダン、ライセイ、撤退だ。このままではまずい」

 

「くそったれっ!」

 

「分かった。警戒しつつ後退だね」

 

 ライセイの言う通り、背中を見せて一気に逃げる訳にはいかない。

 適度に距離を取りつつ、戦域を離脱する。デューク達は追うようなことはせず、援軍と思われるネオジオン軍も追撃はしてこなかった。

 撤退するゲイル達の間に交わす言葉がなく、重苦しい沈黙が流れる。

 

 ゲイルはエゥーゴを離反した者達のことを考えた。ジオンに魂を縛られた者達は、まだエゥーゴにいるのではないか。

 更に裏切者が出てしまえば、エゥーゴは空中分解するかもしれない。ただでさえ機能不全に陥りかけている時に、この騒動。影響の度合いは間違いなく大きいだろう。

 考えるだけで口の中が苦くなる報告をしなければならないゲイルは、眉をひそめる。

 

 エゥーゴは終わり。デュークの放った言葉がゲイルの頭の中で反芻する。

 戦力の立て直しを図るエゥーゴに、深い闇が迫っているようにゲイルは感じた。

 


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