機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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戦後

 戦の火が消えた。

 ほんの一時間前までこの宙域は戦場であり、いくつものビーム光と爆発で彩られていた場所である。

 ティターンズの主力艦隊は崩壊し、ティターンズを主導していたパプテマス・シロッコも戦死したとの報告を艦内放送で聞いたゲイルは、まだ戦争が終わった実感が湧かないままでいた。

 

 指導者を失った軍勢がどうなるのか。その身で体験した過去が脳裏を過る。

 

「兄さん、聞いてる!?」

 

 現実に引き戻されたゲイルは、目の前のオレンジ色のパイロットスーツを着た青年を見て曖昧な表情を見せた。

 青年の名はライセイ。ゲイルの弟であり、唯一の家族だ。

 ゲイルと面影は似ているが、こちらは人柄の良さを感じさせる柔和な顔立ちをしている。

 

 そんな顔だから、怒り顔に迫力がない。

 

「聞いているよ、ライセイ。悪かったって言っているだろう? 敵を振り切るのに必死だったんだよ」

 

「だとしても、だよ。無茶な戦い方をしてさ。僕達のことを信用してないの?」

 

「しているって。ただ」

 

「ただじゃない! まったく。どれだけ心配したと思ってるんだよ?」

 

 ライセイは腕組みをして、ゲイルに対して抗議の姿勢を強めた。

 ただ、それもどこか可愛げがあって、重みに欠けている。これにはゲイルも苦笑するしかなかった。

 

「何を笑ってんのさ? 怒るよ?」

 

「分かったって。悪かったよ。今度から気を付けるから勘弁してくれ」

 

「今度が信用できないから言ってんの。無理しすぎなんだよ、昔からさ。人を頼っても良いんだからね?」

 

「まあ、分かってはいるんだがな……」

 

 思わず頬を指でかいた。

 人に頼ることをしない。いや、頼ろうとしなかった。

 自分がしっかりしないとダメなんだ。弟と共に生きるには、そうしなければならなかった。

 

 ゲイルが15歳でライセイが10歳の時、事故で両親を失い、それからはゲイルがライセイの面倒を一人で見ることになったのだ。

 弟を立派に育てなければ、両親に顔向けできない。真面目なゲイルがそう考えるのは当然のことであった。

 以降、ライセイに弱いところを見せない人生を歩んだ。ゲイルにとって、それは誇りであり信念でもあった。

 

 ただ、一つだけ誤算があったとすれば、ライセイもMSパイロットになったことだ。

 これは時代が悪かったとしか言えない。ゲイルが入隊したのはジオン公国の軍隊。スペースノイドであり、サイド3出身のゲイル達は否が応でも戦争に駆り出されてしまった。

 一年戦争。ジオン公国と地球連邦の間で勃発した、人類の半数を死に至らしめた戦争である。

 

 当時、19歳だったゲイルはMS適応試験に合格し、MSパイロットとしての道を歩むことになった。

 数々の戦場を潜り抜けたゲイルは、ただひたすらにライセイが無事に育つことを祈っていたが、時代はそんな願いを許さず、ジオン公国は国力の全てをつぎ込むように学徒動員まで行った。

 

 若干14歳のライセイは、そこでMSパイロットに選抜され、一年戦争最後の戦場であるア・バオア・クーへと送り込まれる。ゲイルは戦後、収容所を出た後にそのことを知った。

 ライセイの居所を調べ、収容所から解放されたのを機に二人でサイド3に戻ったのが0081年である。

 そこから4年間は培ってきたMSの操縦技術で生活をしていたが、スペースノイドを戦慄させる事件が起きた。

 

 サイド1の30バンチコロニーにティターンズが毒ガスを散布したのだ。

 これにより住民の大半の命が失われ、ティターンズに対する恐怖と憎悪が沸き上がる事態となった。

 

 30バンチ事件を契機に地球連邦政府に対する反政府活動が激化し、ティターンズに対抗するため親スペースノイド派で地球連邦軍の高官であるブレックス・フォーラの主導の下、武装組織エゥーゴが誕生することとなる。

 打倒ティターンズを掲げたエゥーゴの下に多くのスペースノイドが集い勢力を拡大した。

 その中には旧ジオン軍で活躍した者達も多くおり、エゥーゴは地球連邦とジオンの混成チームともいえる。

 

 そのエゥーゴにゲイルとライセイは参加していた。

 

「もう、その辺にしてやれよ、ライ。ゲイルも分かってはいるんだろうよ」

 

 仲裁の声を上げたのはゲイル達と同じくパイロットスーツを着た長身の男であった。

 ヒスパニック系の顔立ちにドレッドヘアーの男は、ゲイル達の同僚であるダン・ロクスターだ。

 ダンは二人の前に立つと、ゲイルとライセイの右手を掴み、無理やり握手をさせる。

 

「ほれ、これで仲直りだ」

 

「ダン中尉、簡単に言わないでよ」

 

「あのな、ライ。俺達にだって落ち度はあるんだ。ゲイルが頼りきれないのは、俺達がまだまだだってことじゃないのか?」

 

「それは……。確かに、僕の腕前じゃ兄さんには」

 

 顔色を伺うようにライセイは視線をゲイルに向けた。

 模擬戦での勝率はゲイルが8割であり、ライセイは圧倒的に負け越している。

 ゲイルとダンの戦績についても6割以上はゲイルに軍配が上がっていた。

 

 強者揃いのエゥーゴの中でもゲイルは指折りのパイロットと言える。

 ただ、ライセイが弱いとはゲイルは思っていない。

 撃墜数は稼げてはいないが、敵に手傷を負わせて退かせることに長けており、損傷率も低かった。

 

「ライセイ、悪かった。無理はしないよ。約束する」

 

「何度目かなぁ、その約束? ……分かったよ。今日はこれぐらいにしてあげる」

 

「今日は、か」

 

 くすりとゲイルは笑い、ダンは大口を開けて笑った。

 笑い声はMSデッキ内に響き、他の者達の顔にも笑顔がうつる。この時はまだ誰も次の戦の気配を感じ取ってはいなかった。

 地球圏に帰還を果たした勢力。ジオンの血筋を掲げたアクシズが今まさに動こうとしていた。

 

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