機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
相対速度を合わせたエンドラ級巡洋艦ハイドラと、コロンブス級輸送艦ハリマ。
ハイドラから発信したランチが、ハリマの側面に設置されているハッチに取りつくと、ランチの中からローマンとヘックスが顔を見せた。
地球連邦軍が主に使用しているコロンブスに乗るのは2人にとって初めてではない。
1年戦争時代に襲撃して鹵獲したことがあったので、艦内構造も何となくだが覚えている。
メインデッキに向かおうとしたところ、1人の男がローマン達の前に立った。厳めしい面構えの中年は、姿勢を正し敬礼をする。
「デューク・ウェインズです。ただいまを持って、ネオジオンに帰還いたしました」
デュークという名に聞き覚えがあった。こいつがエゥーゴを裏切った者の代表者か。
厳格な表情を崩さないところから、自分を律せる人物であるか、あるいは自分の行いが正義と信じて疑わない人物だろう。
裏切ったという負い目を全く感じさせないデュークは、ローマン達をMSデッキへと連れて行った。
辿り着いたMSデッキには、見覚えのあるMSが並んでいた。エゥーゴのリックディアスの発展型か。
ローマンの興味はすぐに別のところに向いた。MSデッキの真ん中で車座に座らせられている者達。銃を持った兵士達に囲まれてる。
あれはエゥーゴの者達だろう。デューク達が画策した離反劇に巻き込まれた者達は、皆一様に不安そうにしていた。
「ローマン殿。いや、騎士と聞いておりますので、ローマン様とお呼びすれば良いでしょうか?」
硬い物言いのデュークに向けて、ローマンは手をひらひらと振った。
「ああ、様とかいらないから。そんな柄(がら)じゃないしね」
「では、同志としてローマン殿と呼ばせていただきます」
「お好きにどうぞ~。しっかし、結構な人数を引き連れてきたみたいだねぇ」
MSデッキに集まった者達だけで数十人はいる。船の各所に配置されている者達もいれれば、相当な数に上るであろう。
それだけジオン信者がエゥーゴ内にいたということだ。
「我々は全てジオンの名の下で戦ってきた勇者です。これからは、ジオン再興のため、スペースノイドの独立のため、命を懸けて戦ってまいります」
僅かに熱を帯びた声音から、デュークという男は自分に酔っているところがあると分かった。
ジオンこそが正義。そのために戦う自分もまた正義。そう心の片隅で思っているに違いない。自分とは全く違う人種にローマンは苦笑する。
「まあ、お互い、無理しない程度に頑張ろうよ。命あっての物種だからさ」
「我々は死すら厭わない覚悟でいます。ディクセル様の艦隊であれば、最前線で活躍できると聞いておりますので、存分に我らの力をお使いください」
「最前線ねぇ」
良いように使われているだけなんだけどね。口には出さなかったが表情には出ていたのか、デュークが怪訝そうな表情を見せた。
どのような待遇を受けているかは、早晩分かることだからここで言う必要はないだろう。説明するのも面倒だと思ったローマンは、気になっている拘束された者達について問う。
「彼らのことは、どうすんの?」
「我らが敵、エゥーゴの者達です。いか様にでも処分してください」
「処分ねぇ……。じゃあさ、適当なコロニーで解放しようか?」
「解放?」
ローマンの言葉が余程予想外だったのか、呆気に取られた声をデュークは上げた。
「解放とはどういうことです? 敵なのですよ? 軍事的にも利用価値はあるはずです」
「確かに、それもありかもね。だけどさ、俺の信条は違うわけよ。欲張ると痛い目みるぞ、てのが俺の考え。やりすぎると恨みを買うし、こわ~い人達から目の敵にされちゃうんだよね」
「戦争なのです。恨みの1つや2つ背負う覚悟でいかなければ」
「恨みってさ、見えないんだよ。でも、確実に体にこびりついてくる。気づいたら恨みまみれになって周り中敵だらけ、ってことになりかねないんだよね」
口角を上げたローマンは、デュークの肩に手を乗せて言葉を続ける。
「重みを感じないものは怖いよ? 簡単に背負うとか言ってたら、命がいくつあっても足らないよ。言ったでしょ、命あっての物種ってさ」
「……あなたは本当にネオジオンの兵士なのですか?」
拳を握りしめたデュークは、不快感を隠せないでいた。そのことにローマンは気づいているが、気にせずに言う。
「そだよ~。でも、みんながみんな同じ方向を向いている訳じゃないんだよね。俺達は命が惜しい。デュークちゃんとは気が合わないかもね」
「そうですか。残念です。同志だと思っていたのに」
そういうとデュークは踵を返して、拘束された者達の所へと行った。
解放の件を伝えているようで、エゥーゴの者達の表情に安堵の色が浮かんでいる。デュークは堅物そうだが、不満でも上の命令には従う軍人のようだ。
今まで黙っていたヘックスが、ローマンに囁く。
「まためんどくさそうな奴が増えてしまったな」
「だねぇ。一緒に戦うのは暑苦しそうだ」
「温度差が激しすぎるからな。風邪を引いてしまいそうだ」
ヘックスの冗談を聞いて、ローマンは湧き上がってくる笑いを堪える。
元宇宙海賊と、エゥーゴを裏切ったジオニズムの信奉者。ディクセル艦隊の色彩が豊かになってしまったな。とローマンは心の中で呟く。
ふと、冷たい視線を感じ目を向けると、デュークがじっとローマンのことを見つめていた。
「嫌われたもんだねぇ」
「今の会話で好きになってくれる要素が、1つでもあったか?」
「確かに」
今度は笑いを堪えることなく、高らかな声を上げた。
ローマンの笑い声に顔をしかめるデューク。2人の関係は水と油のような相いれないものへとなった。