機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
エゥーゴが管理する運動施設でゲイルは汗を流しながら筋肉を酷使していた。
一通りのメニューをこなし、あふれ出た汗を洗い流すためにシャワールームへと向かう。
その間、施設にいるエゥーゴの者達の視線をゲイルは受け続けていた。疑いを持った視線だ。
デューク達、旧ジオン軍出身者による離反については緘口令(かんこうれい)が敷かれ、デューク達は除隊した扱いとなっていた。
だが、人の口に戸はたてられぬというように、どこからか漏れてしまい旧ジオン派の者達に対する疑念を抱く者達が多くなっている。
ゲイルが旧ジオン軍の出身者であることは知られているため、こうして疑いの眼差しを浴び続けることになっていたのだ。
そんなゲイルに更なる仕打ちが待っていた。
命令があるまで待機。ケルンの所属から離れガンダムMk-Ⅲからも降ろされるという酷なものだった。
臭いものには蓋をという考えなのだろう。現場から外し監視の目を付ければ、裏切りが起こったとしても、今回のような痛手を被ることもない。
今のエゥーゴには、その程度の采配しかできないのだ。
影響力を失い続けるエゥーゴを支える者達を遠ざけてしまえば、更に失墜する恐れがある。
それが分かっていないのかと言いたくなるが、現場の人間が何を言っても聞く耳はもたないだろう。
エゥーゴを導くことができる人物が空席なまま、事態は混迷の色を深めている。エゥーゴは終わり。デュークの言葉が頭の片隅に残り続けている。
いっそのこと脱退するか。ライセイも現在、待機を言い渡されている身だ。真剣に話をするチャンスかもしれない。
熱めのシャワーで汗を洗い流すと、身支度を整え、MSシミュレーターがある施設へと向かう。
そこでも待っていたのは、好奇と疑惑の入り混じった視線であった。
毎度のことに慣れるを通り越して、呆れてしまっている。ゲイルがシミュレーターに座ると、周りから人が離れていった。
これもいつものことだ。相手をCPUに設定し、難易度を上げようとしたとき、シミュレーターをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、アオイが笑みを浮かべて言う。
「コンピューター相手も飽きたんじゃない? 私とやりましょうよ」
「良いのか? 俺といると、変な目で見られるぞ?」
「別に良いわよ。私はゲイルのことを信じているから」
「そうか。なら、やろうか」
言うとアオイは頷き、隣のシミュレーターに着座した。
お互い乗機はリックディアスを選択し、対戦を開始した。
形勢はゲイルの方に傾いており、アオイは押し切られないようになんとか防戦している感じだ。
アオイの腕前は確かだ。ダンと同等であることは間違いない。それでもガンダムMk-Ⅲに乗るようになったお陰で、更に腕に磨きが掛かったという自負がある。
相手がアオイとは言え、早々負ける訳にはいかないのだ。
真剣勝負の最中に通信が入る。アオイからだった。
「ねぇ、ゲイル、聞いていい?」
「なんだ? 負けてほしいってお願いなら聞かないぞ?」
「違うわよ。ゲイルは何でエゥーゴに入ったの?」
ゲイルは返す言葉に窮した。ただ、シミュレーター内の音声は外には流れないし、保存もされていない。
戦いの最中ではあるが、だからこそ余計なことを考えず、言葉を交わせるかもしれないと考えたゲイルは、ぽつりと語る。
「金のためだ」
「……それって、ライ君のため?」
「そうだ。ライセイには幸せになってもらいたい。あいつには寂しい思い、辛い思いしかさせてやれなかったからな」
「ゲイル、あなた自身はどうなの?」
「えっ?」
思わぬ言葉にゲイルの手が一瞬止まる。アオイのリックディアスのビームピストルに胸部を貫かれ、ゲームオーバーとなった。
「俺自身?」
「そう。ライ君はあなたにも幸せになってほしいと思っているはずよ。ゲイル、あなたの幸せって何?」
「俺は……。分からない。ただ、ライセイが幸せになってくれれば、俺も」
「ライ君に押し付けちゃダメよ。あなた自身の幸せを見つけないと、ライ君も本当に幸せにならないと思うの」
アオイの言葉が重く圧し掛かる。ゲイルがライセイの幸せを願う様に、ライセイもゲイルの幸せを願っている。
お互いがお互いの幸せを望んでいるようでは、本当の幸せは来るのであろうか。幸せを遠ざけてはしまわないだろうか。
返す言葉が見つからないゲイルに、アオイが続ける。
「どんな細やかなものでも良いわ。ゲイル、あなたの幸せを見つけて。そして、ライ君に教えてあげるの。じゃないと、2人とも幸せになれないわ」
「そう……かもしれない」
「できれば、私にも教えてほしいところだけどね」
「そうだな。その時は言うとする」
「約束よ? じゃあ、私は仕事に戻るから」
「仕事中だったのか?」
アオイはゲイルの問いに応えず、シミュレーターを後にして去っていった。
残されたゲイルはシートに深くもたれかかり、アオイとの会話を思い出す。
俺の幸せってなんだ。ずっとライセイのために生きてきた。あいつが幸せになることが、俺にとっての幸せだと思っていた。
でも、もし、ライセイが俺のことで幸せを遠ざけてしまっているとしたら。
ゲイルは幸福だった少年時代を思い出す。色あせてしまってはいるが、確かに幸せだった。
大好きな父と母。ライセイと共に遊びまわっていた日々は、幸せ以外のなにものでもなかった。
あのとき感じた幸せは一体なにから生まれたものなのだろうか。
ゲイルは忘れていた感情を取り戻そうとしている。弟のために生き続けてきた十数年の時は早々に埋まらないが、少しだけ自分と見つめ合うことができた気がした。