機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
宇宙を航行する灰褐色の大型戦艦の周りを、数機のMSが飛び交っていた。
戦艦の名はグワンバン級戦艦グワンザム。MSを10機搭載でき、艦隊の旗艦となる船である。
現在、地球圏掌握のため艦隊を分散させ任務に当たらせていることもあり、グワンザムは1隻で航行していた。
船の周りを飛んでいたMSが1機ずつグワンザムのMSデッキへと戻ってくる。
その中で1機、着艦時に余計なバーニアを噴かしたガザDがいた。その様子を見ていたギルロードの瞳の色が明るさを失う。
ガザDから降りてきたパイロットは、迫るギルロードに気づくと踵を正して敬礼をする。
「ギルロード様、申し訳ございません!」
「もし、今のような着艦で負傷者が出たら、貴様は責任が取れるのか?」
「申し訳ございません! 次は上手くやります」
「次が上手くやれる保証がどこにある?」
更に色を失っていくギルロードの瞳。右手の拳を固く握りしめたとき、その拳を優しく握りしめた手があった。
プラチナブロンドの淑やかな女性がギルロードに優しく微笑みかける。
「ギル、もう十分です。ミスは誰にでもあることですから。誰も怪我をしなかったことを喜びましょう」
「姉さん……。次は容赦しない。覚悟をして訓練に望め」
ギルロードはくるりと振り返ると、そのままMSデッキを後にした。その後ろを女性が追いかける。
通路に出たところで、ギルロードは振り返って女性に言う。
「姉さんは甘すぎる。訓練でのミスは叱責しなければならない」
「ギル、誰もがあなたのように完璧ではないのです。それを分かってあげてください」
「あの程度もこなせないようでは、戦場でこちらの足を引っ張るのは目に見えている」
「それを導いてあげるのも騎士である、あなたの役目ですよ」
「くっ……」
痛いところを突かれたのか、ギルロードは視線を女性から外した。
姉は他人に優しすぎるきらいがある。厳しく言わねば分からぬこともあるというのに。
ギルロードは己の短気さを知ってはいるが、理不尽に怒っているとは思っていない。
無駄口をたたかず、ただ真面目に兵士としての任務を全うすれば、自分は何も言わない。
それができていない連中が多いから、自分がそれを正しているだけだ。
ギルロードにとって、自分の考え方が全てであり、物事の基本だと考えている。基本を外れた者には罰を与えなければならない。
融通が利かず、非常に度量が狭い人間がギルロード・シュヴァの本質である。
しかし、それも仕方がないことであった。彼自身の生い立ち故の問題なのだから。
「ディクセル様に呼ばれているのでしょう? 私も行きますから、一緒に行きましょう」
「姉さんは来なくてもいい」
「私もあなたと同じ騎士の称号をもらっているのですよ? 私のはお飾りみたいなものでしょうけど」
「姉さんの操縦技術は悪くはない。分かった。一緒に行こう」
2人で艦長室へと向かう。通路ですれ違う兵士達はギルロードを見ると、皆一様に顔を強張らせていた。
少しでも粗相(そそう)があれば、何をされるか分かったものではないという恐怖で縛られているのだ。
艦長室に着くと、ブザーを押して名乗り上げる。
「ギルロードであります」
「入れ」
ドアを開けると、他の部屋とは違って木製の本棚や机、革張りのソファなど置かれており、壁紙も温かみのある色のものが貼られている。
無機質な部屋しかない宇宙戦艦で自然のぬくもりを感じることができる数少ない場所が、この艦長室だ。
艦長室の奥の椅子に腰かけているのが、この船の主であるディクセル・ニーゲンである。
肌は白く、鋭い目つきをした細面の男は50代と思われる容貌をしていた。
「ギルロード、それにセティ。まずはソファに座り給え」
ディクセルは2人に着座を促すと、机の上にある資料を手にして椅子を立つ。
ギルロードとその姉であるセティの前に資料を並べると、そこにはエゥーゴの旗艦であったアーガマの足跡が記載されていた。
資料を手に取るギルロード。アーガマとの戦闘歴や、アクシズへの攻撃の様子などが書かれていた。
「アーガマ……。しぶとい連中だ」
「今、ネオジオンはそのアーガマによって振り回されている最中だ。たった1隻にてこずるとは情けない」
「ディクセル様、私にアーガマの追跡の任を与えてくだされば、必ずや撃沈してみせます」
「お前ならばできるだろう。だが、アーガマに関してはハマーン様直下の者達が対応することが決まっている。我々は手出しできんのだよ」
ディクセルの言葉を聞き、ギルロードが苦々しい表情を見せる。
ハマーン・カーン。ジオンの遺児であるミネバ・ラオ・ザビの後見人であり、摂政のハマーンに逆らうことは、このネオジオンでは誰にもできない。
たとえ、一年戦争でザビ家親衛隊をまとめていたディクセルと言えど、ハマーンのやり方に口を挟むことはできなかった。
ザビ家親衛隊として戦い、敗残兵をまとめたディクセルが、20を過ぎた程度の小娘に指図されるのは、頭にくるものがあるだろう。
ハマーンもディクセルには多少気を使っているようで艦隊を任せてはいるが、ハマーン直轄の部隊と比べると見劣りする。
不遇な扱いを受けているディクセルの心中は複雑に違いない。
「では、我々は見ているだけだと?」
「いや、そうではない。アーガマは月のグラナダに向かっているらしく、そこで一戦しかける作戦を立てているようだ」
「ならば、そこに」
「いや、我々の任務は陽動だ。グラナダ近くまで迫り、出てきた部隊を叩く。アーガマ本体については、ハマーン様の部下が対応する」
「分かりました。その任務、私にお任せください」
「そのつもりだ。お前はクレイトスに移り、任務に当たれ」
「はっ」
立ち上がったギルロードは敬礼をする。セティも立ち上がると敬礼をした。
「ディクセル様、私はいかがいたしましょう?」
「そうだな。セティもクレイトスへと移ってもらおう」
「了解いたしました」
「うむ。ギルロード、悪いが席を外してくれるか? セティと話すことがあるのでな」
ディクセルの言葉に従い、ギルロードは部屋を後にした。
部屋のドアが閉まったことを確認したディクセルが、セティに言う。
「思ったよりも不安定さはでていないようだな。これもお前のお陰だろうな」
「今の状況であれば調整は不要かと思います。私のことを本当の姉だと信じ込んでいますし、慕っていますので」
「強化人間は扱いが厄介と聞いていたが、これならば十分な戦力になる。引き続き、ギルロードのメンタルケアを頼む」
「はい。了解いたしました」
ギルロード・シュヴァは強化人間であった。