機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ゲイルはライセイを連れて、グラナダの宇宙港に来ていた。
花束を持った2人は献花台に花を添えて、目を伏せる。先日の戦いによって失われた者達を弔うために、ここに来たのであった。
ゲイルとライセイが配属されていたケルンは轟沈し、多くの戦死者が出ている。
未だに病院では懸命な治療が行われており、ベッドが足りない状況が続いていた。
ゲイルとライセイは献花台から離れたベンチに向かう。そこには、うなだれたダンがいた。
憔悴しているダンにゲイルが声を掛ける。
「お前が無事で良かった」
「すまん。何もできなかった」
「お前の責任じゃない」
「そうかもしれん。だが……」
ダンは拳を固く握り、湧き上がる後悔の念を必死に堪えているようであった。
そうなってしまうのも無理はない。MS隊の隊長として戦ったのに、部下はシマン以外戦死。ダンはシマンによって助けられたお陰で怪我はなかった。
部下を死なせてしまった後悔に苛まれるのは、ゲイルにも分かる。
部隊を率いる立場になった多くの者が通過する痛み。部下の死をどう受け止めるのかは、人それぞれのためゲイルには的確なアドバイスができなかった。
それでも、言っておかなければならないことがある。ゲイルは唇をキュッと結ぶと、ゆっくりと口を開いた。
「俺が死んだ方がマシだった。とか考えるな。生き残ったヤツが考えて良いことじゃない。それは、死んだやつに対する冒涜だ」
ダンの握り拳がわなわなと震える。それを見ても尚、ゲイルは続けた。
「死んだヤツらにできることは、1つだけだ。生きろ。お前が死んでも、死んだヤツは生き返らない。生き続けるんだ」
「……悪ぃ、先に帰る」
言葉少なにダンは立ち上がると、宇宙港の出口へと向かった。ゲイルの視線はベンチに座っている、もう1人に向く。
そこにはダンを助けた、シマン・トガワがいた。
「シマン、無事に帰ってくれて良かった。ダンを助けてくれて、ありがとう」
「ゲイル中尉。俺、ビビっちゃって……。逃げることしか頭になくて」
「ビビって当然だ。初の実戦でビビらないヤツはいない」
シマンの肩にゲイルは手を乗せて、優しく言う。
「お前も自分を責めるな。そんなことをしても、喜ぶのは敵だけだ」
「ゲイル中尉……」
今にも泣き出しそう表情を見せたシマンは、顔を伏せて涙を堪えていた。
仲間を失っただけでなく、何もできなかった無力感は余程辛いであろう。自分もあのときこうしていれば、と後悔ばかりが頭を過ぎっていたときがあった。
これも割り切れるようになるしか解決方法はない。自分の中で落とし所を見つけださなければ、ずっと悔やみ続けることになる。
そうなってしまえば、もう戦うことはできない。反省は人を生かすが、後悔は人を殺すこともある。
過去に囚われてしまえば、未来に立ち向かう力は湧いてこない。戦うためには前を見るしかないのだ。
シマンの肩を掌で軽く叩く。
「悔しさを知ったお前は、きっと強くなれる。生きろよ、シマン」
シマンの堪えていた涙が溢れ、嗚咽を漏らした。ここで慰めても本人が惨めに思うだけだ。
答えを出すのは自分なのだから、余計なことは言うまい。ゲイルはライセイに目配せすると、そっとその場を立ち去った。
宇宙港を行き交う人々の多くは沈痛な面持ちをしており、普段の活気は見る影もない。
ゲイルもライセイと言葉を交わすことなく出口へと向かっていると、ベンチからおもむろに立ち上がるスーツの男性に目がいった。
「お久しぶりです。ゲイルさん、ライセイさん」
声を掛けてきたのはスペクターであった。微笑みを浮かべたまま、スペクターは言う。
「この度は大変ご愁傷さまでした。なんとお声掛けすればいいのか」
「回りくどいな、スペクター。お前が俺達の前に現れたということは、何か用があるんだろう?」
言葉を遮ったゲイルは、やや険しい表情を浮かべる。
「ネオジオンと戦えと言うなら、残念だが俺達は力になれない。待機中の身分なんでな」
「承知しております。だから、こうして会いに来たのですから」
「何?」
「お望みとあらば、前線に復帰できるよう働きかけましょう。その意思がおありであればの話ですがね」
ふふっ、とスペクターは笑った。ネオジオンと戦う意思。それは以前、スペクターとの会話の中で出てきた。
結局、答えが出せずじまいだったゲイルは返す言葉に躊躇う。
「戦います。だから、前線に戻してください」
声を上げたのはライセイであった。意表を突かれたゲイルは目を見開き、ライセイを見る。
「兄さん、ごめんね。でも、僕は戦いたい。皆を守りたいんだ。失うだけじゃ嫌だ」
「死ぬかもしれないんだぞ?」
「分かってる。でも、何もしないまま生きるのは辛いよ。僕にできることがあるなら、やりたいんだ」
「ライセイ……」
次の言葉が出せないゲイルに、ライセイが言う。
「わがままを言って、ごめんね。でも、これだけは譲れないよ。僕は戦う」
強い覚悟を感じさせる声音だった。その表情はエゥーゴにライセイが合流したときに見せたものと近いものである。
腹を決めたのか。真っ直ぐ見つめるライセイの視線が、ゲイルの答えを求めている。
どんな答えでも受け入れてくれるに違いない。それが本当に俺の意思であれば。
ゲイルは己の生き方を振り返る。ライセイのために苦しいことは何でも乗り切ってきた。
ネオジオンと戦うという選択によって、とてつもない苦しみを味わうかもしれない。
ライセイもそれくらいは分かっているだろう。それでも、選んだのだ。それならば、ライセイの願いを支えよう。それが俺の生き方なのだから。
「スペクター、俺をガンダムに乗せてくれ」
「そう言っていただけると信じておりました。お2人の機体についても、お任せください。活躍を期待しております」
スペクターは軽く頭を下げると、背中を見せて去って行った。
「兄さん……」
不安そうに言うライセイ。ゲイルは笑みを見せて言った。
「お前がエゥーゴに勝手に参加したときの、お返しだ。文句は聞かないぞ?」
ライセイは小さく笑うと、ゲイルもつられて笑った。弟と共に戦うという選択が正しいのか、ゲイルには判断できないが、弟と一緒にいたいという思いに嘘はない。
戦う意思を見いだしたゲイルの瞳から迷いが消えた。