機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
アーガマ級強襲用宇宙巡洋艦アヴァロンが完成したのは、アオイからその存在を聞いてから1ヶ月ほど経ってからである。
それと同時期にゲイルとライセイに辞令が下り、2人共アヴァロンのMS隊所属となり、今日は乗組員との初顔合わせの日であった。
エゥーゴの施設内にある講堂に集まった者達の中に見知った顔を見つける。
ダンとシマンであった。ゲイルとライセイを見た2人は揃って手招きをする。
近くまで寄ったゲイルの肩にダンが手を回した。
「遅いぞ。ビビって来ないのかと思ったぜ」
「ダン中尉、そんなこと言って、2人が来ないかチラチラ入口を見てたじゃないですか」
「うるさいぞ、シマン。またしごかれたいのか?」
「すんません! 黙りますので、許してください」
軽妙なやり取りをする2人を見て、ゲイルはほっと胸をなで下ろした。
一時はどうなる事かと思ってはいたが、元気な姿で戻ってきてくれたのだ。喜ばしいの一言しかない。
2人を見るライセイの顔にも笑みが浮かんでいた。ライセイも安心したのだろう。口に出すことは少なかったが、心底心配していたのは伝わってきていた。
「2人とも、よく戻ってきてくれた。よろしく頼むぞ」
「だね。ダン中尉、シマン、またよろしくね」
笑みを浮かべた2人の言葉を聞いて、ダンとシマンは照れくさそうな表情を見せた。
「ちょっと。私は除け者なの?」
ゲイルの背後から声を掛けたのはアオイであった。不満そうな顔をしている。
そのアオイを見たダンは顔をしかめた。
「はっ! 俺達現場組にしかない絆ってやつを確かめてんだから、あっち行ってな」
「へぇ~、そんなこと言うの? じゃあ、他の3人の意見を聞きましょうよ。ライ君はどっちの味方?」
「もちろん、俺に決まってるよな、ライ?」
板挟みにあっているライセイは、乾いた笑いをした。
「ど、どっちも大切な仲間だよ。ねっ、兄さん?」
「俺に振るのか? ダンとは付き合いが長いし、シマンを鍛えたのは俺達だが、その訓練にはアオイもサポートに入ってくれていたな」
「だよね? 皆で頑張ったんだから、皆仲良しだよ」
とりあえず丸く収めようとしたライセイに、ダンが噛み付く。
「どこを見たら仲が良いように見えるんだ、ライ?」
「どこって……。兄さ~ん?」
早々に助け舟を求められたゲイルは、少し悩んで顔を明るくした。
「喧嘩するほど仲がいい、という言葉があるぞ」
「知らねぇし! あったとしても、間違ってる!」
名言を真っ向から否定したダン。これにはゲイルもお手上げであった。
どうして、こうも仲良くできないのだろうか。どちらも、気の利いた良い奴だ。
なのに、上手く行かないのは何故か。ゲイルは何度か考えたが、今回も答えは出せないままであった。
「乗船前から仲がいいな」
ゲイル達の輪の外から声を掛けたのは、長身で色付きの眼鏡を掛けた黒人男性であった。
引き締まった顔立ちに短く揃えた髪から、精悍さを感じる男が続けて言う。
「紹介が遅れたな。クラウス・リーバー大尉だ。アヴァロンのMS隊隊長を任されることになった」
ゲイル達はクラウスのことを上官と知ると、敬礼をする。
敬礼を返したクラウスはゲイル達1人1人をしっかりと見つめると、満足げな笑みを見せた。
「良い面構えをしている。ここに集まったのはエゥーゴの精鋭ということだな」
「クラウス大尉、よろしいでしょうか?」
ゲイルは言うと、クラウスは頷いた。
「MS隊のメンバーはこれで全てでしょうか?」
「いや、もう1人いる。ほら、あそこにいるだろう? 金髪を長く伸ばした優男さ」
クラウスの指した方を見ると、集まった乗組員達の最後尾で佇んでいる男がいた。
確かに優男ではあるが、ひ弱な印象は受けない。年齢はライセイと同年代くらいであろうか。まだ20代前半のように見えた。
「あいつはああ見えて腕が立つぞ。グリプス戦役を乗り越えただけはある」
「それは心強いですね」
「ああ。だが、協調性がないというか、マイペースというか……。ちょっと変わった奴なんだ」
「それは苦労しますね」
「まあ、そうだな。部下をまとめるのが上官の務めだから、苦労はつきものだ」
その苦労が少し分かるゲイルには、クラウスのことが他人ごとではなかった。
ゲイルもMS隊の隊長をしていたので、部下との関係で色々と苦労を掛けさせられ、大変な思いをしたものだ。
それに部下と上官の間に挟まれてしまうのも、MS隊の隊長の務めである。アオイとダンの関係には気を遣うことになるだろうなと、少しだけクラウスの今後を危惧した。
そうこうしていると、壇上に2人の男が上る。演壇の中央に向かうと講演台の前に立ち、姿勢を正した。
マイクの前に立った男は、どこかで見たような印象をゲイルは受ける。40後半から50代前半と思しき風貌の男は、軍人然とした面構えをしていた。
隣の男はまだ若い。30代くらいだろうか。こちらも硬い表情をしており、微動だに姿勢を崩さない。
講演台の前に立つ男が言う。
「私はフォルスト・イースレット中佐だ。アヴァロンの艦長を務めることになった。諸君、よろしく頼む」
イースレットという性に聞き覚えがあった。何だったか考えていると、ライセイが小声でいう。
「兄さん、イースレットって、たしか前に助けたネージュと同じ名前だよね?」
思い出したゲイルはこくりと頷いた。あの時、ネージュを探していた男がフォルストだったとは。
妙な縁もあったものだ。壇上のフォルストが、横にいる男性に手を向ける。
「彼はカイム・ラドルクス少佐だ。アヴァロンの副艦長だ」
紹介されたカイムは素早く敬礼をした。その様子から、よく鍛えられた軍人であることがうかがえる。
「エゥーゴは今、存亡の危機に立たされている。ネオジオンの侵攻を許すだけでなく、本拠地のグラナダを襲撃されるという緊急事態だ。そのような事態の中、完成したアヴァロンに求められるものは大きい。各人、エゥーゴを背負っている覚悟で職務に励んでほしい」
アヴァロンは新たなエゥーゴの象徴になりうるものなのだろうか。
それは、これからの活躍次第であるが、集まった者達の面構えを見れば大体のことは分かる。
この艦は強い。これならば、ネオジオンにも対抗できるだろう。巡洋艦1隻でできることは少ないが、アーガマは多くの戦果を上げてきた。
今度は我々が。その意思が伝わってくるようだ。
エゥーゴの期待を背負うアヴァロンがゲイル達を乗せて宙に飛んだのは、それから1週間ほど経ってからだった。