機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
先手を取ったのはクラウスのリックディアスⅡであった。
スラスターを全開にし、一気に加速すると訓練用のライフルをガンダムMk-Ⅲに向ける。
照射されたレーザーポイントをバーニアを噴射して鮮やかに躱したガンダムMk-Ⅲは、反撃を仕掛けた。
リックディアスⅡにライフルを向けると、相手の軌道を予測し射撃のボタンを押す。
放たれたレーザーを難なく回避するリックディアスⅡ。やはり手ごわい。クラウスはゲイル達の間を断ち切るように動く。
ライセイはリックディアスⅡの動きに即座に反応すると、ライフルを撃った。
それを見越したのか、リックディアスⅡは急減速。そして、すぐに再加速し、ライセイの攻撃をしのいだ。
クラウスの目的を察知したゲイルが叫ぶ。
「シマン! 避けろ!」
リックディアスⅡの射線上に浮かぶのは、シマンのネモスナイパーだ。
まさか、ゲイルとライセイがあっさり抜かれると思っていなかったのだろう。反応に遅れが見られた。
その隙を見逃してくれるほど、クラウスは甘くない。ネモスナイパーのコクピットにレーザーポイントが当てられる。
シマンは撃墜扱いとなった。クラウスの電光石火の動きに後手に回った、ゲイルとライセイ。
2人はリックディアスⅡの背中を追うようなことはしなかった。次なる攻撃の波を察知したからだ。
迫るのはダンのシュツルムディアスと、リュートのネモⅢの2機で、二手に分かれて襲い掛かる。
ガンダムMk-Ⅲにはシュツルムディアスが。プロトデルタにはネモⅢが相手となった。
ゲイルとライセイはお互いの位置をすぐに把握し、合流しようと動くが、その考えを見越したようにシュツルムディアスのライフルがガンダムMk-Ⅲの行く手を阻む。
打ち出されるレーザーを避ければ避けるほど、ライセイとの距離が遠ざかってしまう。
それはライセイも同じであった。ネモⅢもプロトデルタとガンダムMk-Ⅲを合流させまいとする。
徐々に距離が離れていく2機。この状況はまずい。ゲイルはあえてシュツルムディアスの懐に飛び込むように加速した。
内臓をぎゅうぎゅうに押さえつける強烈なGに耐えながら、突進を仕掛けたゲイルの動きはダンの予想の範囲を超えており、一瞬の迷いが生じる。
ダンに生まれた迷いは、たった数舜のことだ。だが、それで充分であった。
ガンダムMk-Ⅲのライフルが、射程ギリギリを飛ぶネモⅢに向く。当たらない可能性が高いが、撃たれるという結果が大事だ。
レーザーを放つと、ネモⅢは攻撃の手を緩めて、ガンダムMk-Ⅲに注意を払う。
そこでもまた1つの迷いができてしまった。
シュツルムディアスが出し抜かれたとしたら、ガンダムMk-Ⅲとプロトデルタの2機を相手にしなければならない。
高性能機を相手に量産機で戦うのは不利と判断したのか、ネモⅢはプロトデルタから距離を置いた。
距離が空き、攻撃が弱まったことを感じ取ったライセイは、ガンダムMk-Ⅲに向けて加速する。
急接近するガンダムMk-Ⅲとプロトデルタ。正面からぶつかる。そう思われた瞬間、2機は思考を共有しているかのようにギリギリの距離で互いに避けると、そのまま獲物に向けてライフルを構える。
相手が入れ替わり、ネモⅢにガンダムMk-Ⅲが。シュツルムディアスにプロトデルタが相対することとなった。
だが、それは先ほどとは立場が違い、ゲイル達の方が優位に立っていた。
あわや大惨事になるかと思われたゲイルとライセイのコンビネーションに気を取られてしまったのだ。
一瞬気を取られるだけで、立場が逆転してしまう。戦いの怖さを思い知らされたのは、ネモⅢのリュートであった。
回避行動に移ったのも時すでに遅く、ガンダムMk-Ⅲの撃ったレーザーが腹部を照らしたのだ。
これでリュートは撃墜されたことになる。プロトデルタも同様にレーザーを放っていたが、ダンの咄嗟の反応により回避された。
お互いのチームが1機ずつ撃墜されている状況で、まだリックディアスⅡは離れた位置におり、シュツルムディアスは孤立している。
2機で挟めば怖くはない。ゲイルはシュツルムディアスに狙いを定めようとする。
そのとき、ライセイの声が無線から響いた。
「兄さん、クラウス大尉が来る!」
まさかとは思ったが、ライセイの言葉に突き動かされて後方に目を向ける。
そこには離れていたはずのリックディアスⅡが猛進してきている姿があった。
あれだけの加速をして駆け抜けていったのに、すぐに戻ってくるとは。クラウスの技量の高さを改めて知ったゲイルは、フットペダルを踏み込んだ。
ライセイならばダンに遅れは取らない。
あとは弟に託して、ゲイルはクラウスとの戦いに注力することにした。
高速で迫るリックディアスⅡを相手に、ゲイルは距離を維持しながらライフルを撃つ。
バーニアを細かく噴射したリックディアスⅡにレーザーは当たることはなかった。
逆にライフルを向けられ、回避行動を余儀なくされる。互いに有効射程距離ギリギリを維持しつつ、ライフルを撃ち合う。
有効打を与えることができず、苛立ちが募るが焦った方が負けだ。
それはクラウスも理解しているのだろう。無理に仕掛けるようなことはせず、絶妙な加減速でゲイルを揺さぶりに掛けてきた。
気を抜けばやられてしまう。常に相手の動きを先読みしつつ、変化には柔軟に対応しなければならない。
ゲイルは自分の限界を引き出すような戦いをしていた。
本能は闘争心むき出しで襲い掛かろうとするが、なんとか理性でそれを縛り付けている状況だ。
気を緩めてしまえば、すぐに無茶で雑な攻め方になるだろう。冷静な思考を続けてからこそ、勝機が生まれるのだ。
一進一退の攻防戦が続く。そして、終わりは突然訪れた。
リックディアスⅡが動きを止めたのだ。
訝しむゲイルに通信が入る。
「兄さん、僕達の勝ちだよ!」
「勝った? クラウス大尉は?」
ゲイルの問いに、ライセイは嬉しそうに返す。
「僕が落としたよ。ダン中尉も落としたから、今日のMVPは僕だね」
「本当か? やるな、ライセイ」
「兄さんがクラウス大尉を引き付けてくれたお陰だよ。多分、ダン中尉は悔しがっているだろうなぁ」
「そうだろうな。間違いなく、悔しがっているさ」
ゲイルとライセイは声を上げて笑う。
「ゲイル中尉との戦いに熱中しすぎたな。俺としたことが、簡単にやられてしまった」
クラウスが言うと、今度はダンの声が聞こえた。
「くっそ~。ライ、また腕を上げたんじゃないか? あ~、またあいつになんか嫌味を言われる~!」
あいつとはアオイのことだ。こちらも間違いなく言うだろうな、とゲイルは思った。
「全員、良い動きをするようになった。これなら、いつ実戦になっても大丈夫だろう。よし、全機帰投する」
勝利の余韻に浸ることなく、アヴァロンへ帰投する。
ダンの言っていた通り、ライセイは更に腕に磨きが掛かってきていた。それに比べて自分はどうか。
クラウスに勝てないようでは、ライセイに抜かれてしまうかもしれない。
俺は強くならなければならない。ライセイに危険が迫ったときに守れるように。
弟のために戦うと決めたのだから。
ゲイルは帰ったらアオイに教えを乞おうと心に決めた。