機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ライセイの乗るプロトデルタは、暗礁宙域を漂うデブリに気を張りながら進んでいく。
首を回して周りの状況を確認する。どこからデブリが飛んでくるのか分からないからだ。
慎重に進むライセイと比べ、先行するクラウスのリックディアスⅡは巧みにデブリを避けて行く。
クラウスの肝が座っているのは知っていたが、少しでも気を抜けばデブリと衝突しかねない状況で機体を止めることなく進んでいくのには驚かされた。
おそらくゲイルでも、ここまでスムーズな動きは難しいだろう。エースパイロットの中でもクラウスはかなり上位に食い込むに違いない。
心強い隊長の背中を見ていると、リックディアスⅡが振り返った。手招きをしている。
ここはミノフスキー粒子が濃く、通信がまともにできない状態だ。アヴァロンと連絡を取る手段はないので、もし何かがあっても報告するには一度艦に戻るしかない。
周囲の様子を伺い、リックディアスⅡが身を寄せている大きな隕石に近づく。
リックディアスⅡはプロトデルタが傍に来たのを確認すると、手を伸ばす。
両機が触れ合ったことで接触回線が可能となった。
「ライセイ少尉。大丈夫か?」
「大丈夫です。すみません、遅くて」
「気にするな。下手に動いてデブリと衝突なんて笑えないからな」
「はい。あの、目的の座標はそろそろですよね?」
センサー類はミノフスキー粒子のせいでまともに使用できないが、座標については問題なく調べることができる。
「ああ、もうすぐだ。おそらく、あそこにあるムサイがそうだろう」
リックディアスⅡが指さした方には、半壊したムサイが浮かんでいた。
あのムサイに目的の物があるというのだろうか。何を探しに来たのかについては、フォルストから説明はなかった。
クラウスからも何もないということは、機密事項なのだろう。気にはなるが聞いても教えてはくれまい。今はあのムサイに向かうべきだ。
リックディアスⅡが先に隕石を離れると、ライセイも注意を払いながらフットペダルをじわりと踏む。
小刻みにスラスターを噴かしながら、2機は進んでいく。
目的のムサイは船体にいくつもの穴が空いており、MSデッキもむき出しの状態であった。
再びリックディアスⅡがプロトデルタに手を掛ける。
「あそこから入るぞ」
指さした先は、半壊したMSデッキだ。
「了解しました」
リックディアスⅡと共にMSデッキに入ると、そこにはデブリが浮遊しているだけで、MSなどはなかった。
MS用のパーツや武器なども根こそぎないことから、宇宙海賊達に食い物にされた後かもしれない。
MSデッキから通路に出るためのドアを探すと、その近くでMSを降りた2人は船内へと進む。
クラウスは足を止めると、ライセイの肩に手を乗せた。
「ライセイ少尉はムサイの構造については知っているな?」
「はい。多少は」
一年戦争時に乗った艦はムサイであったことから、艦内構造についてはある程度把握している。
その事があって、自分を同行させたのかもしれない。納得していると、クラウスは1枚の紙をライセイの前に差し出した。
「この場所は分かるか?」
「えっと、ここがロッカーだったから、その隣は確かランドリーだったような」
「よし、案内してくれ」
「分かりました」
ライセイは言うと、通路を進んだ。逃げ遅れた人達だろうか。死体となって通路を漂っているのを見ると、改めて戦争によって撃沈された船であることが分かった。
この人達はどのような最後だったのか。辛かったであろう。苦しかっただろう。
もしかしたら、自分も同じような立場であったかもしれないと思うと、死んだ者達を粗末には扱えない。
進路の邪魔になる場合は、そっと端に寄せて通れるようにする。
そうやって目的の場所である、ランドリーに到着した。
ドアのロックは解除されており、ドアは開きっぱなしである。中には洗濯物を入れるカゴなどが浮いているが、機密事項になりそうなものは何も無い。
「クラウス大尉。ここで合ってると思いますが……。何もないですね」
言ってもう一度確かめるが、ライセイには何も見つけられなかった。
クラウスは先程ライセイに見せた紙の裏側を読み始める。すると、天井の方にライトを向けた。
「あそこか」
クラウスは言うと、天井に手をついてコンコンとノックをし始めた。
その様子を眺めているライセイ。しばらくすると、クラウスの手が止まった。
ライセイに向けて、クラウスが手招きをする。天井のパネルの1つを指さして言う。
「ここだ。中を見てくる」
「えっ? 中ですか?」
ライセイの問いに答えるよりも早く、クラウスは天井のパネルを押し上げる。
するとパネルが外れ、天井にぽっかりと穴があいた。
その穴を覗いたクラウスが体を半分ほど突っ込むと、天井裏で何かを始める。
固唾を飲んで待つライセイの前で、クラウスが天井から何かを引っ張りながら降りてきた。
それは人一人なら余裕で入りそうなジッパーの付いた黒い袋だ。クラウスはそれを床に降ろすと、ゆっくりとジッパーを下げた。
中のものを見たライセイは一瞬戸惑う。戸惑いはやがて疑問に変わった。
一体、何故このようなところに。困惑するライセイに向けて、クラウスが言う。
「ライセイ少尉。ここで見たものは口外してはならない。これは艦長命令だ」
「えっ? でも、これって?」
「忘れろ。俺にはそれしか言えない」
下げたジッパーを元に戻すと、クラウスは袋を抱えてランドリーを後にした。
呼び掛けを拒否するような背中に、ライセイは声を掛けることができず、ただ立ちつくす。
なんで、こんな所に。まぶたに焼き付いた光景がライセイの思考を埋めていった。