機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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束の間の休息

 ショッピングモールは親子連れやカップルで賑わっており、笑顔の耐えない場所であった。

 ネージュと歩くライセイの表情も穏やかな笑みを浮かべている。

 話すことは他愛のないもので、あそこの店のランチは美味しいとか、あの店のアクセサリーが可愛いなどだった。

 

 聞けば、フォルストが休みの時は、このショッピングモールによく連れいってもらっていたそうだ。

 普段来ることのないライセイにはどれも新鮮で、しきりに頷いてネージュの話を聞いている。

 喋るネージュが突然立ち止まった。視線の先にはクレープ屋がある。

 

 長い列ができているということは、人気店なのだろうなと思う。もしかしたら、ネージュは食べたいのかもしれない。

 

「ねぇ、あそこのクレープ食べてみない?」

 

「え? でも、いっぱい並んでるよ?」

 

「大丈夫だよ。待つの嫌いじゃないし。あ、でも、フォルスト艦長のこと探さないとダメかな?」

 

 すっかり失念していたことを思い出した。

 このデートはフォルストを探しに行くついでのようなもので、時間は限られている。

 ゆっくりしていてはネージュを探しているだろうフォルストも心配してしまうに違いない。

 

 だが、ライセイの言葉にネージュは首を横に振った。

 

「ううん。パパなら大丈夫。多分、どこかの喫茶店で時間を潰していると思うから」

 

「それって大丈夫なの?」

 

「良いの。じゃあ、早速並びましょう」

 

 ネージュはライセイの手を取ると、列の最後尾に並ぶ。強引な子だと思うと、積極的な行動も納得してしまう。

 急に誘われたデートだったが、普段からこんな感じで人と接するのだろう

 そう思うと、照れくささも感じなくなった。店員から配られたメニューを2人で眺めて、どれを食べるか話し合う。

 

 こんな風に満ち足りた時間を過ごしたのは、いつ以来だろうか。ゲイルやダン達と出歩くことはあるが、今感じているような充足感はなかった。

 ネージュと話していると、待ち時間もあっという間に過ぎていき、気づけばベンチに座って2人でクレープを食べていた。

 

 お互いの味の感想を言い合い、一口ずつ味見をし合っては、また味について語る。

 充実した時間を堪能していると、ネージュの視線が人混みの方に向いた。

 

「ネージュ、どうかしたの?」

 

「私達のことを見ている人がいる」

 

「見ている?」

 

 ライセイはネージュの視線を辿って人混みを見ると、柱の影に隠れる人影を見つけた。

 後ろ姿から誰か特定できたので呆れながら柱の裏に回る。そこには、苦笑いを浮かべるダンと呆れ顔のゲイル、そして顔をニヤつかせているアオイがいた。

 

「何してるの?」

 

 低い声で問いただすと、ダンが乾いた笑い声を上げる。

 

「いやぁ、奇遇だなぁ。こんな所で何をしているのかな?」

 

「それはこっちのセリフ。まさか、ずっと見ていたんじゃないよね?」

 

 この問いにダンは答えず、アオイが逆に問うてきた。

 

「ねぇ、ライ君。あの子、彼女? 可愛いじゃない。何で教えてくれなかったのよ?」

 

「彼女じゃないですよ。知り合いです」

 

「ほんとかなぁ? 仲良くクレープを食べ合う仲なのに~?」

 

 いやらしい笑みが顔に貼り付いて取れないのか、ずっとアオイはニヤついている。

 否定しても無駄そうな気がするが、認める訳にもいかない。ライセイはゲイルに助け舟を求めた。

 

「兄さん、なんとか言ってよ」

 

「まったく。あの子とは以前、会ったことがあるのは間違いない。それ以降は会ってないと思うぞ」

 

「そうそう。それにフォルスト艦長の娘さんなんだって。偶然って、凄いよね」

 

 見事にゲイルの助けに乗っかったライセイだったが、その言葉にアオイが反応した。

 

「偶然じゃなくて、運命かもしれないわよ?」

 

「そうだぞ、ライ。女は運命という言葉に弱いんだ。行ける時にガっと行かないと逃げられるぞ」

 

 普段、あれだけ仲の悪い2人が見事なコンビネーションで攻めてきた。

 完全に悪ノリをする2人に返す言葉が見つからない。

 

「あ、ゲイルだ」

 

 背中越しにネージュがゲイルに声を掛けた。

 

「久しぶりだな。本当にフォルスト艦長の娘さんだったとはな」

 

「もしかして、ゲイルもパパの船に乗ってるの?」

 

「ああ、ここにいるやつは皆そうだ」

 

「そうなんだ。パパがいつもお世話になってます」

 

 パッと笑みを咲かせたネージュを見てダンが何度も頷いた。嫌な予感しかしないので、強引にゲイルに話を振る。

 

「ねぇ、兄さんはどうしてここに?」

 

「アオイから出掛けないかと誘われてな。で、ダンが勝手についてきたんだ」

 

 アオイがゲイルを気にしているのは知っていたが、直球勝負を仕掛けていたとは。

 それをダンは邪魔したいのか分からないが、2人の仲が益々悪くなることだけは間違いない。

 一番の問題はゲイルだ。アオイの好意に気づく素振りが感じられない。ここまで鈍感だと、見てるこっちがハラハラする。

 

 何も考えていないであろうゲイルが言う。

 

「ここに立ったものもなんだ。どこか座れる所に行かないか?」

 

「あ、じゃあ、いいお店知ってるから行きましょ」

 

 答えたのはネージュで、こちらの意向を聞くことなくスタスタと進み始めた。

 

「ネージュはここに詳しいんだってさ。行こうか」

 

 ライセイが言うと、ネージュに連れられ喫茶店の中に入る。

 店内はクラッシックな作りで、落ち着きのある空間であった。店の中を見回すライセイは、客の1人に目が止まる。

 

「あれ? フォルスト艦長?」

 

 そう言ったライセイの隣にいたネージュが手を振る。

 

「パパ、お待たせ」

 

「今日は随分長かったな。少し心配した」

 

「ごめんなさい。ついつい長引いちゃって」

 

 悪びれた様子のネージュを庇うようにライセイが言う。

 

「すみません。僕がネージュを連れ回してしまったんです」

 

「安心したまえ。怒ってはいない。いつもの事だからな。それに皆が揃ってくれたのは都合が良い」

 

「都合、ですか?」

 

 フォルストは席を立つとライセイ達の前に立つ。普段の厳格な表情を更に険しくさせた。

 

「ゲイル・クガ中尉、ダン・ロクスター中尉、アオイ・スオウ少尉、ここにはいないがシマン・トガワ少尉は、アヴァロンを降りてもらうことになった」

 

「なっ!? どういう事ですか!?」

 

 声を上げたのはゲイルであった。

 

「ライセイはどうなるんですか!?」

 

「ライセイ少尉には、引き続きアヴァロンのMS隊にいてもらう。正式な辞令が直に下りるだろう。話はその時にしよう。ネージュ、行くとしようか」

 

 フォルストは話を一方的に打ち切ると、ネージュを外に出るように促す。

 不安そうなネージュは、ライセイとゲイルを交互に見るが、勘定を済ませ出ていくフォルストの後を追っていった。

 

「おい、どういうことだよ? 何で俺達が降りて、ライは残るんだ? 今まで一緒にやってきたのによぉ」

 

「分からん。上からの指示なんだろうが……」

 

 渋い表情のゲイルとダンに、アオイがとりあえず席に着くように促した。

 飲み物の注文を済ませた4人の間に会話らしい会話はない。

 

 なぜ、自分だけがアヴァロンに残るのか。自分だけが取り残される理由が何かあるのか。

 考えるライセイの頭の中に浮かんだのは、あれのことであった。

 

「まさか、そんな……」

 

「どうしたの、ライ君?」

 

「あ、いえ。なんでもないです」

 

 アオイの問いかけに嘘を返したライセイは思う。あれが関わっているとしか思えない。

 ただ、あれを知っていることで、なぜ自分はアヴァロンに残らなければならないのかが分からない。

 先程までの穏やかな時が嘘だったかのように、重苦しい空気が漂う。ライセイの尽きない悩みの種が増えたのだった。

 

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