機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
辞令が下ったのはショッピングモールでフォルストと会話をしてから2日後のことだった。
ゲイルとダン、アオイ、シマンはアヴァロンを降りて、再編の進む宇宙艦隊の新造艦アイリッシュ級巡洋艦のMS隊の所属になるとのことだ。
ライセイがアヴァロンに残ることについてゲイル達は疑問を投げかけたが、戦力の均等化を図るためだとの回答しかもらえなかった。
確かにアヴァロンには戦力が集中していた。
今後、ネオジオンに反攻することを考えると1隻に戦力を集中するのは勿体ないかもしれない。
アイリッシュ級巡洋艦はアーガマ級巡洋艦よりもMSの搭載数が多いことから、ゲイル達のベテラン組を配属させ戦力の中心にしたい気持ちも分かる。
上層部の意向は分かるが、ライセイと離れることについてゲイルは苦悩していた。
今まで傍にいたから守ることができた。離れてしまえばライセイを守ることができなくなってしまう。
一度下された決断はそう変わらないだろう。それを曲げることができるかもしれない男に、ゲイルは連絡をしていた。
相手はスペクターである。ゲイル達をエゥーゴにスカウトし、一度現場を外された際には裏で手を回し前線に復帰させることができた男だ。
以前教えられた連絡先宛に何度も電話やメール、手紙を送ったが一向に返事がなかった。現れるときは勝手に現れるくせに、こっちの用があるときはでてこない。
受話器を下すと、ベッドに横たわり考える。
ライセイの腕前は上がっているのは間違いない。ダンとだって渡り合えるほどに成長しているのだ。
そう簡単には墜とされることはないだろうが、いつだって何があるか分からない。その何かが起きた時に自分が傍にいれないことが辛いのだ。
自分ならばライセイを助けることができる。根拠はないが自信はあった。今までそうやって生きてきたのだ。
だが、自分の手が届かないところに行ってしまってはどうすることもできない。
過るのは嫌な想像だけだ。ライセイにもしものことがあるかもしれない。そうなると思考がループしてしまう。
ただ、ライセイ自身は、今回の配属に異を唱えることはしなかった。
何か思うところがあるのかしれない。あの調査を終えた辺りから、ライセイは思い悩むことが多かった気がするが、それが関係あるのだろうか。
たとえライセイが配属に不満を言っても命令は覆らないと思うが、言ってくれても良かったのではないかと思う。
兄弟が離れ離れになることをライセイはどう思っているのか。気にはなるが、言葉に出すことができないでいた。
ドアがノックされる音でゲイルは気分が滅入る思考から解き放たれる。
招く言葉を発すると、入ってきたのはアオイであった。
「元気、じゃないわよね」
「まあな。色々と手は尽くしているが上手く行きそうにない」
「そっか。ライ君と離れるのは辛いわよね」
「……ああ。俺の家族はあいつしかいないからな」
ゲイルの脳裏に子供時代の光景が映る。そして、両親が死に、ライセイを育てると決意してからの半生も浮かんだ。
あの時から、俺はライセイのために生きてきた。それなのに、こんな時に限って。
ネオジオンとの抗争が激化しようとしている中でなければまだマシに思えただろう。こんなことなら、あの日、エゥーゴから抜けるべきだった。
悔いるゲイルにアオイが言う。
「ねぇ。もう、ライ君のためだけに生きなくても良いんじゃない?」
アオイの言葉に、ゲイルは呆気に取られ声を出せなかった。
「ゲイルは十分、ライ君のために生きてきたわ。これからは、あなた自身の生きる意味を見つける時だと思う」
「俺の生きる意味……。いや、だが、ライセイは」
「ライ君は大人よ。あなたが子供扱いしているだけ。彼は独り立ちできるわ。でも、あなたがそれを止めてしまえば、ライ君はあなたに甘えてしまう。依存した関係になってしまうわ」
「依存だと? 俺はただライセイの」
「ゲイル!」
アオイの声に気おされたゲイルは言葉を失う。寂しげな瞳をアオイは見せた。
「ライ君をダシに使わないで。あなたの人生をライ君に押し付けてはダメよ」
「じゃあ、どうしろっていうんだ? 俺が今までやってきたことがダメだったっていうのか?」
「そうじゃない。でも、もう十分なのよ。もうライ君を傍で支えなくてもいい。彼の成長を見守ってあげて?」
「見守る……」
ゲイルは黙ると、目を閉じて思い返す。支えることがライセイの成長を妨げているのか。
もう、ライセイは俺を必要としていないのか。ならば、俺はどうしたらいいのか。
思考の渦に飲み込まれたゲイルにアオイが言う。
「前に聞いたわよね? あなたの幸せって何、って」
「ああ」
「見つかった?」
「いや。分からなかった」
「そっか。じゃあ、私が探すの手伝ってあげる」
そういうとアオイはベッドに腰かけて、ゲイルをじっと見据えた。
「思い出してみて。あなたが幸せだって思っていた頃を。うんと小さな時でも良いの。思い出して」
ゲイルは言われた通りに思い出を掘り起こす。
幸せな時。何も不安がなく、何も背負うことがなかった頃のことが思い出された。
両親が健在で、皆で公園に遊びに行った時のことだ。
あの時は楽しかった。両親の手を引いて歩き、ライセイとはしゃぎ回ったあの時は。
満ち足りていたと思う。とうに色あせてしまった思い出だが、その時の感情は間違いなく幸せだった。
あのような時間を味わえているだろうか。両親が死んでからは、そんな思い出は残っていないと思う。
ライセイと一緒に生きるのに必死だった。ライセイを立派に育てるのに必死だった。
どんなことにも耐えることができたのはライセイのことを思えばだが、そこにあの時のような幸せはあっただろうか。
ゲイルは小さく頷いた。
「ああ、思い出した。子供の頃のことだ」
「どうして幸せだったのか分かる?」
「どうして……。あの時は何も考えずに目の前のことだけを楽しめたからだと思う」
「じゃあ、今は楽しめてない?」
問われたゲイルは首を横に振った。
「楽しいときはある」
「どんな時?」
「ライセイやダン。アオイと話している時だ。くだらない話でも楽しいと思える時がある」
ゲイルの言葉を聞いてアオイが小さく笑った。
「どうして、くだらない話でも楽しいと思えるのかしら?」
「……分からない。ただ、楽しいのは間違いない」
「そう。じゃあ、今日はここまで。次回までに、何で楽しいのかしっかりと考えておくこと」
そういうとアオイはベッドから立ち上がり、ドアへと向かう。
「ゲイルの答え、楽しみにしてるから。それじゃ」
声を掛ける間もなく去っていったアオイ。ゲイルはベッドに寝ころび、目を閉じた。
どうして楽しいのか。楽しいと思えた瞬間を思い出しては、なぜ楽しかったのかを考え続けるゲイル。
両親の死で止まっていた幸せの針が動き出そうとしていた。