機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
出航から1時間が経過した。
その間にクラウスのみがメインブリッジに招集されたが、まだ帰ってきていない。
ライセイ達は待機のまま時間が過ぎるのを待っていた。
フォルストのことだ。いきなり発進準備などという指示が飛んできてもおかしくない。
心構えはできているし、今まで散々繰り返してきた訓練だ。それに新入りに格好の悪いところは見せられない。
モニター越しにMSデッキ内を見回していると、通信が入った。
「MS隊各員、MSを降りてブリーフィングルームに集合だ」
クラウスの声であった。
訓練の反省会でもするのだろう。プロトデルタを降りたライセイはブリーフィングルームへと向かった。
通路ですれ違う乗組員達の表情は、どこか緩んでいる。もう訓練も終盤だからだろうか。
ブリーフィングルームに到着すると、中で待っていたのはクラウスだけであった。
他の乗組員はおらず、モニターに宇宙地図が投影されている。
困惑しつつ問いかけた。
「クラウス大尉。他の人達は?」
「いや、まずはMS隊の者達への説明をするようにと言われてな。ついでに新入りの自己紹介もしようと思っている」
何の説明だ。と問いかけようとしたが、あとから入ってきたパイロットスーツの者達の敬礼を見て、言い出すタイミングを逸した。
ライセイも敬礼を返すと、3人の新入りがヘルメットを取る。
2人は男で1人は女性だ。
全員若く、まだ大学生と言っても差支えがないあどけなさが残っている。
最初に声を上げたのは、女性からであった。
「シンリー・ラウ曹長であります! アヴァロンのMS隊に配属できたこと、光栄に感じております!」
シンリーは短めの髪に勝気な顔立ちと、快活な印象を受けた。
その横にいる男が慌てて言う。
「あ、自分はウォレン・シュミット軍曹です。よろしくお願いします」
髪をやや伸ばしているウォレンは、軽薄そうな雰囲気を受けた。どことなくシマンを彷彿とさせる。
最後に名乗るのは、短髪で表情を微動だに変えない男だ。
「ロック・バロック、軍曹です。よろしくお願いします」
緊張とは違った硬さを感じる声音だった。朴訥とした印象を受けるが、果たしてどうなのだろうか。
個性的な面々にライセイも自己紹介をする。
「僕はライセイ・クガ。少尉だよ。皆、よろしくね。困ったことがあったら何でも聞いていいから」
「リュート・ラインリッヒ少尉だ」
手短すぎる自己紹介をしたリュート。やっぱりよく分からない人だとライセイは思う。
トリを務めるのはクラウスだった。
「俺はクラウス・リーバー大尉だ。アヴァロンMS隊の隊長を務めている。厳しく鍛えてやるから覚悟しておけ」
初めから手厳しく言ったクラウスの言葉に、新入りの3人は踵を揃えて了承の声を上げた。
これでとりあえずは自己紹介が済んだ。気になるのはもう1つの話の方で、訓練の反省会ではないように思われる。
クラウスがモニターの前に立ち指示棒を手にすると、ある一点を指した。
「アヴァロンは極秘任務のため、現在、グリプスを目指している」
「グリプス?」
疑問の声を上げたのはライセイであった。
「グリプスは無人だと聞いていますが?」
「ああ、そうだ。だが、そこにある物を回収しに行かなければならない」
「あの、そのある物とは?」
ライセイの頭の中に浮かんだのはあれのことだ。
同じようなものであれば、クラウスは答えてくれないだろう。だが、クラウスは頷くと話を続けた。
「ティターンズの試作MSがグリプス工廠の奥に残されているということが判明した。データから非常に危険な代物であることが分かり、ネオジオンの手に渡る前に回収をすることにしたのだ」
「試作MSで、そんなに危険なんですか?」
「ああ。完成していれば、エゥーゴにとって厄介な相手になっていただろう」
クラウスの表情はいたって真面目なものである。ティターンズとの戦争を経験した者が言うのだ。それほどの危険なMSなのだろう。
どのような代物かは分からないが、そのまま放置して敵の戦力にしたくない気持ちは理解できる。
もしかしたら、あわよくばエゥーゴはその試作MSを自分達の戦力にしたいと考えているのかもしれない。
「では、今回の出航は訓練ではなく」
「ああ、本番だ。もしかしたら、戦闘になるかもしれない。各員、気を抜かないように」
その言葉に表情が強張ったのはシンリーとウォレンだ。ロックの表情は変わることがなく、直立不動を崩していない。
不安にさせたままなのも可哀想なので、ライセイは明るい声で言う。
「大丈夫。実戦になったら、僕達がフォローするから。それにこれから訓練漬けの日々になるから、嫌でも強くなれるよ。だから、気にしなくて大丈夫」
「ライセイ少尉の言う通りだ。今までの訓練がお遊戯会だったことを思い知らせてやるから、覚悟しておけ」
それでは余計に緊張してしまうではないか。口から出したかったが、ぐっとこらえた。
クラウスが解散というと、新入り3人は揃ってブリーフィングルームを後にしていく。残ったのはクラウスとライセイ、リュートの3人だ。
「クラウス大尉、戦闘になるんでしょうか?」
「ネオジオンがこの情報を掴んでいるかは分からないが、可能性はゼロとは言えないな」
「じゃあ、MS隊の編成はどうしましょうか?」
「俺がウォレン軍曹とロック軍曹を率いる。ライセイ少尉はリュート少尉と共にシンリー曹長をサポートしてやってくれ」
「了解しました。リュート、頑張ろうね?」
ライセイが言うと、リュートはこくりと頷いた。
本当に大丈夫なのだろうか。言葉には出さないが、不安に思う。
クラウスが手をパンッと叩いた。
「ここにいる3人で頑張るしかない。今まで以上の活躍を期待しているぞ」
3人。そうだ。もうゲイルもダンも、アオイもシマンもいないのだ。
自分が頑張らなければ、新入り達が危険にさらされるかもしれない。仲間を守るために戦うと決めたではないか。
身の引き締まる思いのライセイは、姿勢を正して敬礼をする。
「はい! 絶対に味方を死なせるようなことはしません!」
ゲイルの元を離れたライセイは、甘えでできていた己の殻を破ろうとしていた。