機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ネオジオンがサイド3を地球連邦政府より譲渡されたことにより、地球から撤兵して1か月が過ぎようとしていた。
宇宙を航行するのはムサイ級巡洋艦クレイトスだ。ディクセル艦隊所属のクレイトスは、ネオジオン本隊が宇宙に戻ってきたにも関わらず哨戒任務についていた。
何故、ハマーン直轄の艦隊ではなく、ディクセル艦隊が宇宙の警備を続けているのか。
ディクセルがハマーンから全幅の信頼を寄せられているわけではない。逆に警戒されていることもあって、中央から遠ざけられていると言ってよい。
元ザビ家親衛隊の隊長を務めていたディクセルを慕う者達は多い。特に古参の兵士達にその傾向が強く、若手が目立つハマーン直轄の軍隊とは毛色が違っている。
ミネバというジオンの象徴がいることでハマーンとディクセルは手を取っている形だ。そうでなければ、ディクセルは第二のデラーズフリートになっていたかもしれない。
影響力のあるディクセルをハマーンは上手く使っている。ミネバがいる限り、ディクセルにネオジオンの主導権を握られることはない。
ジオンの大義を引き継いだのはネオジオンのハマーン・カーン。ミネバの後見人である限り、その立場は揺るぐことはなかった。
では、ネオジオンはミネバがいればハマーンの元で一枚岩でいられるのだろうか。もしかしたら、誰かがミネバを奪い、ネオジオンを簒奪するかもしれない。
ハマーンの独裁を快く思っていない者達も大勢いることから、その可能性は否定できないのだ。
だから、ハマーンはディクセルを警戒している。ネオジオンの新たな拠点となったサイド3のコロニー、コア3にディクセルは未だ呼ばれてはいない。
仮にも艦隊を率いている者が、数か月の間、ミネバへの謁見を認められていないのは異常と言える。
ネオジオン本隊が地球に降りている間、宇宙を守り続けてきた者に対しての仕打ちがそれであった。
これにディクセルは表立って遺憾の意を表明してはいないが、内心苛立ちを募らせているであろう。
実際、クレイトスに搭乗しているギルロードも怒りで心が煮えていた。
溜まった怒りを放出するように厳しい訓練を部下に課せ、自らを苛め抜いて憂さを晴らしている。
度々、姉のセティにたしなめられるが、それでも時が経てば怒りが込み上げるのだ。
当事者ではない自分でこれほどの怒りならば、ディクセルは心中はどうなのだろうか。
考えるだけでも、また腹が煮えてきた。
哨戒任務で晴らせる憂さは少ない。どうせなら、ディクセル艦隊だけでグラナダを強襲してほしいところだ。
そうしたら好きなだけ暴れることができる。戦っているときには苛立ちを覚えることはない。その瞬間に全てを掛けることができるからだ。
ただし、愚鈍な連中に足を引っ張られなければであるが。ギルロードにとって、多くの兵士は己の足の枷だと思っている。
自分のように何故できない。それは緊張感が足りないからだ。ならば、緊張感を持って職務に当たらせるためには、自分が厳しくしなければならない。
その思いが強いギルロードは強化人間になったことによって、不安定さと相まって更に拍車が掛かっていた。
セティが止めなければ、怪我人だけでなく死人が出ていたかもしれない。それほど苛烈な一面をギルロードは見せる。
暴走しがちなギルロードを唯一制することができるセティは、心のよりどころでもあった。
時々、どうしようもない感情に襲われる時がある。そんなとき、セティに優しく触れられて声を掛けられると心が落ち着くのだ。
ギルロードにとってセティは己の半身と言っても良かった。常に行動を共にし、自分という存在を優しく受け入れてくれるセティにギルロードは依存している。
姉の存在を演じているだけだとは露も知らずに。
◇
ギルロードはMSデッキでセティのガ・ゾウムの調整を手伝っていた。
感度が控えめに設定されていたのを、セティに合わせたチューニングを行っているのだ。
セティは自分の腕前をあまり評価していないが、ギルロードはそうは思っていない。他の兵士達と比べれば、一枚上手である。
だから、少し敏感に設定した方が戦果もあげられるに違いない。
セティの動きを想像しながら、調整を進める。
「ギル、ありがとうございます。でも、私の腕ではガ・ゾウムの本領を発揮できないことは知っています。ほどほどで構いません」
「そんなことはない。姉さんならやれる」
「そうでしょうか。いえ、ギルが言うならできるのでしょうね」
「そうだ。私が言うんだ、間違いない」
言いながらコンソールを弄っていると、警戒警報が鳴り響いた。
作業を中断したギルロードは、すぐにメインデッキに急ぐ。
警戒警報で慌てて持ち場に着く者達を横目に見ながら、メインデッキへと入った。
中央のモニターに映し出されたのは、1隻の艦影である。
まだ距離があるため、その形状は判別できないがこの宙域を航行する予定の船ではなさそうだ。
「艦長、あれは敵か?」
「まだ分かりません。ですが、発進の準備だけはお願いします」
「言われなくともする」
そういうとギルロードはメインデッキを後にする。
通路を通ってMSデッキに辿り着いたとき、何かの気配を感じ取った。妙に生暖かく、非常に気味の悪いものだ。
嫌悪感が顔から滲むと、セティが心配そうに声を掛けた。
「ギル、大丈夫ですか?」
「……何でもない。出撃の準備をする」
「エゥーゴですか?」
「かもしれない。姉さんもMSに」
頷くセティを見て、ギルロードはバウ・エーデルのコクピットに座る。
起動準備を掛けていると、警戒警報がもう一段階引き上げられた。間違いない。敵と遭遇したのだ。
知らず知らずの内に口角がじわりと上がっている。久しぶりの実戦に心が高ぶっているのだろう。
どのような敵が来るのだろうか。せいぜい、楽しませてくれよ。まだ見ぬ敵に期待を寄せる一方、1つだけ気がかりなことがあった。
あの気配は一体、何だったのか。無遠慮に人の肌を撫でるような不快感だったが。
言い知れぬ感情に戸惑いを覚えたギルロード。だが、MSデッキのハッチが開き宇宙空間が広がると、そのような感情は消えていった。
「ギルロード・シュヴァ。バウ・エーデル、出るぞ!」
宙に飛び立ったバウ・エーデルは一直線に敵影に向かって加速をした。