機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
リュートの葬儀は略式のものとなった。
任務中であるから仕方の無いことではあるが、ネモⅢの残骸の回収を早々に切り上げたのにはライセイも腹が立った。
任務を優先するのも分かるが、仲間が死んだのだ。探せば何かしら遺品が見つかるかもしれない。
それなのに、フォルストはグリプスへ向かうため艦を進めた。
理解はできるが納得にまでは至らないのは、他のMS隊メンバーも同じのようだ。
クラウスは不満を漏らさず努めて冷静にしているが、時折見せる暗い表情からリュートを失った悲しみに苛まれているのは間違いなかった。
同僚を失うのは初めてではない。だが、慣れるものでもない。
空のMSハンガーを見ては、そこにあったネモⅢが思い浮かぶ。
冷静な人だった。無理はしないし、指示通りにこなせる技量の持ち主だった。
共にチームを組んだ時には、背中を任せるに値する人物だと思えた。
そんな人を失ったのだ。ライセイは自分の顔が悲しみで歪むのが分かり、MSデッキを後にした。
ライセイは談話室へと入り、飲み物を取ろうとドリンクボックスを開ける。
すると、別の手が伸びてボトルを2つ取って、そのうちの1本がライセイの前に差し出された。
ドリンクを差し出したのはネージュだ。ライセイに向けて、優しい笑みを浮かべている。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
ライセイはドリンクを受け取ると、ソファに座った。その隣にネージュが座る。
「怒ってる?」
「えっ?」
思わぬ問いかけに、戸惑うライセイ。
「怒ってるって?」
「パパのこと。リュートさんのことを置いていったから」
リュートのことを置いていく。
それは、まだ宇宙を漂うネモⅢの残骸に宿るリュートの魂を思っての言葉なのだろうか。
ライセイは首を横に振った。
「怒ってるわけじゃないよ。ただ、悲しいんだ。仲間が死んだのに、何もしてやれないのが」
「もしもだけどね。私が死んだときだけど……。悲しまないでほしいな」
「えっ? どうして? 悲しむに決まってるよ?」
「ううん。笑って生きてほしいの。悲しんでくれるのは嬉しいけど、悲しんだ顔を見るのは辛いから。だから、笑って長生きしてほしい」
ネージュの言葉を聞き、以前ゲイルがダンに掛けた言葉を思い出した。
死んだやつにしてやれることは、生き続けることだと。
後ろを見るのではなく、前を見て生きる。失った人への思いに囚われず、前に進め。
ゲイルが言いたかったのは、こういうことではないだろうか。
少なくともダンとシマンは前を向いて歩み始めた。それに比べて自分はどうだ。
何もできなかった無力さと悲しみに囚われて、前なんて向いていない。
そんな姿を見て、リュートはどう思うだろうか。
想像してみるが普段の寡黙な表情が浮かぶだけで何も答えてはくれない。
いや、死者に答えを求めているようでは駄目だ。どう生きるか。どうしたら、死者に恥じない生き方ができるのか。
それは今の自分にできることを、全うすることだ。
アヴァロンMS隊を、これ以上を失わせない。仲間を守れるように強くなってみせる。
ライセイは自分の答えを見出した。
「ネージュ、僕は生きるよ。一生懸命に。もっと強くなって皆を守れるようになる」
「皆の中には私も含まれてる?」
「当然。ネージュのことも守ってみせるよ」
ライセイが爽やかな笑みを見せて言うと、ネージュはくすりと笑った。
「ライセイって、恥ずかしげもなく、そんなこと言うんだ」
指摘されたライセイは、自分の発言を思い返し顔を赤くする。
「いや、だって、ほら。仲間だからさ」
「ふふっ。でも、嬉しいなぁ。そんな風には言ってくれて。私が仲間かぁ……」
遠い目をしたネージュを見て、ライセイは言葉を失った。
それは、その横顔が儚くて、とても美しかったからだ。触れたら壊れそうなガラス細工。
今のネージュを見て、そう思った。
ふと我に返ったライセイが慌てて言う。
「ネージュ、あんまり僕のことを、からかわないでほしいなぁ」
「ごめんね。でも、嬉しいのは本当だから。じゃあ、私は仕事に戻るね」
そう言うとソファから立ち上がる。仕事を抜け出してきたのか。
ライセイはネージュに確認しようとしたが、喉の手前で止めた。
きっと落ち込んでいた自分を元気づけようとして来てくれたのだろう。
今、ネージュに言うべき言葉ではない。今、言えるのは。
「ありがとう、ネージュ。僕、頑張るから」
ライセイは言うと握り拳を高々と上げる。それを見たネージュは微笑みを浮かべて手を小さく振ると、談話室を後にした。
死者に恥じない生き方。今、自分がすべきことをやり遂げるために、ライセイはMSデッキにあるシミュレーターに向かった。
◇
ムサイ級巡洋艦クレイトスに帰投したギルロードは、バウ・エーデルを降りるや否や自室へと戻っていった。
セティはその背中を追いかけ、ギルロードの部屋に入る。
そこには、ベッドに腰掛けて項垂れるギルロードがいた。セティはその隣に座る。
カタカタと震えるギルロードの表情は形容し難いものであった。
思った以上の手傷を負わされたことによる屈辱で、精神が不安定になっているのだ。
普通の人間でも心に傷がつくことが、強化人間であるギルロードにとってより深い傷になっているのであろう。
更に完璧思考の強い性格も追い打ちになっていると思われた。
感情のコントロールが上手くできないギルロードの肩をセティはそっと抱く。
「ギル、大丈夫ですよ。あなたを責めたりしません。私はあなたの味方なのですから」
「ねえ……さん……」
「ええ、私はここにいますよ。あなたの傍にずっと」
「ねえさん……。ねえさん……」
徐々に落ち着きを取り戻すギルロードの体をそっと傾けて、胸の前でギュッと抱きしめた。
ギルロードの手がセティの手に触れる。弱々しく握ってくる手を見て、セティは思う。
愛おしい、と。