機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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海賊上がりの騎士

 サイド2宙域を航行する一隻の暗褐色の軍艦。そのメインエンジンに灯がともった。

 軍艦の名はエンドラ級巡洋艦ハイドラ。アクシズ所属の艦で、MSを6機搭載できる程の大きさを持っている。

 現在、艦載機は5機で、そのうち1機は戦闘により損傷し現在修理中であった。

 

 メカニック達が忙しなく動くMSデッキには、1機分のスペースがぽっかりと空いている。

 その1機分を埋めていたMSは先ほどのエゥーゴとの戦闘で失われてしまい、パイロットは戦死した。

 1時間前まで時を同じく過ごしていた者を失った悲しみに暮れる同僚達が、帰って来る者のいないMSハンガーを眺めている。

 

 重苦しい空気が漂う船内で、メインデッキには張り詰めた空気が流れていた。

 艦長席に座っているのは恰幅の良い中年男性で、眉間にしわを寄せてメインデッキの前方に設置されたモニターを見ている。

 映し出されているのは、端正な顔立ちをした青年だ。

 

 アッシュブロンドをオールバックにし、一部の髪だけ前に垂らした青年の瞳は無機質な程に冷たくて暗い。

 生きているのか疑わしい瞳の色をしているが、これがこの男、ギルロード・シュヴァが静かな怒りに震えている時に見せるものだった。

 

「ヘックス艦長、何か言うことがあるのではないか?」

 

 ギルロードの年上に対する配慮が感じられぬ物言いに、ヘックスはめんどくさそうに顔をしかめた。

 

「私からは何もありません。あとはあいつに聞いてください」

 

 投げやりに言うと、深いため息を吐く。この事態を招いた張本人が来なければ話は始まらない。

 ただ、始まったところで、まともに終わるのだろうかとの疑念を抱いていた。

 自分では話にならないと諦めているヘックスの耳に、メインデッキのドアが開く音が届くと目をそちらへ向ける。

 

 入ってきたのは、ぼさぼさ頭であごひげを十字に綺麗に整えた中年の男だった。

 渋さを醸し出す男は、軍服をだらしなく来ており、表情にも緊張感がない。

 モニターに映るギルロードの目が、中年の男に向いた。

 

「ローマン、何があったのか言ってもらおう」

 

 ローマンと呼ばれた男。ローマン・ローランドは、ヘックスの座る椅子に肘を乗せてもたれかかると、ぱっと笑みを見せた。

 

「ごめんよ、ギルちゃん。エゥーゴにちょっかい出しちゃったら、返り討ちにあっちゃった」

 

「なぜ、仕掛けた? 今は戦う時ではないだろう?」

 

「どうして~? やれるときにやっとかないとさぁ。どうせ、やるつもりなんでしょ、上の人達はさ?」

 

 軽薄な物言いをし続けるローマンは、ヘラヘラと笑みを浮かべながら続ける。

 

「ハマーン様とか絶対にやる気でしょ? ディクセル様はどうか知んないけど、ハマーン様の指示があれば動くだろうから、俺がやったことは悪いことじゃないよ。うん、そうに違いない」

 

 独りで納得するように、腕組みをしてしきりに頷いた。

 そんな言葉で終わるわけがないだろうと、ヘックスは呆れ顔を見せる。

 ふざけた態度を見せたローマンに対して、ギルロードは表情を変えず、淡々と言葉を返した。

 

「指示は出ていない」

 

「でも、エゥーゴと戦うな、って指示も出てないじゃん?」

 

「指示にないことをするな。軍人の鉄則だ」

 

「あれ、ギルちゃんって、指示待ち人間だっけ? ダメだよぉ、もっと積極的に動かないとさぁ。戦争は水物なんだから、勢いって大事なのよ」

 

 からからと笑うローマンを見たヘックスは相変わらずなやつだと口の中で呟いた。

 ヘックスとローマンの付き合いは長い。一年戦争からの腐れ縁で、何かにつけてこの男に振り回されてきた。

 だが、そのお陰で今日まで生きてこれたのは間違いない。

 

 この男の大胆不敵さを一番よく知っているのは自分であろう。助け舟を出すことにした。

 

「ギルロード様、ローマンには厳しく言っておきます。何なら営巣(えいそう)にぶち込みますので、今回はお許しいただきたい」

 

「ヘックス!? そりゃないんじゃない? 俺達、マブダチじゃん? 一緒に海賊した仲じゃん?」

 

「ローマン、少し黙れ。ギルロード様、今回の失態については、何が何でもこの男に挽回させます。どうか、この通り」

 

 深々と頭を下げたヘックスを見たローマンは肩をすくめ、ギルロードに目を向けた。

 

「だってさ? どうする?」

 

 ギルロードは静かに目を閉じて黙り込んだ。沈黙がしばし流れる。おもむろにギルロードの口が開いた。

 

「分かった。ディクセル様には、あったことをそのまま伝える」

 

「お、ギルちゃん、話が分かるじゃない。同じ騎士(・・)だし、これからも仲良くやろうね」

 

「同じではない。それに」

 

 一拍置いたギルロードが目を鋭くした。

 

「ギルと呼ぶな。馴れ馴れしい」

 

 そういうと回線を打ち切ったのか、モニターの画面が黒く染まった。

 何とか事態を乗り切ったことに安堵したヘックスと、その横で楽しそうに笑みを浮かべるローマン。

 2人は元宇宙海賊で、この船の乗組員の多くは、その時の部下であった。

 

 一年戦争後、デラーズ紛争に参加し、生き延びてからは気ままな宇宙海賊を満喫していた2人の元にアクシズの使者が訪れたのが一年前。

 同志として迎え入れたいとの誘いを一度は断ったが、再度の誘いで仲間の待遇、特にローマンの待遇の良さが決め手となり、アクシズに参加した。

 ローマンは、アクシズで騎士となったのだ。アクシズでは軍隊の階級は使わず、指揮官を騎士と呼ぶようになっている。

 

 騎士となったローマンの権限で、昔の仲間の大半は同じ船に乗ることができた。

 死線を乗り越えてきた戦友は、もはや家族と言っても過言ではない。

 生活するだけで精一杯だった日々からも解放された上に、離れ離れにならずに済んだ。

 

 横で不敵な笑みを浮かべるローマンのお陰である。

 多分、これからも生きていくのだろう、こいつと。確証はないが、妙な確信はある。

 ヘックスは操舵士に指示を出し、集結場所であるアクシズへと船を進めた。

 

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