機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ヴェアヴォルフの巨腕がライセイのプロトデルタに向くと、指先にビーム光が宿る。
先ほど街並みを破壊しつくしたビームの威力を目の当たりにしたライセイは、すぐにプロトデルタのスラスターを煌めかせて回避行動に移った。
指先から放たれたビームは指一本につき一筋のビームではなく、複数本のビーム。
ビームの雨がプロトデルタに襲い来る。スラスターとバーニアを駆使し、かろうじてビームを避け切ったライセイはビームライフルを構えると発射した。
撃ちだされたビームは攻撃を終えて硬直したヴェアヴォルフに直進する。捉えた。だが、ライセイは次の瞬間、顔色を変えた。
ヴェアヴォルフが大きな手をビームに向け伸ばすと、直撃コースだったビームが目の前で消滅する。
見えない壁によって消えてしまったビームを見て、ライセイの頭の中で1つの言葉が蘇った。
「Iフィールドだって!?」
Iフィールドはミノフスキー粒子を用いたバリアーの一種で、ビームなどの粒子兵器を偏向、拡散させることで無力化するものだ。
巨大MSやMAに搭載されることが多いIフィールドをMSサイズで搭載しているヴェアヴォルフにライセイは戦慄した。
ビームを無効化したヴェアヴォルフはスラスターを噴射させ、プロトデルタへと迫る。
これはライセイにとっては好機であった。
ヴェアヴォルフはその巨大な腕のせいで接近戦は不得手と思われるからだ。あの腕があっては鈍重な動きしかできないだろう。
そう判断したライセイは距離を詰めるべく、一気に加速をした。
その判断が間違いだったことをライセイは次の瞬間知ることとなる。
ヴェアヴォルフの背中から生えていた巨腕が本体から分離して、宙に上がったのだ。
「ファンネル!?」
10メートル以上の大きさのファンネルという規格外の武装を見たライセイは慌てて急制動を掛ける。
ヴェアヴォルフのサイコ兵装である、ハンドファンネルから大量のビームが照射された。プロトデルタを蜂の巣にせんばかりの攻撃。
急旋回で生じるGに歯を食いしばりながら耐えるライセイは、ビームの嵐を乗り切ったことに安堵した。
その気持ちが一変する。
巨腕という重りを失ったヴェアヴォルフがビームサーベルを引き抜いて、プロトデルタに迫っていたのだ。
避けている暇はない。ライセイはビームサーベルで応戦することを選択し、武器を選択する。
プロトデルタが抜いたビームサーベルと、ヴェアヴォルフのビームサーベルがぶつかり合い、眩い閃光が生じた。
つばぜり合いを制すため、ライセイはパワーで押し切ろうとする。押されるヴェアヴォルフ。機体の性能自体はプロトデルタの方が上のようだ。
一気に決める。ライセイの下した決断は、すぐに己の直感によって覆った。
ライセイに対する殺気がヴェアヴォルフとは違うところから伝わってきたのだ。
スラスターの角度を変え、するりとヴェアヴォルフの脇を抜けていったとき、ビームがプロトデルタの後ろを通過した。
視線をビームの射手に向けると、そこには2基のハンドファンネルがスラスターを光らせながら飛んでいる。
危なかった。あのままビームサーベルでのぶつかり合いを続けていたら、ビームを食らって死ぬところであった。
ライセイの額に汗が噴き出る。再び、ハンドファンネルの指先に光が宿った。
撃ちだされたビームのシャワーを避けるプロトデルタ。コロニー中に穴を開ける、その威力はまさに脅威であった。
戦い方を決めかねるライセイに通信が入る。
「ライセイ少尉! 援護に回ります」
シンリーのジムⅢはモニターが回復し、戦える状態となっていた。
1機よりも2機。そうシンリーは判断したが、ライセイの考え方は違った。
「ダメだ! 下手に近づけば墜とされる。シンリーは、応援を呼んできて」
「しかし!」
「行くんだ! じゃないと、全滅する!」
ライセイから出た全滅という言葉に、シンリーは息を呑んだ。
エースパイロットと呼んでも過言ではないライセイが口にした言葉の重みはすごい。
唇を噛んだシンリーは、ジムⅢのスラスターを噴かすとグリプスの外へと向かった。
その光に反応したヴェアヴォルフはハンドファンネルを1基向かわせようとしたが、ライセイの接近がそれを制する。
ハンドファンネルから降り注ぐビームを避けるプロトデルタに、ヴェアヴォルフがビームサーベルを構えて迫った。
ビームによって退路が絞られた状況では、ライセイはビームサーベルでの応戦しか選択できない。
再びぶつかり合うビームサーベル。直後にハンドファンネルから放たれるビーム。
プロトデルタは後退し、ビームを避けるがヴェアヴォルフは追撃を仕掛けてきた。
このままでは同じ展開になる。徐々に攻撃のタイミングが良くなっていることから、次は無事では済まないであろう。
だが、ライセイにできることは限られていた。ヴェアヴォルフの斬撃を躱す余裕はない。ビームサーベルで切り結ぶしかないのだ。
追い詰められたライセイの脳裏に浮かぶのは死という言葉だった。
こんなところで死にたくない。死を拒絶するライセイの頭の中に1つの選択肢が浮かんだ。
これしかない。生き延びるためにはこれしか。
ライセイはプロトデルタのスラスターを噴射させ、前のめりになると、そのままウィングバインダーを射出した。
質量弾として飛ぶウィングバインダーをまともに正面から受け止めたヴェアヴォルフは大きく弾かれる。
バランスを崩したヴェアヴォルフをプロトデルタのビームが射抜いた。
股の付け根から肩まで貫かれたヴェアヴォルフは爆発しながら、地表へと向かう。
一瞬の判断でピンチから逆転したライセイは、肌を刺すような強い執念を感じた。
浮遊するハンドファンネルはまだ動いており、ウィングバインダーを失い機動力がガタ落ちのプロトデルタに指先を向ける。
収束するビーム光。残ったバーニアで回避できるか。疑問をすぐに否定する。絶望的だがやらない訳にはいかない。
回避行動に移ろうとしたとき、ハンドファンネルの1基が頭上から降ってきた太い光に串刺しにされる。
光の正体は、リックディアスⅡの2連装メガビームガンであった。
残る1基はそれでもライセイに執着するように、プロトデルタ目掛けてビームを放とうとする。
その1基には、3機のジムⅢから放たれたビームが殺到し、爆炎を上げ落ちていった。
どうやら、あのIフィールドは、手の前面にしか展開できなかったようだ。
ライセイが深く呼吸をすると、ヴェアヴォルフの落下した場所で大きな爆発が発生した。
死の恐怖から解放されたライセイは、深呼吸をする。
もう、あのプレッシャーは感じない。あの凶暴で獰猛な気配はなんだったのだろうか。
ヴェアヴォルフから伝わってきたのは間違いないが、なぜそう感じたのか。ライセイは開花し始めている自分の才能にまだ気づいてはいなかった。