機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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追跡行

 サラミス級巡洋艦ウイントフックが月を発ったのは、ゲイル達が召集された次の日であった。

 MS隊以外の乗組員は任務前からウイントフックに乗船していたため艦内の連携は取れている。

 士気も高いようで、MSデッキ内をキビキビと動く乗組員達を見たダンが満足そうに頷いた。

 

「結構イケてる艦じゃねぇか。これなら、ネオジオンと戦っても引けは取らないな」

 

「ですね。母艦がしっかりしてるってのは、なんか安心できますよね」

 

 同調したシマンもしきりに頷く。

 確かにMSは戦場の花形とはいえ、母艦が落ちてしまえばただの鉄の棺桶にしかならない。

 帰る場所を守ることができる乗組員で艦は構成されていなければ、安心して戦うことができないのだ。

 

「シマン、お前も分かってきたな」

 

「ありがとうございます! これもダン中尉のお陰っす!」

 

 妙な上下関係のダンとシマンが楽しそうに笑う。上官と部下と言うよりは、師弟関係に近いのかもしれない。

 MSデッキに並ぶのは、ゲイルのガンダムMk-Ⅲとダンとアオイのシュツルムディアスが2機。そして、シマンのネモスナイパーだ。

 全員が使い慣れたMSにそのまま乗ることができるのは幸運である。

 

 エゥーゴ本隊の戦力を削っての追跡になるので、MSの乗り換えはあると危惧していた。

 ただ、それだけの戦力が必要になるということの裏返しであると考えると手放しでは喜べない。

 サラミス級巡洋艦としては、破格の戦力なのだ。この追跡行が危険な任務であることは間違いない。

 

 アヴァロンは今、どうしているのだろうか。

 ゲイルは度々、ライセイの顔を思い出す。もし、撃沈されていれば、そのような情報も入って来るはずだ。

 何もないのは良い便りと言えるのかもしれないが、やはり不安は尽きない。

 

「ゲイル、大丈夫?」

 

 アオイが不安そうに問いかけた。

 

「ライ君ならきっと大丈夫。それにフォルスト艦長が裏切るなんて考えすぎよ。だって、コロニー落としの時だって単艦でネオジオンの勢力圏内に入ったんだから。ネオジオンに寝返るなら、その時でも良かったはずよ」

 

「そうだな。寝返りは考えすぎだろう」

 

「そうそう。もっとポジティブに考えましょう」

 

「ああ。悪いな、いつも気を遣わせて」

 

 ゲイルの言葉にアオイが目を丸くした。

 

「えっ? 今、なんて?」

 

「いや、いつも気を遣ってもらっているからな」

 

「一応、分かってはいるんだ」

 

「何が一応なんだ?」

 

 首を傾げたゲイルを見るアオイの視線が湿ったものになった。

 

「やっぱり分かってない」

 

「ん? 何がだ?」

 

「別にいい」

 

「良くはない。気になるだろう?」

 

 アオイの好意に気づく気配がないゲイルを見たダンとシマンがニタリと笑う。

 

「何見てんのよ?」

 

 目を据わらせたアオイが言うと、わざとらしく怖がった振りを2人はする。

 

「シマンくん、怖いねぇ」

 

「ほんと怖いですねぇ、中尉~」

 

 ケラケラと笑う2人を見たアオイのこめかみに青筋が浮かんだ。

 事態を理解していないゲイルが言う。

 

「何を言ってるんだ、お前達?」

 

「気にすんな、ゲイル。お前はそのままで良い。そのまま育ってくれ」

 

「何の話か分からんが、何か嫌な感じがするな」

 

 流石のゲイルも、自分に関して何か言われている可能性に気づいたようだ。

 だが、鈍いことに変わりはなく、それ以上深くは考えなかった。

 MS隊のやり取りに、乗組員達からも笑みがこぼれる。

 

「仲が良さそうで何よりだ」

 

 声の主はドルフであった。

 敬礼をするMS隊員を見て、軽く笑う。

 

「長く艦長職をやって来たが、これだけ仲が良さそうなMS隊は初めてだ」

 

 褒め言葉にダンが照れ笑いを浮かべて言う。

 

「ありがとうございます。ただの仲良しではないところを次の出撃でお見せしますよ」

 

「それは心強いな。何があるか分からん。それこそ、ネオジオンと一戦交えるかもしれんのだ」

 

「俺達に掛かれば、そこらのネオジオンなんて目じゃないですよ」

 

「そうか。ダン中尉の昇進の日も近そうだな。ゲイル中尉、ちょっと良いかな?」

 

 手招きするドルフの傍によるゲイル。耳元に口を寄せたドルフが呟く。

 

「君は弟を撃つことができるかね?」

 

「えっ?」

 

 思わぬ言葉にゲイルは身を引きかけた。ドルフは続ける。

 

「もしもの話だ。裏切りがないとは言いきれんだろう?」

 

 ゲイルは言葉を返すことができず、固まってしまう。

 ライセイが裏切るはずがない。そんなことがあるわけが。

 口から否定の言葉を出そうとするのをドルフが遮った。

 

「私は撃てと命じる。だから、覚悟だけはしておいてほしい」

 

 そう言うと、ゲイルの肩にそっと手を乗せた。

 

「私から言えるのは、それくらいだ。あとは」

 

 ちらりと視線をアオイに向けて、再びゲイルの耳元で囁く。

 

「女性を待たせるのは、いい男のやることでは無いな」

 

 ポンッと肩を叩くと、ドルフはMSデッキを去っていった。

 ライセイを撃つ覚悟。そんなものある訳がないだろう。そもそもライセイが裏切るはずがない

 心の中で何度もそう呟いた。考えたくない想像が頭を過ぎっては、無理やり消してを繰り返す。

 

 ドルフの考える最悪のケース。それはゲイルの心を大きくかき乱した。

 

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