機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
アヴァロンのMSデッキに新たに並んだ白いヴェアヴォルフ。
ティターンズ製のMSということもあり物珍しいのか、整備士以外の乗組員達もMSデッキに顔を見せることが多かった。
今は何の変哲もないMSだが、乗ったときの感覚は他のMSと大きく違う。異常に感覚が敏感になるのだ。
人の気配だけでなく、その人の感情が頭の中に流れ込んでくるような、他人が自分を蝕んでくるような感じがした。
危険な代物と呼ばれているのは、何もあの巨腕や拠点防衛用の兵装だけではないのかもしれない。
その本体であるヴェアヴォルフもまた危険な存在だとライセイは考えている。
哨戒任務のため、パイロットスーツ姿でMSデッキに来たライセイは、普段見かけない顔に気づき声を掛けた。
「ネージュ、どうしたの?」
「あ、ライセイ。お疲れ様。これから、お仕事?」
「うん。哨戒任務だよ。ネージュはお休み?」
「そう。休憩時間なの」
会話を交わしていると、ネージュの視線がヴェアヴォルフに向いた。
「この子、怖いね」
「怖い?」
「普通の子と違う。人を凶暴にする力を持っている」
ネージュの言葉で、ライセイは濃紺色のヴェアヴォルフを思い出した。
凶暴で獰猛な気配を放っていたヴェアヴォルフ。なぜ、あそこまで負の感情を発することができたのか。
そこでふと思い出したのが、自分がヴェアヴォルフのコクピットに乗ったときの感覚であった。
自分の周りの人が自分に溶け込もうとする感覚。それが非常に不快で、気持ち悪さを覚えた。
もし、繊細な人があれに乗った場合は、精神に異常をきたすことあるかもしれないし、自分の魂を犯そうとする者に対抗するため攻撃的な行動に出る恐れもある。
濃紺色のヴェアヴォルフのパイロットも、ライセイと同じような感覚に気が狂ってしまったのかもしれない。
あの気持ち悪さを生み出すMSを2人で眺めていると、ネージュが思い出しようにポンと手を叩いた。
「ねぇ、今から外に行くんだよね? 私もMSに乗せてくれない?」
「えっ? ダメだよ。何かあったら、どうするのさ?」
「補助シートだってあるんでしょ? じゃあ、私、ノーマルスーツ着てくるから」
そういうとネージュはさっさとMSデッキを後にした。
残されたライセイは額に手を当て、ため息を吐く。この強引さには逆らえない自分を情けなく思っていた。
だが、それを嫌と思っていない自分がいることも知っている。
では、ネージュに対してどのような感情を抱いているのか。考えれば、答えに辿り着くのに、そう時間は掛からなかった。
惹かれているのだ。あの優しさ。あの強引さ。ネージュを構成する全てに惹かれている。
「好きってことか……」
急に込みあがってくる緊張感。これからネージュと2人きりの時間を過ごすことになるのだ。
好きな相手と一緒にいて緊張しない訳がない。心を落ち着けるライセイ。
「お待たせ」
「わっ!?」
背後からの声に肩が跳ねるライセイは振り返る。ノーマルスーツ姿のネージュが準備万端とばかりにヘルメットを被っていた。
「さ、行こう」
「あ、うん。一応、言っておくけど、怒られても知らないからね?」
「そのときはライセイも一緒でしょ? なら大丈夫」
「何が大丈夫なのか分からないけど。じゃあ、目立たないように、行こうね」
プロトデルタのコクピットに近づいた2人は、人の視線が向いていないときにネージュを素早く乗り込ませて、次いでライセイが乗り込む。
コクピットハッチを閉じたところで、ふうっと安堵の息をライセイは漏らした。
「わくわくするね、こういうの」
楽しそうに語るネージュに、ライセイは苦笑いを浮かべる。MSの起動を行うと、ネージュが呟いた。
「この子は好き。温かい感じがするから」
「そう? 僕にはよく分からないなぁ」
「ライセイを守ってくれる、いい子だよ。人の願いを叶える力がある。そんな気がするの」
ネージュの言葉にライセイは首を捻って悩む。そんな力があるようには思えない。
ヴェアヴォルフに乗ったときのような別の感覚は抱いたことがないのだ。
ネージュが何を見て、そう言ったのか分からないが、一緒に戦ってくれた相棒を褒めてくれるのは嬉しいものだった。
オペレーターの指示に従いMSデッキを出て、宇宙に飛翔するプロトデルタ。
ネージュがいるため、無理な操縦はできない。
ゆっくりとスラスターを噴射させて加速をする。グリプスの周辺を飛んで回って何か異変がないか調査するのが仕事だ。
警戒しながらMSを操縦していると、ネージュがあっ、と声を上げた。
「ネージュ? 何かあった?」
「うん、地球が見えた」
「地球?」
モニターに映るのは本当に小さな地球であった。
普段だと、ただの風景にしかならないため、目を止めてじっくりと見るのは久しぶりであった。
「綺麗」
ネージュは言うと、ライセイも同調する。
「綺麗だよね」
「一度、行ってみたいなぁ」
「僕もだよ。宇宙暮らしも好きだけど、一回だけで良いから行ってみたい」
2人でしばし地球を見ていると、ライセイはネージュを見つめる。
胸が高鳴るのが自分でもわかった。ここで、なんていえば良いのか。ライセイは次の言葉を探る。
「ねぇ、ライセイ?」
「うん? どうかした?」
「前に私のこと、仲間だって言ってくれたよね?」
「うん。仲間だよ。それがどうかしたの?」
ライセイの言葉を聞いたネージュは一度目を伏せた。
「私は、パパの本当の子じゃないの。私のパパは……。ううん、私はザビ家の人間なの」