機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
グワジン級大型戦艦グワンザムにMSと共に戻ったギルロードとセティは、ディクセルの艦長室にいた。
アヴァロンに戦闘を仕掛けて撤退したことを包み隠さず伝えたギルロードに、椅子に深く腰掛けたディクセルが言う。
「厄介な相手だったということか。エゥーゴもなかなか侮れんな」
「はい。ですが、次は負けません。あのアーガマ級を沈めて見せます」
「心強いな。なぁ、セティ?」
含みを持たせた視線をディクセルはセティに向ける。
セティは表情を変えることなく、静かに頷いた。
その視線にギルロードは気づくことなく、声を張り上げて言う。
「ディクセル様、お願いがございます。私にあのアーガマ級の追撃の任をお与えください」
「ふむ……。残念だが今、それどころではない」
「どういうことでございましょうか?」
「グレミーがハマーンに対して反旗を翻した」
ギルロードはグレミーという名に覚えがあった。若くしてハマーンの側近になった優秀な将校だ。
そのグレミーがハマーンに対して反乱を起こしたというのは、どういうことだろうか。ギルロードは疑問をぶつける。
「なぜ、グレミーが反乱を?」
「ミネバ様の摂政という立場を使って、ネオジオンを私物化しているハマーンを打倒するという檄文を発したようだ。グレミーの言いたいことは、分かりやすくて良いものだな」
「その規模はどの程度なのでしょうか?」
「アクシズを占拠しているそうだ。正確な数字は分からんが、若手将校の支持を得ているようだな」
若手将校が反発するほど、ハマーンの政治に不満を持っている者が多かったということだ。
ディクセルやギルロードもハマーンのやり方によって苦渋を飲まされてきたことから、反乱は起きるべくして起きたのかもしれない。
低く笑ったディクセルが言う。
「グレミーめ、人手が欲しいのだろう。私に支援を求めてきおった。ザビ家の復興のために力を貸してほしいとな」
「ザビ家?」
「グレミー自身がザビ家の血を引いているそうだ」
「そのような世迷言を」
「いや、あながちなくはないぞ?」
ギルロードの言葉を否定したディクセルは、椅子から立ち上がるとギルロード達の傍に立ち声を潜めた。
「デギン国王の隠し子という話もある」
「本当ですか?」
「真実は勝者が作り出すものだ。グレミーが勝利すれば、それが真実となるだろう」
「グレミーが勝つ見込みはあるのでしょうか?」
ギルロードの問いに、ディクセルは薄っすらと笑みを浮かべた。
「私の艦隊が合流すれば、可能性は高くなるだろう。だが」
一拍置くと、歪な笑みを見せた。
「誰が支援などするものか」
「では、ハマーン様の」
「あのような小娘を助けたところで、我らの身分は変わらんよ。今までのように顎で使われるだけだ」
「まさか」
ギルロードは何かを察し、口を閉じた。
口角を釣り上げたディクセルは目をぎらつかせて言う。
「我らがネオジオンを統べるときが来たのだ」
ディクセルの言葉にギルロードは打ち震えた。
遂にこの時が来たのか。今まで煮え湯を飲まされ続けた苦しみを晴らす機会が訪れたのだ。
ディクセル艦隊の先駆けとなって戦う決意をギルロードは発する。
「ディクセル様、私は自分の命を惜しみません。存分に私の命をお使いください」
「ギルロード、そう言ってくれると思っていたぞ。お前用の新型MSの搬入作業が今行われている。どうだ、見に行っては?」
「はっ! いただいたMSで必ずやハマーンとグレミーを打倒して見せます」
踵を揃えて敬礼をすると、艦長室を後にした。
残ったセティにディクセルが告げる。
「あれは今のままではダメだな」
吐き捨てるように言ったディクセルに、セティが抗弁する。
「お待ちください。あれは相手が悪かっただけです。ギルロードの戦力は我らにとって十分な存在です」
「今、整備を進めているMS。あれを動かすのには、強化人間の力を限界まで使う必要がある。そこに余計な感情は不要だ。命じられたままに戦う人形であれば良い」
「それでは、再調整を?」
「そんな時間はない。このような時のために研究所から渡された薬がある。それを打てば、あれは本当の操り人形だ」
冷酷な言葉にセティは拳をギュッと握りしめた。
ギルロードが、ギルロードではなくなってしまうことに恐怖と怒りを覚えている。
「セティ、最後はお前の手で終わらせてやれ。それがあれに対しての最後の慈悲になるであろう」
「……承知致しました」
愛する者をこの手で殺せというのか。セティは告げることのできない想いを胸に抱いたまま、艦長室を後にする。
ディクセルに忠誠を尽くすために調整された強化人間ギルロードの末路に救いはなかった。