機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
まっすぐ宇宙港から街へと向かう一本道を一台のエレカが走っていた。
道の傍には農場があり、放し飼いにされている牛たちが草を食むという牧歌的な光景を見たライセイが声を弾ませて言う。
「うわ~、牛だよ、牛。兄さん、見てよ、牛だよ」
テンションを上げているライセイの横でエレカを運転しているゲイルは、心ここにあらずと言った感じであった。
今、ゲイル達がいるのはサイド2にあるコロニーの1つで、主に食料の生産を行っている場所である。
それもあって、見上げれば丸い天井が広がっており、ドーム型の農場プラントがいくつも見えた。
コロニーでは穏やかな時が流れているがゲイルの心中は波立っており、ハンドルを握る右手の人差し指を忙しなく動かしている。
「兄さん、何があったの? 悩み事?」
ライセイの問いかけにゲイルは首を軽く横に振った。
「いや、なんでもない」
「嘘だね。その指でトントン叩く癖。悩んでいる時にいっつもやってるよ?」
言われて気づいたが今更止めても仕方がない。適当なことを言って、この場を逃げ切ろう。
「ティターンズとの戦争が終わったことだしな、今後のことを考えていたんだ」
「ああ、そっか。本当に終わったのかな、戦争?」
ライセイの言葉で、一昨日のアクシズのMSとの戦闘と、その報告をした後に艦長とした会話を思い出した。
艦長室で聞かされたのは、エゥーゴも危機的な状況に陥っているというもので、まともに動ける船はほとんど残っていないとのことだ。
エゥーゴの主力であったアーガマは無事だったとの通信を受けたそうだが、以降、アーガマの足取りは掴めていない。
ゲイル達の乗るサラミス級巡洋艦ケルンも戦闘で被害を受けており、航行するのがやっとのことで、補給と修理を兼ねてこのコロニーに停泊することになったのだ。
戦争が終わり、平和が訪れたのならば良いが、本当にそうなのだろうか。アクシズはディターンズとの戦争が終わっても攻撃を仕掛けてきた。
アクシズに野心あり。もしそうであれば、今の地球圏は手薄だ。
ティターンズは事実上壊滅し、エゥーゴは疲弊しており、残った地球連邦軍も戦争のごたごたでまともに機能してはいないだろう。
行動を起こすのならば、絶好の機会に違いない。
「どうだろうな。戦場からは引退したいところだけどな」
「だね。戦争が終わればエゥーゴも解散かなぁ?」
「そうだな。そうかもしれん」
ゲイルの胸にちくりとした痛みが走った。また誤魔化してしまったからだ。
届いた情報ではアーガマにも被害が出ており、その中でも特に問題なのがクワトロ・バジーナの消息が不明なことだった。
指導者を失ったかもしれないエゥーゴの今後はどうなるのだろうか。
考えても答えがでない。口から出せば、少しはこの胸のモヤモヤが晴れるのだろうか。
いや、ただいたずらに周囲を混乱させるだけだ。今は一部の者達で情報を共有しつつ、取れる最善の手を尽くすしかない。
心を決めたゲイルの視界にダイナーの看板が映った。
「丁度いい。飯にしようか」
「そうだね。ちょうどお腹が減ってたところだったんだ」
エレカをダイナーの駐車場に止めると、店の中に入り角にあるテーブル席に座った。
愛想のいい女性店員が水をテーブルに置くと、メニュー表を見せる。ライセイと話し合った結果、ハンバーガーとポテトを注文した。
注文の品が並ぶまで、店に流れるラジオの音に耳を澄ます。
ローカルラジオなのか、パーソナリティが面白おかしくリスナーからのお便りを読み上げていた。
ライセイはそれを聞いて楽しそうにしており、この時間をくつろいでいるようだ。ゲイルは水を一口飲むと、ソファにもたれかかり一息ついた。
その時、ブツッと一瞬放送が途切れ、パーソナリティの声が変わる。
「緊急速報です。ただいま入った情報によりますと旧ジオンの残党がネオジオンを称し、コロニーへの侵略を始めたとのことです。繰り返しお伝えします」
切迫した様子の声に、これは質の悪いジョークではないことは明白だ。
新たなるジオン。ネオジオンとはよく言ったものだと、ゲイルは胸の内で毒づいた。
動揺が見て取れるライセイは不安そうに問いかける。
「兄さん、戦争になるのかな? また戦争に……」
ライセイの言葉に応えることができなかったゲイルは、ただ歯噛みして顔をしかめた。