機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ネージュを新たなジオンの象徴にしようという計画。
それは今のネオジオンと何ら変わりのないものであった。ミネバの立場をネージュにすげ替えるだけだ。
それにそんな計画が、上手く行くわけが無い。支配体制が確立されている状況なのだ。
上を単純に変えただけで、下が簡単に着いてくるとは思えない。
ライセイは疑問をそのまま伝える。
「失敗しますよ、そんなこと。ネージュが危険に晒されるだけです。考え直してください」
「失敗はしない。何故なら、我らにはあれがある」
含みを持たせた言葉で、ライセイは心の片隅に残り続けていたものを思い出す。
「やっぱり、あれは」
「そうだ。だが、あれだけでは何の意味も持たない。ネージュと共にあることで、初めてあれは役に立つのだ」
「どうしてですか? そこで、なんでネージュが?」
「落ち着きたまえ、ライセイ少尉。私は君の意思を確認したいだけだ」
「意思?」
フォルストは頷くと、ライセイの瞳をじっと見つめた。
「君はネージュを守ると言ってくれたそうだな? あの子の血筋を知って言ったと」
「はい。僕はネージュを守ります」
「そうか。ならば、今は従ってほしい。あの子を守るためにもな」
「僕にネオジオンに入れ、とは言わないんですか?」
ライセイは挑発するように言った。フォルストの言い分が身勝手なものであったからだ。
良いように扱われようとすることに対する不満であった。
「その必要はない。今はただ、あの子を守ってあげてほしいだけだ。その後は我々でなんとかする」
「なんとかって。そんなのでネージュを守りきれるんですか?」
「ありがとう。もう十分だ。持ち場に帰りたまえ」
「フォルスト艦長!」
ライセイは感情のままソファから立ち上がると、大声で言う。
「ネージュは道具じゃないんですよ!? いつも笑顔だけど、泣く時だってあるんです! それを」
「ありがとう、ライセイ少尉。その優しい思いは伝えておく。持ち場に戻りたまえ」
そう言うと、フォルストは艦長室を後にした。
立ち尽くすことしかできないライセイは、拳を強く握りしめて込み上げる憤りを堪える。
ネージュは道具ではない。ギリッと歯を噛み締めると拳で壁を殴った。
◇
アヴァロンと並走するようにハイドラは航行していた。
主砲は全門アヴァロンに向いており、何かがあればすぐに発射できる体制にしてある。
今のところ、アヴァロンから不穏な動きは感じない。ディクセルの言う通り、黙ってこちらの指示に従っている。
ローマンはメインデッキから肉眼で捉えることができるアヴァロンを見て言う。
「本当になんもしてこなかったねぇ。ちょっと期待してたんだけど」
残念そうに言ったローマンに、ヘックスが不機嫌そうに返す。
「何を期待していたんだ?」
「そりゃ、ドンパチだよぉ。せっかくの新型をお披露目する機会がなくてさぁ」
「ったく。何もないに越したことはないだろう?」
当然とばかりに言うヘックスだが、ローマンは持論を述べる。
「順調すぎるときほど、怖いものはないからねぇ。物事にはちょっとくらいアクシデントって必要だと思わない?」
「思わん」
バッサリと切って捨てたヘックスを見て、ローマンは肩をすくめ軽く嘆いた。
「やだねぇ。年寄りになると、すぐ守りに入っちゃうんだから」
「大して歳は変わんねぇだろ!」
相変わらずのやり取りをする2人に、オペレーターがアヴァロンから通信が入った旨を伝えてきた。
ヘックスが繋げと言うと、モニターにフォルストが映し出される。
表情はいたって平静であった。戦艦ごと寝返る作戦を考えた人間だ。肝が据わっていて当然だろうとローマンは考える。
「私はフォルスト・イースレット中佐だ。貴艦の艦長はあなたかな?」
「ああ、ヘックスだ。あんたらをディクセル様の所へ案内する。変な動きはするなよ?」
「承知している。進路については貴艦の指示に従う」
「分かっているなら、それでいい」
ヘックスは義務的な会話を二言ほど話すと通信を切ろうとしたが、ローマンがそれを遮った。
「フォルスト艦長さん、聞いても良いかなぁ?」
「何かな?」
「裏切るのって、どんな気持ち?」
隣にいるヘックスが怒鳴り声を上げようとするのを、ローマンが手で制する。
表情はいつもと変わらず朗らかなものだが、瞳に宿る色が違ったことにヘックスは気づくと口を閉ざした。
フォルストは表情を変えずに言う。
「自分の居場所に帰るのに、特別な感情は抱かないと思うが?」
「自分の居場所、ねぇ。ありがとね、フォルスト艦長さん。勉強になったよ」
「話が終わりならば通信を切らせてもらうが、よろしいかな?」
承諾の言葉を発しようとしたヘックスに、オペレーターが告げる。
「後方から接近する艦を補足!」
「どこの艦だ!?」
「巡洋艦級とのことです」
「総員、第一種戦闘配置だ!」
ハイドラ内に響く警報。MS隊の隊長であるローマンも持ち場に行く必要があるが、なぜかメインデッキに留まっている。
ローマンの視線はモニターに映るフォルストへと向いたままだった。
「おい、ローマン、どうかしたのか? 早くMSの出撃準備に取り掛かれ」
「良いこと思いついちゃった。ねぇ、フォルスト艦長さん?」
にやりと笑うローマンがフォルストに言う。
「アヴァロンのMS隊で対処してよ。ここで誠意ってやつを見せた方がさぁ、心証いいじゃん?」
ローマンの提案は酷なものであったが、裏切りが本当かどうかを確かめさせるにはいいやり方である。
この提案にはヘックスも横やりをいれることなく、フォルストの言葉を待った。
「MS隊を出撃させる」
「追い払い方はそっちに任せるよ」
「承知した。通信を切る」
モニターがブラックアウトすると、ヘックスがローマンの肩を叩いた。
「良い案じゃないか、ローマン。楽ができるな」
上機嫌なヘックスとは違い、ローマンはあご髭をさすりながら思案している。
「やっぱMSに乗ろうかな。ヘックスは状況判断よろしくねぇ」
そういうと、ローマンはメインデッキを離れる。
後ろからヘックスの怒鳴り声が聞こえるが、知ったことではなかった。
アクシデントの予感がする。それも楽しいアクシデントな。
ローマンは自身の勘に絶対的な自信を持っている。
一年戦争、デラーズ紛争で戦場を生き抜いてこれたのは、この勘のお陰だった。
その勘が告げている。きっと楽しいことが起きると。
期待に胸を膨らませながら、ローマンは通路の壁を蹴ってMSデッキへと向かった。