機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
薄らと目を開けたゲイルの視界に2人の男女がいた。
不安そうにこちらを見る2人が瞳を潤ませると、女性がゲイルをキツく抱き寄せる。
「ゲイル。ああ、良かった、ゲイル」
女性の声を聞き、ゲイルはやっと2人のことを理解した。
父親と母親だ。涙を流す母親の肩にそっと手を乗せた父親が言う。
「母さん、ゲイルが苦しがってるぞ?」
「あ、ごめんなさい。ゲイル、大丈夫? 痛くない?」
問われたが意味が分からず、ゲイルは首を傾げた。
特に体は不調を訴えてはいない。答えに悩むゲイルに父親が優しい笑みを浮かべた。
「無事で何よりだ。あの時はびっくりしたぞ? でも、ありがとう。おかげでライセイに怪我はなかったんだ」
ライセイ。そうだ、ライセイはどうなった。
キョロキョロと見回したゲイルは、ベッドの横で寝ぼけ眼を擦っているライセイを見つけた。
小柄なライセイはゲイルの顔を見ると目を丸くして、わっと泣き出す。
「ごめんね、お兄ちゃん。僕、僕」
泣きながら謝る弟を必死でなだめる両親。
思い出した。ライセイがオートバイに轢かれそうだった猫を助けようしたのを庇ったのだ。
どうやら、ライセイに怪我はなかったようで一安心する。
ゲイルは泣き続けるライセイの頭に手を乗せて、優しく撫でた。
「気にするな、ライセイ。俺なら無事だ」
「お兄ちゃん……」
ぐすりと鼻をすすったライセイに、母親がハンカチで涙を拭ってやる。
ついでに鼻をかむと、目を赤くしたまま笑った。
その顔を見てゲイルもつられて笑う。
両親も心から安心できたのか、やっといつもの笑顔を見せた。
家族みんなで笑い合うのは、とても久しぶりな気がする。
全てが満たされた気分になったゲイルは、これが幸せというものだと理解した。
自分を心の底から心配してくれた両親と弟。家族に対する愛情があるからこそ、こうして素直に笑うことができるのだ。
幸せの意味を噛み締めるように、ゲイルは家族の姿を心に焼き付ける。
ふと、ゲイルの耳に聞きなれた声が聞こえた。
『兄さんは僕が守るんだ!』
大人の男性の声だ。
『兄さんは僕の命に代えても守る!』
頭の中に響く声は、とても身近な人の声だ。
誰だ。この声は。大事な人の声に違いない。その声を聞くだけで心がキツく締め付けられるからだ。
『兄さん、生きて』
ライセイの声に導かれるように、ゲイルは夢の世界から抜け出した。
◇
ゲイルは目覚めると、蛍光灯と無機質な天井が視界に映った。
ぼうっとした意識が徐々に明瞭になっていく。我を取り戻したゲイルの耳に大きな声が聞こえた。
「ゲイル!?」
声を上げたのは、ベッドの横の椅子に座っていたアオイだった。
喋り掛けようと口を開こうとしたとき、また聞き覚えのある声が聞こえる。
「ゲイル!? 大丈夫か!? どこか痛いところはないか?」
「ゲイル中尉! 良かった。マジで良かった」
何かと心配するダンに、涙を流しそうなシマンを見たゲイルは、思うように開かない口をゆっくりと開けた。
「ライセイは?」
「お前、自分のことを心配しろよな。アヴァロンに戻る光が見えたから、恐らくだが無事だ」
恐らく。誰にも確証はもてないため、ダンは希望的な言葉を口にした。
だが、ゲイルは言葉を素直に受け取る。
「それなら良かった。ライセイなら、きっと無事だ」
そう言ったゲイルは安堵の表情を浮かべる。
それは、まだ意識が晴れきってないため考えが及ばない訳ではなく、直感的にそう思えたからだ。
目を閉じればライセイの命の鼓動が感じ取れる。そんな気がしていた。
ダンが神妙そうな表情から、少しだけぎこちない笑みを浮かべた。
「それよりも、まずは自分のことだろ? お前がいなくちゃ、俺が苦労するだろうが」
「ああ、そうだな」
深く呼吸をしたゲイルは、自分の手に温もりがあることに気づき目を向ける。
そこには、ゲイルの手を握っているアオイがいた。
不安そうな表情でじっと見据えるアオイの手を握り返す。
「アオイ、俺は無事だ」
「もう、心配掛けさせないでよ」
「悪かった」
詫びるゲイルにアオイが瞳を潤ませて、不満そうに言う。
「次、あんなことしたら、怒るからね?」
「ああ、今度からは無茶はしない」
そう返したゲイルの言葉にダンがちゃちゃを入れる。
「お前、ライにも同じこと言ってなかったか?」
「ちょっと、ゲイル。それ、本当?」
アオイの反応にゲイルは噴き出し、笑い声を上げた。
呆気に取られるアオイの横でダンも声を大にして笑う。続けてシマンも笑いだし、最後はアオイも笑みを見せた。
周りの表情を見たゲイルは、自分の心が温まるのを感じる。
それは両親とライセイで笑いあったときに感じたものであった。
幸せ。大事な人達に囲まれて、笑顔で満たされたときに感じた気持ち。
ゲイルはアオイのことの目をじっと見た。
「アオイ、前に俺に聞いたよな? なんでお前達といると楽しいのかって」
こくりと頷くアオイに、ゲイルは微笑みを浮かべて言う。
「お前達のことが好きだからだ。幸せなんだよ、お前達といると」
「ゲイル……」
涙を浮かべるアオイが、手で目をこすった。
「お前達って、一括りにされるのは気に食わないけど、許してあげる」
「何を許すんだ?」
「もういい」
「いや、良くはないだろう」
乙女心を全くと言って良いほど理解していないゲイルの肩に、ダンがいやらしい笑みを浮かべながら手を乗せる。
「ゲイル、良いぞ。そのまま真っ直ぐ生きてくれ」
「あんたは黙ってなさいよ!」
「おお、怖っ。シマンく~ん、あのお姉さん怖いねぇ」
「ムカつく~。今度、シミュレーターでボコボコにしてあげるから」
いつものダンとアオイのやり取りが始まる。
それを見ていると、生きて帰ってきた実感が湧いた。皆といる幸せを噛み締めたゲイルには、もう1つやらなければならないことがあった。
ライセイを救うこと。俺が生き延びれたのは、ライセイのおかげだ。
そのライセイが窮地に立たされているなら、俺が助けに行こう。
兄の役割ではなく、たった1人の家族を救いたい。
幸せな日々に戻るため、ゲイルはアヴァロンを追う決意をした。