機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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無謀な作戦

 敗北から一夜が明けると、ゲイルはドクターの目を盗んで病室のベッドを去る。

 向かうのはメインデッキにいるであろうドルフの元だ。現在、ウイントフックはアヴァロンの追跡を中断しているとのことだった。

 こうしている間にもアヴァロンはネオジオンに合流しようと遠くに行ってしまう。これ以上の遅れをとるわけにはいかないため、ドルフに進言をしようと考えていた。

 

 メインデッキのドアを開けるとオペレーターが、あっ、と声を上げる。

 その声でドルフも首を回した。ゲイルを見ると、目を丸くする。

 

「ゲイル中尉。無理をしてはいけないよ。ゆっくり休みたまえ」

 

「ドルフ艦長。お願いがあります」

 

「アヴァロンを追え。と言いたいのだろう? アヴァロンが裏切ったことは分かった。これ以上、無茶をするわけにはいかないよ」

 

 ドルフの判断をゲイルは間違いと思わなかった。

 ウイントフックに指示されたのはアヴァロンの追跡で、それ以降は現場判断に任せるというものだ。

 ネオジオンの艦と行動を共にしているアヴァロンを追うのをサラミス級巡洋艦1隻では無謀である。

 

 だが、それを分かってゲイルは進言をしに来たのだ。

 

「アヴァロンの乗組員全員が裏切った訳ではありません。まだエゥーゴとして戦う意思を持った者も大勢いるのです」

 

「そうかもしれん。だが、ウイントフック単艦でどうしようと言うのだね? まさか、アヴァロンを救えと言うのかな?」

 

「それは不可能です」

 

「ならば、答えは1つではないかね?」

 

 ドルフは聞き分けのない子供に言い聞かせるように問いかけたが、ゲイルは首を横に振った。

 

「ウイントフックもネオジオンに降ります」

 

 ゲイルの提案に聞き耳を立てていた乗組員は唖然とした表情をする。だが、ドルフは何かを察したようで顔つきを険しくさせた。

 視線の集中したゲイルは続ける。

 

「もちろん、降るのは偽情報です。敵を混乱させるのが目的です」

 

「そんな子供だましが通じると思うのかね?」

 

「アヴァロンが一枚岩ではないことは敵も承知しているはずです。ネオジオンも合流して、しばらくは信用できないでしょう。混乱させれば、敵はアヴァロンを信用できなくなるでしょう」

 

「そんなことをしたまえ。アヴァロンが撃墜されてしまうかもしれんぞ? そうなっては元も子もない」

 

 またもやドルフは正論を語った。ゲイルの作戦は非常に楽観的で、希望的観測のものであるとしかいえない。

 しかし、ゲイルは表情を変えず、ドルフの言葉を否定する。

 

「墜とされません。いえ、墜とせない理由があります」

 

「その理由とは?」

 

「ライセイです。いえ、ライセイは何かを知っている。アヴァロンの亡命が何なのか」

 

「どうして、そんなことが分かる? 直接、聞いたとでもいうのかね?」

 

「俺達が引けばアヴァロンは大丈夫と言いました。何故、そう断言できたのか。それはアヴァロンに何かがあるからです」

 

 ゲイルは自分の直感でものを言っており、余人には到底理解できないものである。

 語られた根拠を聞いた乗組員達に失望の色が見えた。そんなこと信用できるものか。誰もが思ったことを、ドルフは表情に出すことはなかった。

 

「では、何かね? 君の直感に従って、この艦を危険に晒せと言っているのかね?」

 

「はい。アヴァロンを助けるためには、今しかありません」

 

 真っ直ぐドルフの瞳を見据えたゲイルの目には確固たる意思がみなぎっていた。

 熱い視線を向けられたドルフは目を閉じて、深く息を吐くと艦内放送につながる受話器を取った。

 

「総員、よく聞け。我々は今からアヴァロンのクルー救出のため、全速力でサイド6宙域へと向かう。単艦での作戦となるが、諸君らならば任務を全うできると信じている。必ず仲間を救い出すのだ」

 

 受話器を戻したドルフがゲイルに言う。

 

「君にほだされた訳ではないと言っておこう。私は天邪鬼でね。周りが取ろうとする行動と別のことがしたくなる。それに」

 

 頬を緩めたドルフは、優しい目を見せた。

 

「仲間を見捨てることが一番嫌いなのだよ。まだやれることはあるはずだ。ゲイル中尉、補給艦とのランデブーに備えてくれ。MSと武装の補給があるそうだ」

 

「補給艦が、このタイミングで?」

 

「アヴァロン追跡のための補給とのことだ。我々の行動を予測していたようで薄ら寒いな」

 

 ふふっとドルフは笑う。この手回しの良さにゲイルは、スペクターの顔を思い出してしまった。

 偶然だろう。あいつが得になることは何もない。ゲイルは結論付けると、敬礼をしてメインデッキを去ろうとした。

 

「ゲイル中尉」

 

 呼び止められたゲイルが振り返ると、ドルフが楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「MSの受け渡しにはアオイ少尉と2人で行くと良い」

 

「えっ?」

 

 ゲイルは一瞬困惑したが、MSの扱いに長けたアオイと一緒に行った方が良いのだろうという結論を出した。

 周りのアシストに全く気付かない男は頷いて言う。

 

「分かりました」

 

「うむ。期待しているよ」

 

 何を期待しているのだろうか。よく理解できていないゲイルは、小首を傾げつつメインデッキを後にした。

 アヴァロンの救出作戦。果たして上手く行くのだろうか。いや、絶対に成功させる。この艦の乗組員の命を預かったのだ。

 必ず助け出す。ライセイ、待っていてくれ。

 

 ゲイルの願いを叶える力を乗せた船の到着は、そのすぐ後であった。

 

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