機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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暗夜行軍

 ネオジオン樹立の宣言があってから2日。

 必要最低限の補給と整備を行ったサラミス級巡洋艦ケルンは、逃げるようにコロニーを後にした。

 目的地は月面都市グラナダだ。

 

 ケルンがエゥーゴの本拠地であるグラナダに行かなければならない理由は、損傷した船の整備と補給である。

 だが、乗組員たちの本音は違う。逃げ帰るのだ。

 ネオジオンのコロニーに対する侵攻が事実であることが分かり、ケルン単独では太刀打ちできないことを知っている。

 

 現在のケルンにはMS3機しかなく、戦闘によって消耗した弾薬の補充もままならないでいた。

 この状態でネオジオンと事を構えるなどできない。

 そう判断した艦長は、当初の予定通りグラナダへと向かうことに決めたが、航路についてはネオジオンとの遭遇を避けるために大回りをすることにした。

 

 艦長の下した決断に異論を挟むものは誰もおらず、乗組員は不安を抱えたままだが一定の平静は保たれている。

 ただ、エゥーゴの現状については依然、艦の一部の者達だけしか知らなかった。知ってどうする。知れば余計に苦しむだけではないか。

 知らないほうが良いこともある。知らなければ、知られなければ穏やかに暮らすこともできるのだから。

 

 ゲイルはリックディアスのコクピットのモニターで、MSデッキ内を行きかう整備士達を見てぼんやりと昔のことを思い出していた。

 両親が死んでからの苦労は一言では語れない。大した遺産もなく、頼れる親戚もいなかった。

 まだ小さかったライセイに苦労は掛けることはできないと、気丈にふるまうようになってからだろうか、人を頼れなくなったのは。

 

 ハイスクールではアルバイト漬けの毎日で、少しでも給料が良いところと選んだ軍隊では弱音を吐くことは許されなかった。

 そうして、少しずつ本心を打ち明けることが難しくなっていき、自分の感情も誤魔化すようになっていった。

 人と距離を置くようになったのも、自分を誤魔化すのに疲れたからだろうか。

 

 ケルンに配属になってから打ち解けたと思えるのは、同じMSパイロットのダンくらいなものだ。

 ダンは良いやつだ。お節介なところもあるが、無遠慮に人の(うち)に入り込むようなことはしない。

 心の鍵をゆっくりと開けるように入ってくるのだ。

 

 気づけば、いつの間にか相棒のように思ってしまっていた自分がいたが、それでも頼ることに躊躇してしまっている。

 唯一の家族である弟にも本心を明かせない俺は、この先、一生誰にも本当の自分を出せないのではないだろうか。

 誰かに分かってもらいたいと、どこかで思っているとしたら滑稽だな、と自嘲気味に笑って目を瞑る。

 

 MSの起動チェックが正常に終わったのでコクピットから出ると、それを待ち構えていたかのようにダンが近寄ってきていた。

 

「よ、お疲れさん」

 

「ただの起動チェックだ。疲れないさ」

 

「挨拶みたいなもんだから、真面目に受け取んなよ。よく見たら、お前のリックディアスも細かな傷だらけだな」

 

 言われてみれば、表面には無数の傷がある。

 宇宙を舞うデブリによって付けられた傷もあるだろうが、戦闘で負った損傷を修復した箇所も見受けられた。

 船の中でできる修復は限られているから仕方がないことだ。

 

 むしろ、この傷は戦場を潜り抜けた勲章と言ってもいい。

 

「俺達が生き残った証だ。悪いもんじゃない」

 

「いや、俺は新品のように(つや)やかなMSに乗りたいんだよ。ちなみに女も色っぽいのが好きだぜ」

 

「お前の好みなんて知るか」

 

「そう言うなって。なあ、グラナダに行ったら、バーにでも行こうぜ。グラナダならいい女がいそうだからな」

 

 くつくつと笑うダンをゲイルは冷めた目で見た。

 ダンの女好きは艦内では有名である。ダンほど異性に興味がないゲイルにとっては話を振られるのはいい迷惑だった。

 周りに変な誤解が植え付けられないように、女がらみの話については適当にあしらう様にしている。

 

「勝手に行けよ。俺は行かないからな」

 

「つまんねぇこと言うなよな。ライセイも連れて行くからよ。あいつも初心そうだから、いい機会だろうぜ」

 

「冗談はそれくらいにしておけ。まずは目の前のことに集中だ。でないと、足元をすくわれるぞ?」

 

「おお、怖っ。ま、確かに生き延びなければ女遊びもできねぇからな。お互い、生き残ろうぜ」

 

 そう言うと拳を突き出してきたので、応じるようにこつんと拳を突き合せた。

 にかっと笑ったダンに、ゲイルも少しだけ笑みを浮かべる。

 生き残るか。先日のガザDとの戦いを思い出すと、少しだけ不安になってしまう。

 

 あの敵に俺は勝てるのだろうか。自分の腕も磨かなければならないのはもちろんだが、MSの性能も上がる必要がある。

 リックディアスは扱いやすい良い機体だが、敵の技術の進歩に追いつかれているところがあった。

 このままの機体では、これからの戦場を生き残れないかもしれない。

 

 俺が死んだら、ライセイはどうなる。ライセイを守るのは俺の役目だ。俺は死ぬわけにはいかない。

 俺にもっと力を。俺の全力をぶつけられるようなMSが欲しい。仲間を守る力が、弟を守る力が。

 この宇宙の闇の中では、ゲイルの願いは(むな)しいものであった。

 

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