機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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墓守

 寂れたバーのカウンター席で、ウィスキーをちびちびと飲む中年男性がいた。

 男は安いブルゾンに擦り切れたジーンズという出で立ちで、生活水準はあまり高くないように見える。

 だが、男はその身なりに不釣り合いな精巧に作られた時計を手に巻いていた。時計を気にした男がバーのマスターに言う。

 

「もう1杯貰えるか?」

 

「まだ飲むんですかい? まあ、常連さんだ。私もお付き合いさせていただきましょうかね」

 

 男のグラスに氷を入れてウィスキーを注ぐと、マスターも同じように自分の酒をついだ。

 男がグラスを持ち上げると、マスターは乾杯をして、酒を口に含む。

 

「かぁ~。仕事終わりの酒はいいものですねぇ」

 

「そうだな。そんな風に思っていたときが俺にもあった」

 

「おや? 今は違うんですかい?」

 

 男はグラスを少しだけ傾けて、酒を舌で味わう。

 グラスをカウンターに置くと、カランと氷が音を立てた。

 男は遠い目をして独白するように言う。

 

「もし……。もしもの話だが。金になる死体を持ってたら、あんたは売るか?」

 

「死体? そんなもん気持ち悪くて持ちたくもないねぇ」

 

「それもそうだな」

 

 目を伏せた男は、また酒を少しだけ飲んだ。

 

「プライド、だったら、どうだ?」

 

 男は酒に目を向けたまま言った。

 

「プライドねぇ。まあ、それなりの値段なら売っぱらうかな」

 

 かっかっか、と笑うマスターを男は伏し目がちに見る。

 

「そうか。マスター、つまらないジョークを言っていいか?」

 

「どうぞ。どうせなら、面白いヤツが聞きたいですがねぇ」

 

「ギレン・ザビの死体を俺は売ったんだ」

 

 沈黙が訪れると、マスターが乾いた笑い声を上げた。

 

「お客さん、つまんないにも程がありますぜ」

 

「俺はあの日、ギレン閣下の死体を処理するように命令されたんだ。だが、俺にはできなかった。ザビ家親衛隊の俺には」

 

 そう言うと、男は酒を一息に飲み干した。

 遠い目をして、男は語る。

 

「俺は閣下の死体と共に逃げ回った。誰にも渡しては行けない。地球連邦はもちろん、ザビ家だって信用できない。そうして、俺は閣下の墓守となったんだ」

 

 男は空になったグラスの氷を指でクルクルと回す。

 

「死体に防腐処理をして、誰にも見つからないように隠し続けた。いつの日か、これを託せる人が現れると信じて」

 

 沈んだ表情の男が、薄らと笑う。

 

「どうだ? つまんなかっただろう?」

 

「お客さん、本当につまんない話だったよ。3流作家でも、そんなの書かないよ」

 

「全くだな。俺もどうかしちまったぜ。すまないな、長居しちまって」

 

「いやいや、今後ともご贔屓に。ところで、お客さん?」

 

 マスターが男の腕に巻いている時計を指さした。

 

「良い時計してるね。高かったんじゃないか?」

 

「これか? よく出来た偽物さ。俺の作り話より、こっちの方が本物っぽいってことか」

 

 低く笑った男に、マスターが手を頭に当てて笑う。

 

「いやぁ、最後にいいオチをつけましたねぇ」

 

「だろう? じゃあな。また来るよ」

 

 そう言うと、男はバーを後にした。

 家に帰るための薄暗い道を歩くと、あの日のことを思い出す。

 初老の紳士。スペクターと名乗った男だ。

 

 ギレン・ザビの死体のことを話した同僚が死んでから数日後に現れたスペクターは、こう切り出した。

 死体を守っているのは、あなたでしょうか、と。

 

 穏やかな口調での語りに思わず頷きたくなったが、男は黙りを決め込みスペクターのことを無視した。

 だが、その数日後、行きつけのバーにスペクターが現れたのだ。

 そこで、男は2枚の写真を見ることとなった。

 

 1枚は淑やかな女で、もう1枚はまだあどけなさの残る少女。

 男は淑やかな女性に見覚えがあった。ギレン・ザビの身辺警護をしていた時に何度か目にしたことがある。

 少女の顔立ちから女の子供であることを察した男にスペクターが語り掛けた。

 

 この少女はギレン・ザビの娘であると。

 そう言うとスペクターはカバンを男に手渡すと去っていった。

 中にはDNAの検査キットと、少女のDNA情報が記載された紙が入っていた。

 

 スペクターは、ギレン・ザビと少女の血縁関係を自らの手で調べろとは言わなかった。

 だが、興味の湧いた男は早速、死体の保管場所で検査を行った。

 結果は血縁関係がありというものだ。

 

 その後、スペクターは度々姿を見せたが、死体の話はせずに少女の境遇を語った。

 そのようなことを何度も繰り返す内に、スペクターにならば死体を託せるのではないかと考えるようになった。

 少女がギレン・ザビの子供であることの証明として。

 

 何に使うのかは最後まで教えてくれなかったが、悪いようには使わないと男は思っている。

 それは少女とその父親の話を聞いたからであろう。

 心優しき者の手に渡れば、死体を正しき方向に使うと信じたのだ。

 

 ギレン・ザビの死体という見世物ではなく、ザビ家の魂の宿った器として次代に一石を投じてくれるだろう。

 それが例え、ザビ家を滅ぼすことになろうとも。

 

 男は吹っ切れた表情を見せ、家路へと急いだ。

 

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