機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
フォルストとネージュがアヴァロンからグワンザムに移ったと同時刻。
営倉に入れられているライセイには外で何が起きているのか知る由もなかった。
ベッドに寝ころび、フォルストの言葉を思い出している。
ブライアンをザビ家親衛隊に殺されたのに、そのザビ家の血を継ぐネージュをネオジオンに渡すということがライセイには信じられなかった。
ザビ家にそれほどの忠誠心があるのだろうか。だが、それなら何故ネージュを象徴とする必要があるのだろうか。
今のネオジオンにはミネバがいるのだ。たとえギレン・ザビの遺体を持っていたとしても、ネージュがその座につけるとは思えない。
自分が知らない何かがあるのだろうが、それが何か。ライセイには想像できなかった。
目を閉じたライセイは次にゲイルのことを思い出す。無事に生きているだろうか。もしそうであれば、次に会えるのはいつだろう。
そのとき、自分はどんな顔で会えばいいのだろうか。好きな女の子を守ることができなかった自分を、ゲイルはどのように思うだろう。
きっとゲイルなら優しく迎えてくれるだろう。そして、それに自分は甘えてしまう。
そうして、過去の傷を見ないようにして生きていくことになる想像ができてしまった。
だが、本当にそれでいいのか。ネージュは自分に言ってくれた。離さないでね、と。
それはネージュの本心なのではないのだろうか。本当はネオジオンに行きたくないのかもしれない。
それを確認する手立てはないが、あの時のネージュの瞳は嘘を吐いているようには見えなかった。
自分の勘を信じる。ライセイはネージュに伝えた言葉と決意を胸に抱く。ネージュを助けに行くと。
だが、営倉にいる身分では何もできない。今、考えることができるのは、アヴァロンから如何にしてネージュを助けるかだ。
悩むライセイの耳にドアが開く音がした。近づく靴の音を聞き、体を起こしたライセイの前に、副艦長のカイムが立つ。
「ライセイ少尉。君の力を貸してほしい」
「えっ? どうして急に?」
困惑するライセイを閉じ込めていた営倉の扉が開くと、カイムが手招きした。
まだ懐疑的なライセイだが、カイムの真剣な眼差しから本当に自分の助けを求めていることが伝わる。
頷くライセイは営倉を出てて、先に歩みを進めたカイムの後を付いていった。
背後のライセイを見ることなくカイムは言う。
「君に謝罪する。この亡命劇はエゥーゴの作戦だ」
「えっ?」
「ネオジオンの勢力を削るためだ。ネージュのザビ家の血筋を利用して、野心を秘めていたディクセルをおびき出し、それを叩くという作戦なのだが」
振り向いたカイムは苦しそうに言う。
「その作戦はフォルスト艦長の命を賭して、ディクセルを殺すというものだ」
「そんな! フォルスト艦長がなんで死ななければ!?」
「復讐のためだ。ブライアンを殺した張本人のディクセルを殺す。相打ち覚悟でな」
ブライアンの敵討ち。深い愛情があればこその行動なのだろう。
前にフォルストが言っていた。もしゲイルが殺されたら、殺した相手を許せるかと。
それはフォルスト自身にも言っていたことなのだろう。
平然としていたフォルストは、あのときどのような気持ちだったのかを想像したライセイにカイムが続ける。
「私も同罪だがな」
「どういうことですか?」
「ブライアンを殺したのは私達の隊だからだ。それに」
目を伏せたカイムが、ぽつりと言う。
「私のミスを庇ってくれたのがブライアンだ」
ライセイは目を見開いて息を呑んだ。
ブライアンが殺された原因は上官のミスを庇ったためというもので、それが気に食わなかった上司がリンチを指示したと聞いている。
「艦長から話は聞いていたようだな。私のせいでブライアンは死んだ」
「上の命令なら従わない訳には……」
軍人である以上、上官の命令は絶対である。
それが悪名高きザビ家親衛隊ならば尚更だ。命令に違えれば今度は自分が同じ目に合うのは明白である。
「ありがとう、ライセイ少尉。私は自分のことが許せなかった。そんな私の前にフォルスト艦長が現れたのは、半年前だ。ブライアンの父親だと知ったときは、遂に終わりを迎えることができるのかと、どこかでほっとしていた」
遠い目で語るカイムに、ライセイは口を挟まむことはなかった。
「だが、艦長は私のことを許してくれた。ライセイ少尉と同じように私の立場を理解してくれたのだ。そして、この話を持ち掛けられた。私はブライアンのためならば、何でもすると言った。そして、私はディクセルに情報を流したのだ」
「スパイのフリを?」
ライセイの問いかけに、カイムは小さく頷いた。
「ザビ家親衛隊の隊長であったディクセルが次のネオジオンの代表になるべきだと焚きつけ、ネージュの存在を伝えた。最初は疑っていたが、ネージュと母親の話、そしてギレン・ザビとのDNAの適合情報を流したら食いついてくれた」
「あの、じゃあ、アヴァロンは初めからこの作戦のために動いていたんですか?」
「そうだ。全て計画した通りに動いた。いや、計画と違うことが1つだけあったな」
カイムは口元を緩める。
「ライセイ少尉。君をアヴァロンに乗せ続けたことだ」
「どういうことですか?」
「艦長が君は信頼に足る人物だと、ね。きっと私達の力になってくれると」
「艦長がそんなことを?」
「何か思うことがあったのだろうな。だが、それは正しかった。君の力を貸してほしい」
そういうと、カイムは艦底へと向かった。
ライセイは度々、訪れた場所である。ヴェアヴォルフに装着されたヘカトンケイル。
そこに繋がるハッチの前で10人の男が厳めしい特殊な宇宙服を着こんでいた。
その1人に見覚えがあり、ライセイは声を上げた。
「コック長!?」
不愛想なコック長はライセイを一瞥すると、手にした銃にマガジンを差し込んだ。
唖然とするライセイにカイムが言う。
「彼らは特殊部隊だ。ネージュを救出するために、この艦の乗組員に扮してくれていた。特に彼は凄腕だぞ。料理の腕前以上の力を持っている」
コック長はそれに反応することはなく、淡々と装備の点検を始めた。
理解が追いついたライセイは、カイムとコック長を見ながら言う。
「これから、どうするんですか? ネージュを救出って?」
「彼女は今、ネオジオンの艦にいる。彼らは今から、そこに乗り込むのだ」
「どうやってですか?」
「ヘカトンケイルのコンテナの1つがランチになっている。君はヴェアヴォルフに乗って、ネオジオンの艦の傍で彼らのコンテナを切り離してほしい」
確かにヴェアヴォルフのコンテナの1つがランチになっていたのは、ライセイも知っていた。
だが、このような使い方をすることになるとは思ってもいなかったため困惑する。
まだ迷いがあるライセイの肩に、コック長が手を乗せた。
「ネージュが待っている」
その一言でライセイの迷いが吹き飛んだ。
ネージュはネオジオンの艦の中にいる。それを助けるためには、彼らの力がないとできないのだ。
そのために自分がすべきことは。
ライセイは力強く頷いた。
「行きます。すぐにパイロットスーツに着替えますので」
そういうと、コック長がライセイにパイロットスーツを放り投げた。
苦笑するライセイは着込みながら、カイムに問う。
「こんなことになるなら、ヴェアヴォルフのパイロットはクラウス大尉に任せた方が良かったんじゃ?」
「そのクラウス大尉が君に託したのだ。彼にも考えがあったのだろう。ライセイ少尉、ネージュを頼む」
「分かりました。絶対に助けます」
ライセイはパイロットスーツのジッパーを上げてヘルメットを被る。
その瞳には熱い炎が宿っていた。