機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
グワンザムと並走していたアヴァロンが徐々に離れていく姿をハイドラのモニターで確認したヘックスが言う。
「本当にやるんだな?」
真剣な眼差しで問われたのはローマンだ。ヒゲをさすりながら朗らかな笑みを浮かべる。
「やるよぉ」
「どうなっても知らんぞ?」
「そんときは俺がなんとかするよ」
「お前ならやりかねんな」
肩をすくめたヘックスだが、ローマンならばなんとかするだろうという妙な信頼感を持っていた。
でなければ、ネオジオンを裏切るようなことができるはずがない。
ローマンの鋭い嗅覚が何をかぎ取ったのかは分からないが、その勘で生き抜いてきたのだ。
きっと今回も。心を決めたヘックスが指示を飛ばす。
「メインエンジンをカット。アヴァロンの前に出るまで速度を落とせ」
ヘックスの命令によって、ハイドラのメインエンジンが停止した。
ロケットから光が消えると、ゆっくりとアヴァロンとの相対距離が縮まる。
そのことに気づいたのかグワンザムから通信が入るが、ヘックスは慌てたふりをする。
「エンジンの故障だ。悪いがちょっと速度を落としてもらえるか?」
言うだけ言ったが、聞き入れてくれるかどうかは分からない。
作戦としては、今のところ順調であるが果たして本当に予定通りに行くのだろうか。
モニターでアヴァロンを見る。
ハイドラが迫ってきたため、減速をしつつ船首をずらして回避行動に移ろうとしていた。
それでは困る。ヘックスは更に指示を出す。
「微速前進だ。アヴァロンとの距離を今のまま維持しろ」
ハイドラとの接触を避けようとしたアヴァロンだが、ロケットに火が付いたのを確認したのか、一定の距離を置いたまま前進を始めた。
今のアヴァロンは艦隊から一番離れた位置にいる。そして、その前に立ちふさがるハイドラ。
これであれば艦隊からアヴァロンの動向は見づらくなっている。あとはアヴァロンがどうするかだが。
固唾を呑んで待つヘックスにローマンが言う。
「久しぶりだねぇ。こんなにひりつく空気は」
「ああ。デラーズ紛争以来だな」
「だねぇ。ヘックス、付いてきてくれてありがとね」
微笑みを浮かべたローマンを見て、ヘックスは思わず涙ぐんだ。
こいつも1人で生きていける訳ではない。それが分かったのが嬉しかった。
仲間達がいるから、ローマンは生きていけるのだ。そしてローマンがいるから仲間達は生きていける。
ならば、返す言葉は1つだ。
「バカ野郎。礼なら終わってから言え」
「確かに」
からからと笑ったローマンと、仕方なさそうに笑うヘックス。
ディクセルを出し抜く戦いが、今始まった。
◇
ハイドラがアヴァロンの進路を塞ぐように動いたことは、艦底で準備を進めるライセイ達には見えなかった。
ヴェアヴォルフのコクピットに乗ると起動準備に取り掛かる。
コック長を筆頭に特殊部隊の面々がコンテナのランチに乗り込んでいった。
「準備完了だ」
「了解!」
ヴェアヴォルフのモノアイに光が宿ると、ライセイをあの不快感が襲った。
人の気配が鮮明に伝わってくる。徐々に自分の心の中を侵食するような感覚にライセイは険しい顔を見せる。
だが、これに耐えなければ、ヴェアヴォルフは使えない。
心を強く持て。自分に言い聞かせたライセイの心に聞き覚えのある声が届いた。
『ライセイ! 助けて!』
ネージュの声だ。自分の名前を呼んでいる。助けを求めている。
ネージュのいる場所はあの一番大きな戦艦からだ。あそこからネージュのぬくもりを感じる。
「ネージュ、今すぐ助けるから」
通信機を通して、ヘカトンケイルを係留していたワイヤーの解除を要請する。
ワイヤーによる拘束が解かれたヘカトンケイルの大型スラスターに光が灯った。
「ライセイ・クガ。ヴェアヴォルフ、行きます!」
スラスターから眩い光が発されると、ヴェアヴォルフは急加速をする。
アヴァロンを追い抜き、その前を行くハイドラの艦底を通り抜けると、グワンザムに一直線に向かった。
ライセイはコンソールを叩いてヘカトンケイルから伸びるアームで、コンテナから武器を取り出す。
選択したのはバズーカ2丁であった。
グワンザムにロケット弾を乱射すると、船体から火の手が上がる。
「コック長! 切り離します!」
グワンザムの艦底をすり抜けようとしたところで、コック長の乗るコンテナを分離させた。
ヴェアヴォルフは更に加速をし、前方を行くムサイのロケットエンジンに向けてロケット弾を放つ。
ロケット弾の火薬が炸裂すると、エンジンか火を噴いて制御不能に陥った。
ムサイのメインブリッジに迫るヴェアヴォルフは、最後のロケット弾を撃つと急旋回をする。
1隻のムサイが轟沈する様を見た他の艦が対空防御の構えを見せた。
「させない!」
1つのコンテナが切り離されると、コンテナの蓋が外れた。
そこにはミサイルがぎゅうぎゅうに詰め込まれており、宙を漂うと一斉にミサイルが発射される。
ミサイルの雨が降り注ぎ、1隻のムサイの艦上を火の海にした。
轟沈するムサイ。これで2隻だ。だが、まだグワンザム、エンドラ級が3隻とムサイが1隻。
崩壊していくムサイからMSが数機飛び立っていく。たとえ、ヴェアヴォルフのヘカトンケイルが驚異的な力を持っているとは言え、単機でどこまで戦えるか。
考えながらも手は止めなかった。
次にコンテナから取り出したのは、大口径のグレネードランチャーを2丁だ。
迫ってきたMSはガザDが2機。グレネード弾を撃つと、内部の火薬が炸裂して散弾が吐き出される。
MSを破壊できる程の力はないが、動きを制するには十分だ。
速度を緩めたガザDの1機に向け、駆け抜けざまにグレネード弾を至近距離で放つ。
直撃したガザDは爆散した。一気に加速するヴェアヴォルフに、戦艦からの対空砲火が襲う。
この図体で安易に近づけば蜂の巣にされるのがオチだ。
距離を取ると、グレネードランチャーを格納し、両サイドのコンテナからジェネレーターを搭載したビームライフルとロングバレルを取り出した。
ビームライフルとロングバレルが結合され、ハイ・メガランチャーとなる。エネルギーをチャージすると照準をムサイに合わせて、高出力のビームを放出した。
船体を貫通するビーム。爆炎を上げるムサイから、MSが4機飛び立つ。
エンドラ級の2隻からもMSが発進していた。ライセイの前に立ちふさがるMSの総数は24機。
分が悪いにもほどがある。だが、ここで諦める訳にはいかない。ネージュを助け出すのだ。
ヴェアヴォルフのサイコミュによって拡張されたライセイのニュータイプの資質が、ネージュの魂の鼓動を捉える。
敵意の中に捕らわれたネージュを救出するための死闘が幕を上げた。