機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
グワンザムにヴェアヴォルフが放ったロケット弾が着弾すると、船体が大きく揺れた。
「なんだ!?」
声を上げたのはディクセルだ。
予想外の事態なのだろう。うろたえたディクセルとは違い、作戦を把握していたフォルストは冷静に動いた。
ネージュを捕えていたギルロードを蹴り飛ばす。
解放されたネージュの手を取り、すぐさま艦長室を後にした。
背後からディクセルの声が聞こえるが、そんなことを気にしている場合ではない。
ネージュだけは助けなければならない。何も知らなかった娘をこんな作戦に巻き込んでしまったせめてもの償いだった。
作戦通りであれば、グワンザムの艦底から特殊部隊が潜入する予定だ。
地図ならばネージュと共に見飽きるほど確認した。合流場所ならば間違いなく行けるが。
フォルストの嫌な予想が現実となる。ネオジオンの兵士が2人を追いかけに来たのだ。
追ってきたのならば、それでいい。フォルストは時計を操作し、爆発の信号を送った。
轟音が鳴り響くと、その音に気を取られた兵士達。すぐさま2人は艦底に繋がるエレベーターに乗った。
エレベーターの扉が閉まると、ネージュがフォルストにひしと抱き着く。
「パパ、ごめんなさい」
「いや、良いんだ。これで良いんだ。無事でよかったネージュ」
抱きしめ返したフォルストの胸の中で涙を流すネージュ。
艦底に辿り着いた音がすると、フォルストはネージュを壁に押し付ける。
そのとき、銃声が鳴り響き、エレベーターの壁に穴が大量に生まれた。
「そう上手くはいかないか」
口惜しい表情のフォルストと不安に押しつぶされそうなネージュの耳にまた銃声が響いた。
だが、それはエレベーターに向けてのものでないことに気づくと、フォルストはそっと顔を覗かせる。
そこには特殊部隊の宇宙服を着た者達がネオジオン兵士を始末した姿があった。
「艦長、迎えに来ました」
コック長は踵を揃えて敬礼をする。
「すまん。私は作戦を遂行することができなかった」
「まだです。ライセイ少尉がいます。艦長は彼のことを信じたのでしょう? ならば最後まで信じるべきです」
「……そうだな。これより我々はアヴァロンに帰投する」
「はっ!」
特殊部隊が先導する。その後ろをついていくネージュがフォルストに問いかける。
「ライセイが戦っているの?」
「ああ。彼の可能性を信じてみた。ネージュを助けると言ってくれた彼をな」
「ライセイ……」
目を閉じたネージュはライセイの気配を探る。
しかし、この大型戦艦の乗組員が多すぎてライセイの存在を確かめることができなかった。
それでも届けたい。ネージュはライセイの無事を祈る。
ライセイ、生きて帰ってきて、と。
◇
迫る敵機に向け、ヴェアヴォルフのハイ・メガランチャーを撃った。
ビームは接近してきていたガルスJの肩をえぐると、更にその余波でコクピットを蒸し焼きにする。
1機を戦闘不能にしたライセイは更に1発発射した。
だが、そのビームが狙ったズサに躱される。その反撃で、ミサイルを一斉射された。
迫りくる十数発のミサイル。ライセイはヴェアヴォルフを加速させ、回避行動を取る。
ミサイルの嵐を凌いだライセイに次の攻撃の波が襲い掛かった。
ガザD2機とガ・ゾウム2機が編隊を組んで猛進してきている。
MA形態の機動力を相手にするのは厄介だ。ヘカトンケイルのせいで、AMBACが使えないため後ろを取られるのは危険である。
ライセイはビームを放つ4機のMSを避けて飛ぶ。それを見越したかのように、MA形態からMS形態に変形した敵機。
だが、ライセイもそれを待っていた。
ヴェアヴォルフに狙いを定めた4機の前に、太いケーブルが漂う。
ケーブルには丸い地雷のようなものが取り付けられており、4機の内、3機のMSにケーブルが絡みついた。
その瞬間、目が眩む爆発が起きる。爆導索。地雷除去兵器としての役割を持ったものだが、ライセイはそれを武器として使ったのだ。
3機のMSが戦闘不能に陥ると、残ったガ・ゾウムは明らかにうろたえており、一度距離を置いた。
ライセイは背後を確認することなく、更にヴェアヴォルフを加速させる。
射線上にエンドラを捉えると最後のエネルギーを使ったハイ・メガランチャーを発射した。
船体を貫かれたエンドラが火を噴く。エネルギー切れになったハイ・メガランチャーを放って、再びグレネードランチャーを取り出した。
殺到する敵機に向け、グレネード弾を乱発する。散弾が敵機の装甲をへこませプレッシャーを与えたライセイは、ヴェアヴォルフを旋回させた。
残り20機。ライセイは呼吸すらままならない状態で戦っている。
ヴェアヴォルフ1機に殺到する敵MS。残りの武器も半分以上使ってしまった。
まだグワンザムとハイドラを含めたエンドラ級が2隻とムサイが1隻ある。
戦艦を落とせば、敵の戦意を削ぐことができるが、もうそう簡単には近づかせてはくれないだろう。
グレネードランチャーを手放し、次の兵装であるガトリングガンを2丁手にする。
接近を仕掛ける敵に銃弾の嵐をお見舞いすると、2機のMSが穴ぼこだらけとなって爆散した。
だが、ヴェアヴォルフの射程内に入ったということは、敵の射程内ということであった。
一斉に発射されるビームを回避するためにスラスターを噴射させたが、1本のビームがコンテナに直撃し、爆炎を上げる。
「くっ!?」
爆発する前にコンテナを切り離すと、次の瞬間、コクピットまで震わせる衝撃が伝わった。
一瞬でも遅れていたら、ヴェアヴォルフに致命的な損傷を負っていたかもしれない。
冷や汗が滲むライセイは、回避をしつつ、ガトリングガンから銃弾をばら撒いた。
射程外からの攻撃であれば、回避することは難しくない。
余裕を持ってガトリングガンの射線を避けた敵機にライセイは歯を噛み締めた。
じりじりと追い詰められている感覚がする。自分を取り囲む悪意の奔流に巻き込まれそうになったライセイの心に、温かなぬくもりが届いた。
『ライセイ、生きて帰ってきて』
まぎれもなくネージュの声だった。死の恐怖から来た幻聴ではない。ネージュが自分のことを心配してくれている。
こんなところで諦める訳にはいかない。まだ戦うための武器ならあるのだから。
戦意を取り戻したライセイは、肌を焦がすような熱量が迫ってきたのを感じ、その方角を見た。
極大なビームが宇宙空間を奔り、ムサイのメインデッキを貫いたのだ。
ビームが発射された方向から、1つの光点が迫ってきていた。
伝わる熱い魂を感じ取ったライセイは笑みを浮かべ、喜びに満ちた声を上げる。
「兄さん!」
宇宙を駆けるZⅡ。パイロットのゲイルがにやりと笑う。
「待たせたな、ライセイ」
孤独な闘いから、兄弟の共闘へと変わった瞬間であった。