機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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雪辱戦

 ライセイがヴェアヴォルフを起動させたとき、ゲイル達を乗せたウイントフックは艦隊の影を捉えていた。

 捕捉できた艦影は8隻。大型戦艦が1隻と巡洋艦級が7隻という編成である。

 この中にアヴァロンがいるのか。艦長のドルフは難しい判断を求められていた。

 

 迂闊に近づいてしまえば、敵に捕捉される可能性が出てくる。

 サラミス級巡洋艦のウイントフックで、あれだけの艦隊を相手にできる訳がない。

 敵がハイドラだけだと考えていたドルフにとって、手が出せない状況であった。

 

 撤退。

 その2文字が頭の中をちらつくが、見過ごしてしまえばアヴァロンに乗るエゥーゴのメンバーを切り捨ててしまうことになる。

 ギリッと歯噛みしたドルフに通信が入ると受話器を取り上げた。

 

「艦長、ゲイルです。いつでも発進できます。指示を」

 

「ゲイル中尉」

 

 喉から出かかったのは、この宙域を離脱する。というものだった。

 口を開けば後ろ向きな言葉しか発せない状況のドルフにゲイルが言う。

 

「艦長。我々が発進したら、回頭して撤退してください」

 

「なに?」

 

「これはMS隊の総意です。アヴァロンの仲間を救うことができる可能性は今を置いて他にありません」

 

「自殺行為だ。アヴァロンを助ける前に撃墜されるのが関の山だ」

 

 ドルフの口にした言葉は正しい。たった4機のMSであの艦隊を相手にできる訳がないのだ。

 腹を決めたドルフは撤退の言葉を口にしようとした。

 

「俺の命はライセイに救われました。今度は俺が命を懸けて、あいつを助ける番なんです」

 

 ゲイルの言葉がドルフの心に刺さる。地球連邦軍からエゥーゴに移ったのも義の精神があったからではなかった。

 ティターンズが気に食わなかったのだ。何かにつけて権力を振りかざしたティターンズはドルフの同僚に汚れ仕事をさせ、それを苦にして同僚は自ら命を絶ってしまった。

 同僚の死を悼むものはティターンズには誰もいなかったのを葬儀の場で知ったドルフは、自分だけは味方を見捨てないと心に決めたのだ。

 

 自分が指示を下せば、それに従った部下が命を落とすだろう。

 それを黙認するのは、味方を見捨てることになるのではないか。しかし、このまま撤退すれば、アヴァロンを見殺しにしてしまうことになってしまう。

 ドルフは逡巡すると、決断を下した。

 

「ゲイル中尉、私は君に死ねと命じることになるが、承服できるかね?」

 

「その覚悟はあります」

 

「分かった。ウイントフックはこのまま全速力で突き進む」

 

「艦長……。ありがとうございます」

 

「礼を言うのはまだ早い。では、作戦だが」

 

 そう言ったとき、モニターに映った艦影から火の手が上がった。

 通常のMSの倍以上の大きさの影が艦隊の間を高速で動くのが見える。

 一体、何が起きたというのだろうか。次の瞬間、1隻の巡洋艦からも盛大な爆発の光が発せられた。

 

 ドルフは目の前の事態を好機と捉えると、すぐにゲイルに指示を出す。

 

「ゲイル中尉、まずはネモスナイパーとメガバズーカランチャーを射出して、遠距離からの狙撃を行う。続いてZⅡの発進だ」

 

「了解です」

 

「次はダン中尉のシュツルムディアスだ。こちらは、メガバズーカランチャーと連結させて複数回の射撃が行えるようにする。最後はアオイ少尉のガンダムMk-Ⅲの発進だ」

 

「分かりました。必ず成功させてみせます」

 

 通信が終わると、ドルフはふうっ、と息を吐いた。

 モニターには次々と爆発の光が広がっている。誰かが戦っているのだ。

 ネオジオンと敵対する誰かが。その者は大事な味方かもしれない。ならば、尚更見過ごすことはできない。

 

「メインエンジンを全開にせよ。我々はこのまま敵艦隊に突撃する」

 

 一世一代の大博打。こんなに分が悪い賭けは初めてだな、とドルフは自嘲した。

 

 ◇

 

 ウイントフックのカタパルトデッキにネモスナイパーとメガバズーカランチャーが姿を見せた。

 シマンは緊張のあまり顔色が悪く、今にも吐き出しそうだ。

 自分には荷が重すぎる任務。遠距離から戦艦を狙撃するなど、やったことがない。

 

 しかも、マニュアルに目を通しただけのメガバズーカランチャーを使用するなど想像の範囲外だ。

 逃げ場のないコクピットで震えるシマンに通信が入る。

 

「お~い、シマン。ビビッてんじゃねぇぞ。外したって気にすんな。代わりに俺が無双してきてやるよ」

 

 ダンが軽口を叩くとアオイが呆れた声を出した。

 

「無双なんてできる訳ないでしょ? シマン、落ち着いて。あなたの狙撃のセンスは確かなものだから」

 

「ダン中尉、アオイ少尉……」

 

 激励の言葉に涙ぐむシマン。何もできなかった過去が思い出され、その悔しさを糧に訓練したことが頭の中を過る。

 あの頃とは違う。今の自分なら成功させることができるはずだ。

 共に戦ったアヴァロンの乗組員達のために、今できることをやり遂げてみせる。

 

 決心がついたシマンにゲイルが優しく言う。

 

「前に言ったよな? 悔しさを知ったお前なら強くなれると。ネオジオンの連中に見せてやろうじゃないか、お前の力をな」

 

「ゲイル中尉……。はい! 成功させてみせます!」

 

 発進許可が下りると、シマンは息を吸って腹に力を込める。

 

「シマン・トガワ! ネモスナイパー、行きます!」

 

 カタパルトによって射出されたネモスナイパーとメガバズーカランチャー。

 ネモスナイパーのバイザーが下りて、メガバズーカランチャーと接続されるとスコープで覗いた世界が広がった。

 円の中心にある照準を敵の戦艦に向ける。一度、深く息を吐いてから、ぐっと呼吸を止めた。

 

 スコープの片隅でZⅡがMA形態に変形し、飛翔する。

 この作戦の要は自分の一撃に掛かっていると言っても良い。一発も外してはならない。

 いや、外してたまるか。

 

 照準が敵巡洋艦のメインブリッジを捉えた。

 シマンが射撃ボタンを押すと、メガバズーカランチャーより強力なビームが発射された。

 宇宙を切り裂くビームの光が、敵戦艦に吸い込まれるように進んでいく。

 

 着弾の光が届くと、シマンがガッツポーズを見せた。

 

「見たか! ネオジオンめ!」

 

 シマンは第2射に備えて、照準をのぞき込む。

 ZⅡのスラスターの光が遠のいていくのを見て、ゲイルの無事を祈った。

 

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