機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
ヴェアヴォルフが戦場を飛び回るのを見たローマンとヘックス。
その火力の凄さに唖然とするヘックスに対して、ローマンはヒゲをさすりながら真面目な表情を見せていた。
ヘックスが我を取り戻すと、すぐにオペレーターに指示を出す。
「おい、アヴァロンに通信を入れろ。こちらに敵意はないとな」
オペレーターが驚愕の表情を浮かべる。
「早くしろ! こっちにまで飛び火したらたまったものじゃない」
「りょ、了解!」
オペレーターがすぐにアヴァロンに通信を始める。
ヴェアヴォルフについては、アヴァロンの艦底にぶら下がっているのを見ていたが、ここまでの力を秘めているとは想像できていなかった。
この力があれば、この劣勢を覆せるかもしれない。
そう思ってみていたが、ヴェアヴォルフから火の手が上がった。
コンテナを撃ち抜かれたのだ。爆発を起こすと、ヘックスは冷や汗をかく。
もし、あれが墜とされれば作戦は失敗する可能性が濃厚になる。なんとか生きてもらわなければ困るのだ。
「ローマン! 助けに行かなくて良いのか!?」
焦りの色を見せるヘックスだが、ローマンは表情を崩すことなかった。
ローマンは腕組みをして言う。
「俺達の出番はまだ先だよ。あのパイロットの動きから察するに弟くんだろうけど、彼は強くなる。間違いなくね」
「強くなるじゃ困るだろ! 今だよ、今!」
「ここで弟くんが負けるなら、そこまでだよ。俺達の運が尽きただけさ」
「じゃあ、いつ出るんだ!?」
声を荒げるヘックスは、ローマンが向けた視線の先に目を向ける。
それは大型戦艦グワンザムであった。ローマンは冷静に言う。
「あそこにギルちゃんがいる」
「確かに、ギルロードのバウは見てないな」
「何か事情があるんだろうけどねぇ。勝負所はここじゃないって俺の勘が言うのさ。山場はもうちょっと先かな」
ローマンの冷静さによって、血の上っていた頭の熱が下がるのをヘックスは感じた。
やはり、こいつはただ者じゃない。俺達を導いてくれる存在だ。
真っ直ぐ見据えるローマンの横顔を見てヘックスは思った。
「じゃ、そろそろ準備するかな。グワンザムに動きがあったら教えてよ」
「ああ、分かった。すまんな、怒鳴ったりして」
「そんなのいつものことじゃん。リラックスしていこうよぉ。頼りにしてんだからさ」
ポンッとヘックスの肩を叩いたローマンは、いつもの朗らかな顔を見せメインデッキを後にした。
頼りにしている。その言葉だけで、この戦いが乗り切れそうな気持ちになったヘックスは艦長席に深く座りなおした。
ローマンの期待に応えるべく、ヘックスは戦況を冷静に分析し始めた。
◇
激しいめまいと甲高い耳鳴りに襲われたディクセルは通路の壁に身を預けた。
額と頬から血を流し、顔を赤く染めている。めまいが治まってくると、今度は痛みが襲ってきた。
思わず声を上げて転げまわりたくなるような痛み。
だが、それに負けないほどの怒りで心が煮えている。
フォルストがギレン・ザビの死体に仕込んだ爆弾から逃れるために艦長室を出たが、爆発の威力は艦長室を破壊するだけでなく通路にまで及ぶものだった。
荒い息遣いをするディクセルの横に佇むギルロード。
命令されるまで動かない完全な操り人形がディクセルを見下ろしていた。
「ギルロード……。奴らを殺しに行くぞ。準備をしろ」
「はい、マスター」
ふらつくディクセルは何度も壁に体をぶつけながら、MSデッキへと向かった。
警戒警報が鳴り響く中、MSデッキに入るとMSの発進準備が進められており、整備士やパイロットが飛び交っている。
血に濡れたディクセルを見た整備士が声を上げ近寄ってくるが、ディクセルは一喝した。
「クイン・マンサの発進準備だ! 私も乗る! 必ずアヴァロンを沈めてやる!」
怒鳴り散らすと傍にいたはずのギルロードがいないことに気づく。
周りを見やると、1つのMSハンガーの前に佇んでいた。それはセティの乗っていたガ・ゾウムだ。
ディクセルはそれが癇に障った。ギルロードの頬を殴りつける。
「お前に姉などいない! あれは偽物だ!」
「はい、マスター」
「お前は私の命令を聞けば良いのだ!」
「はい、マスター」
ギルロードの襟を掴んだディクセルは怒りに顔を歪めるが、整備士がクイン・マンサの発進準備に入ったことを告げたため手を離した。
「いくぞ、ギルロード。奴らを皆殺しだ。私に逆らった報いを受けさせる」
「はい、マスター」
ディクセルが床を蹴りつけて宙に上がる。
その様子を見たギルロードは、もう一度ガ・ゾウムに視線を向けた。
「ね……え……さん」
魂の残滓なのか、姉の名を呼んだギルロードだが、すぐにディクセルの操り人形となってクイン・マンサへと向かった。