機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン   作:アラタナナナシ

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切り札

 クィン・マンサから放たれたファンネルが動きを止めた。

 突如として訪れた静寂にディクセルはギルロードを罵倒する。

 

「ギルロード! 何をしている!? 奴らを殺せ! この役立たずめ!」

 

 ディクセルはギルロードの肩を掴むと、ぐっと引き寄せた。

 そこでディクセルは生気を失い、力なくシートのもたれ掛かったギルロードの顔を見る。

 最初は驚き。そして、次第に怒りが湧いてきた。

 

「使えない強化人間め!」

 

 吐き捨てるように言うと、邪魔なギルロードの死骸を奥にやってディクセル自ら操縦を始めた。

 MSの操縦経験はほとんどなかったが、知識だけはある。ディクセルは拡散メガ粒子砲を乱射した。

 だが、狙いが定まっておらず、負傷したゲイルやローマンを捉えられることができない。

 

 それでも撃ち続けた。エネルギーなど関係ない。全ての者を殺し尽くすまで撃ち続けてやる。

 宇宙にただばら撒かれるビーム。その虚しさがディクセルの権勢の終わりを告げているようであった。

 

 ◇

 

 ファンネルが突如動きを止めたことで、ゲイル達は命拾いをしていた。

 あのままファンネルと拡散メガ粒子砲で撃たれていたら、避け切れなかったかもしれない。

 残った脅威は拡散メガ粒子砲だが、先ほどまでと違いむやみやたらに撃っているように見える。

 

「おにいちゃん、あれってどういうことかな?」

 

 ローマンが距離を取りながらゲイルに問いかけた。

 

「分からん。だが、ファンネルがなければ」

 

「でも、相手にはIフィールドがあるからねぇ。接近するには、あのビームは厄介だよ?」

 

「ああ、そうだな。だが」

 

 一拍置いてゲイルが言う。

 

「ライセイがいる」

 

「弟くんかぁ。来てくれるかなぁ?」

 

「来るさ。きっとな」

 

「んじゃ、もうちょっと頑張りますかねぇ」

 

 ZⅡとザクⅢ改は再び、クイン・マンサに攻撃を仕掛ける。

 ビームはことごとく消されてしまい、ダメージを与えることができない。

 次の一手を求めるゲイル達の元に1つの光点が迫っていた。

 

 ◇

 

 クイン・マンサと戦うゲイル達のビームとスラスターの光を捉えたライセイ。

 コンテナを押しながら戦場へと向かう、その間中、ずっとネージュの存在を感じていた。

 自分の背中を押してくれている。必死に励まして、支えてくれているように感じた。

 

 そんなネージュの期待を裏切る訳にはいかない。

 次々と思い浮かぶネージュの顔。自分に向けてくれた優しい笑顔は、この戦いから戻ったらどんな笑顔を見せてくれるのだろうか。

 そう思うと、自然と体が軽くなった。

 

 この一撃が戦いを終わらせる。クイン・マンサの姿をモニターが捉えると、ゲイルに通信を入れた。

 

「兄さん! 僕が仕掛ける! だから、フォローをお願い!」

 

「ああ! 頼んだ!」

 

 頼んだ。ゲイルが自分を頼ってくれている。それが堪らなく嬉しかった。

 ますます、負ける訳にはいかない。ネージュとゲイルの想いに応えなければ。

 ビームを吐き出し続けるクィン・マンサの背後を狙って、ヴェアヴォルフはコンテナを思いっきり投げた。

 

 クィン・マンサに迫るコンテナにビームライフルの照準を合わせる。

 

「くらえ!」

 

 ヴェアヴォルフのビームライフルが火を噴いた。

 撃ちだされたビームはコンテナを射抜くと、コンテナは爆散。

 そして、宇宙にキラキラと輝く粒子が舞った。

 

 背後の爆発に気づいたディクセルは、クィン・マンサを振り返らせて、ヴェアヴォルフに拡散メガ粒子砲の砲門を向ける。

 ビームが収束され、解放されたとき、ビームは散り散りになって消えた。

 唖然とするディクセルとゲイル達。

 

 ライセイが持ってきたコンテナの正体はビーム撹乱膜であった。

 名前の通り、ビームを撹乱させて無効化する力を持っている兵器だ。

 この粒子に包まれている状態では拡散メガ粒子砲でも、無効化されてしまう。

 

 ビーム撹乱膜の効果に気づいたのは、ゲイルとローマンであった。

 一気に距離を詰めたZⅡとザクⅢ改は、ほぼ同時にクィン・マンサのそれぞれの手を両断する。

 両手から爆発を起こすクィン・マンサ。

 

 焦りの色を浮かべるディクセルは再び、拡散メガ粒子砲を発射する。

 だが、ビーム撹乱膜によって放たれたビームは消散してしまった。

 

「くそっ! なんで私が!」

 

 操縦桿をむやみやたらに動かし、宙をくるくると回ったクィン・マンサに接近する白き人狼。

 ヴェアヴォルフがビームサーベルを輝かせ、クィン・マンサの頭部へと襲い掛かる。

 

「墜ちろぉ!」

 

 ライセイの渾身の一突きが、クイン・マンサの頭部を貫く。

 ディクセルは恐怖で顔を歪めたままビームに焼かれて、その存在と共に振りまいていた悪意は消え去った。

 動きを止めたクイン・マンサはゆっくりと宙を漂うと、火花を散らせて、大きな爆発を上げる。

 

 ディクセルの野望が潰えた瞬間であった。

 

 ◇

 

 クィン・マンサの爆発の光を見たヘックスは、すぐさまオープンチャンネルで通信をする。

 

「各艦に告げる! これ以上の戦闘は無益だ。これより我が艦は負傷者、漂流者の救出を行う。各艦の賢明な判断を祈る」

 

 通信を切ったヘックスは、艦長席にだらしなくもたれかかった。

 緊張の糸がやっと緩んだのだ。味方の識別信号は1機も減っていない。仲間を失わずにすんだことに、安堵の息を吐く。

 

「これで良いんだよな、ローマン」

 

 ヘックスはそう言うと、ハイドラの乗組員に負傷者の救助を指示した。

 

 ◇

 

 戦闘の光が消えたことで、やっと深く呼吸ができる。

 ゲイルはヘルメットのバイザーを上げると、息をゆっくりと吸った。

 

「ゲイル! 無事!?」

 

 ガンダムMk-Ⅲに乗るアオイが語り掛けながら近づいてきていた。

 

「ああ、アオイも無事なようで良かった」

 

「あなたがいてくれたお陰よ。じゃないと、私も墜とされていたわ」

 

「奴がいてくれたお陰でもある」

 

 ゲイルの視線はローマンの乗るザクⅢ改へと向いた。

 通信回線はまだ生きている。この機会を逃せば、もう出会うことがないかもしれない。

 やるのならば、今を除いて他にないのだ。

 

 ゲイルはおもむろに口を開く。

 

「助かった。礼を言う」

 

 言われたローマンは呆気に取られると、次に楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「おにいちゃんとの一戦は間違いなく、俺の中でのベストバウトだったよ」

 

「もう一戦やるか?」

 

「万全な状態でやり合いたいからねぇ。今は勝ち逃げさせてもらおうかな」

 

「なら、自分の艦に戻ると良い。色々と言いそうな奴が来ているしな」

 

 ゲイルは視線を迫ってくるウイントフックとシュツルムディアス、ネモスナイパーに向け言った。

 低く笑ったローマンは礼を言う。

 

「ありがとね。弟くんにも、お礼を言っておいてね」

 

「ああ、伝えておく」

 

 そうゲイルが言うと、ローマンはザクⅢ改をハイドラへと向けて去っていった。

 その光を眺めていると、アオイが不安げに問いかける。

 

「良かったの?」

 

「ああ。これで良いと思っている」

 

「そっか。やっぱり優しいね、ゲイルは」

 

 アオイの言葉を聞き、ゲイルは再びザクⅢ改のスラスターの光を追う。

 おそらく、もう二度と会わないであろう男に心の中でもう一度礼を言った。

 

 ◇

 

 ライセイは全てが終わったことで脱力しきっていた。

 もう何もしたくない。できれば、このまま寝てしまいたい。

 押し寄せる疲労の波に揺られていると、無線からゲイルの声が聞こえた。

 

「ライセイ、無事か?」

 

「兄さん!? うん、無事だよ」

 

「そうか。良かった。自力で帰れそうか?」

 

 ゲイルは心配するように優しく問いかけた。くすりとライセイは笑う。

 

「もう、子供じゃないんだから。これからは、もっと頼って良いんだからね、兄さん?」

 

 ライセイの軽口を聞いたゲイルは声を上げて笑う。

 笑みを残したままライセイに言った。

 

「そうだな。これからは頼りにさせてもらう。ライセイ、頑張ったな」

 

「兄さんこそ。来てくれて本当にありがとう」

 

「礼なら後でゆっくり聞かせてもらう。アヴァロンは、もう大丈夫なのか?」

 

 ゲイルはアヴァロンの亡命劇の裏側を知らないため、どうなっているのか事態を掴み損ねていた。

 全てが計画だったと伝えれば良いのだが、それには時間が掛かる。

 ライセイはゲイルの不安を取り除く言葉を口にした。

 

「うん。全部、終わったんだ。帰れるんだよ。皆で」

 

「そうか。帰れるんだな。それなら、早く帰ってやれ。待っている人が大勢いるだろう?」

 

「分かった。兄さん、また後でね」

 

 そういうと、ヴェアヴォルフのスラスターを噴射してアヴァロンへと向かう。

 途中ですれ違うリックディアスⅡとジムⅢに手を振ると、そのままアヴァロンのカタパルトデッキに着地した。

 MSデッキの隔壁が上がると中に入ってMSハンガーに収まる。

 

 コクピットのハッチを開いて外に出ると、突然衝撃に襲われた。

 それはネージュが胸に飛び込んできたものによるものだ。ライセイの体をきつく抱きしめたネージュが言う。

 

「ライセイ、おかえり。本当にありがとう」

 

「ただいま、ネージュ。僕の方こそ、ありがとう」

 

 ライセイもネージュの背中に手を回して、しっかりと抱きしめた。

 彼らを翻弄したネオジオンとの戦争は、この数日後、ネェル・アーガマ隊の活躍によって終結に向かう。

 時に宇宙世紀0089年1月。表舞台に上がることがない彼らの活躍を知る者は少なかった。

 

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