機動戦士ガンダムZZ外伝 亡命のアヴァロン 作:アラタナナナシ
第一次ネオジオン抗争が終結して、3ヶ月が過ぎようとしていた。
ハイドラのメインデッキには、お馴染みの2人が揃ってモニターを見ている。
映し出されているのは初老の紳士、スペクターであった。
「今回も素晴らしいお仕事をしていただき、ありがとうございます。これほど頼りになる方々は、そうはいません」
「礼なら良いよぉ。こっちはお金のためにやっているだけだからさぁ」
ローマンの返事にスペクターは微笑みを浮かべたまま返す。
「では、今回の報酬につきましては、例の口座に振り込ませていただきます」
「はいは~い。またお仕事があったら言ってね。台所事情がちょっと厳しくてさ」
「おや? 以前のお仕事で奮発してお支払いしたつもりでしたが?」
珍しく表情を変えたスペクターに、呆れ顔を見せたヘックスがローマンの代わりに言う。
「こいつ、艦を降りる奴らにしっかりと金を払ったんだよ。今までの礼金だとさ」
「だってさぁ、無一文で降ろしたら可哀想じゃん? やっぱり元手がなきゃ、やっていけないって」
「だからって、奮発しすぎなんだよ。お陰で宴会すらできなかったじゃねぇか」
不機嫌顔のヘックスをなだめるようにローマンが言う。
「まあまあ。金なら、また稼げばいいんだしさぁ。てことで、スペクター。美味しい話があったら、教えてちょうだいね」
話を振られたスペクターは、また微笑みを浮かべて頷いた。
「そうですか。では、早速ですが、ご依頼をしてもよろしいでしょうか?」
スペクターの言葉を聞いた2人は、お互いの顔を見合って拳をこつんと合わせた。
幾多の戦場を乗り越えた2人。彼ら宇宙海賊は、この後、長きに渡って恐れられる存在となった。
◇
スペクターはエゥーゴ高官と通信を行っていた。
エゥーゴの高官は、今回のディクセル艦隊壊滅のためにアヴァロンを利用することを認めた男だ。
男はネオジオンの勢力の一部を葬り去った功績で、エゥーゴでの地位を確固たるものにした。
ディクセル艦隊の件とアヴァロンの亡命の件については、緘口令が敷かれたこともあり、歴史の闇に葬り去られている。
残ったのは、それを裏で操ったというエゥーゴ高官の手際の良さで、その手腕を恐れた者達がこぞって男に取り入ろうとしていた。
自分の思い通りにいったことに満足したエゥーゴの高官と事務的な話を終えたスペクターは通信を打ち切る。
ふう、と一息ついたスペクターは、別の人物に通信を入れた。
映し出された人物を見て、スペクターはいつもの微笑みではなく、真剣な表情を見せる。
「お久しぶりです。この度は勝手な真似をしてしまい、申し訳ございません。ディクセルは、必ずやあなたの障害になると考えての行動でした。罰ならば甘んじて受け入れます」
モニターに映った人物は首を横に振って、優しい笑みを浮かべた。
それを見たスペクターはほろりと涙を流す。
「ありがとうございます。これからもあなたのために命を捧げます」
ディクセル艦隊壊滅のために裏で糸を引いていたスペクターの暗躍はこれからも続いた。
◇
エゥーゴの本部を歩くゲイル。
見知った顔の者達と二言、三言交わして本部の外に出るため、ゲートをくぐろうとした。
「ゲイル、俺らに挨拶はなしか?」
掛けられた声に反応したゲイルは、そちらに振り返る。
そこにはダンとシマンがいた。
「ゲイル中尉、本当にエゥーゴを脱退しちゃうんですか?」
シマンが悲しそうに問いかける。
エゥーゴ脱退の件については、すでに2人には話をしていた。
何度も話した結果だが、それでもシマンは引き止めたい気持ちがあるのだろう。
ネオジオンとの戦争が終わり、ゲイルにエゥーゴを続ける理由がなくなったのだ。
それに今後のことを考えての選択でもある。
「悪いな、ダン、シマン。あとは頼んだ」
「おう、頼まれたぜ。エゥーゴでの俺の活躍を聞かせてやるから、グラナダに戻ってきたときは酒に付き合えよ?」
「ああ。楽しみにしている。ダンなら、すぐにエースになれるだろう。それにシマン」
微笑みを浮かべたゲイルがシマンに言う。
「お前はもっと自信を持っていい。一人前の戦士なんだからな。お前の才能なら、ダンを抜けるかもしれないぞ?」
「あっ!? 聞き捨てならねぇな、ゲイル。俺がシマンに負けるってか?」
「その可能性があるってだけだ。お前もうかうかしてられないぞ」
ゲイルはダンとシマンの傍に行くと、1人ずつ、その胸に拳を軽く当てた。
「2人とも死ぬなよ」
「当たり前だろう。誰に言ってんだよ」
「はい。ゲイル中尉に鍛えられたんです。そう簡単には死にません」
二ッと笑みを浮かべた2人。
後に、ダンとシマンはエゥーゴからロンドベルへと、その活躍の舞台を移す。
名コンビとして幾多の戦場を乗り越えるのは、もう少し後の話である。
◇
グラナダの宇宙港のゲートの前には、ゲイルとアオイ、ライセイとネージュ、フォルストがいた。
大型のキャリーケースを持つのは、ライセイとネージュ、フォルストだ。
ゲイルとアオイは手ぶらで、ここに来ていた。
「兄さん、見送りに来てくれて、ありがとね」
「当たり前だろう。次に会えるのは、だいぶ先になるだろうからな」
「そうだね。まさか地球に行くことになるとは思わなかったよ」
笑って言うライセイ。その隣でくすりと笑うネージュ。
フォルストとネージュは今回の事件の中心であったこともあり、地球でエゥーゴの監視下に置かれることになったのだ。
ライセイも多くのことを知っており、それならば共に行きたいとスペクターに依頼したことで、地球行きが決まった。
ゲイルも一緒に行くことができたかもしれない。だが、そうはしなかった。
ライセイはもう一人前だ。俺がいなくてもやっていける。そう思って、ゲイルはスペクターに何も言わなかった。
「兄さん、来月からアナハイムでテストパイロットをすることになったんでしょ? その前に勘を取り戻しといた方が良いよ」
エゥーゴを脱退する決意をスペクターに話をした次の日、アナハイムエレクトロニクスからテストパイロットにならないかとの打診を受けたのだ。
スペクターの配慮であろう。ゲイルは、その申し出を受けたことで、テストパイロットとしての道を歩むことになった。
「そうするか。練習相手ならいるからな」
そういうと、横にいるアオイを見た。
アオイもエゥーゴを脱退し、元いたアナハイムエレクトロニクスに復帰することになっている。
「そうね。今のゲイルになら勝ち越せるかも」
「簡単に負けると思うなよ? 恋人だからと言って、手は抜かないぞ?」
ゲイルの言葉に、アオイが嬉しそうに表情を崩す。
「恋人って真面目に言えるゲイルって、ちょっと怖いわね」
にんまりと笑うアオイ。
ゲイルはよく分からない表情を浮かべるが、ライセイやネージュが笑っているので、悪いことではないのだろうと考えた。
宇宙港にライセイ達の乗る便のアナウンスが響く。
言葉を交わせる時間はもうあまり残っていない。
ゲイルは見送りの言葉を贈る。
「ライセイ、ネージュ、フォルスト艦長。皆、元気で」
「大げさだなぁ、兄さんは。またすぐに会えるからさ。手紙も出すし」
「そうだな。新婚旅行先は地球にしておく」
「新婚旅行!?」
声を上げたのはアオイであった。
頬を赤らめたアオイは、言葉を遮ったことを謝る。
「ごめんなさい。続けて」
「そうか? ライセイ」
ゲイルはすっと右手を差し出した。
その手をライセイはギュッと握る。
「またな」
「うん。またね」
固い握手を交わすと、搭乗口へと向かう3人。
シャトルに乗ったのを見届けると、アオイがゲイルの靴をこつんと蹴った。
「ねぇ、さっきの話、本当?」
「さっきの話?」
「新婚旅行!」
「怒鳴るな。行くなら地球だと考えているが、嫌なのか?」
真っ直ぐな目で言うゲイルに、アオイは恥じいながら小声で言う。
「嫌じゃない」
「ならいいが。どこに行くか、あとで話すか?」
「ちょっと待って。ちゃんと言ってよ、ゲイル。私の目を見て」
ほんのり頬を赤く染めているアオイは、じっとゲイルの目を見つめた。
ゲイルも真っ直ぐ見つめ返す。ゆっくりと口を開いて言った。
「俺と結婚してくれないか?」
人目をはばからず言ったゲイルの胸にアオイが飛び込む。
「うん。嬉しい、ゲイル」
「アオイ……」
◇
抱きしめ合った2人をシャトルの小さな窓からライセイがのぞく。
きっとプロポーズしたに違いない。ゲイルの決断の良さと早さは自分が一番よく知っている。小さくガッツポーズをするライセイにネージュが声を掛ける。
「ねぇ、ライセイ。本当に良かったの?」
「うん。僕はネージュと一緒にいたいからね。大好きだよ、ネージュ」
「私も大好き、ライセイ」
2人は口づけを交わそうとした。
「んんっ!」
フォルストの咳払いが響く。
ぎろりとライセイを見るフォルストの目は背筋が凍りそうなほどに冷たかった。
前途多難な2人を乗せたシャトルは地球を目指して発射する。
ゲイルとライセイ。2人はパートナーの手を握って、互いの人生に祝福があらんことを願う。
彼らに訪れる幸せな日々は長く長く続いた。
fin
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
亡命のアヴァロンに最後までお付き合いいただき、感無量でございます。
また別の作品で出会えることがあれば、そのときはまたよろしくお願いいたします。
ご感想などをいただけると、次の作品への意欲に繋がりますので、よろしければお願いいたします。
読者の皆様に少しでも楽しい時間を提供できたなら幸いです。
本当にありがとうございました。